#1531/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 89/ 4/ 9 19:52 ( 48)
お題>「傘」(後編) 美樹本震也
★内容
衛士達に囲まれ、二人の男が対峙していた。
狭いエアロックは、通常の作業用のものではない。
黒一色で塗られたエアロックは、儀式場の臭いが強かった。
「トムス気象委員、お前は我々の大事な資源を無駄に放出し、我々を危機に陥れた。
その罪は重い。いにしえよりの掟により、『外』に追放する」
監視総長が言い渡す執行書を、トムス爺は穏やかな表情で聞いていた。
トムス爺に近づくと、監視総長は握手を求めた。
「世話になったな、監視総長」
「すまんなトムス。できれば代わってやりたい」
「なんのなんの。子供達に夢と希望を与えるのが、わしの仕事じゃ。お前は、あの子
達を送り届ける仕事があるじゃないか。あとは頼んだぞ。しかし、わしも行きたかっ
たな」
「ああ、とうとう我々の世代には着けなかったな。わしらは行けないが、あの子達は
辿り着けるだろう」
「ああ、本物の大地、空に海、風、そして雨か……」
「あの子達にとってはいい思い出だろう。だが、本当に辿り着けるだろうか?」
「おいおい、総長。そんな悲しいことを言うなよ。わしのやったことが無駄になる」
「そうじゃあるまい。あの子達には生きる目的が必要だった。そのかけらが、できた
んだ。本物の雨の感触を味わうためにも、あの子達は頑張るさ」
「そうだな。じゃ、もう行くよ」
トムス爺と監視総長は抱き合った。
やがて気密室のドアが閉じた。スペーススーツに身を固めたトムス爺だけが気密室
の中に残された。
そして、外側のドアが乱暴に開けられた。
空気と共にトムス爺の身体は放出された。
暗黒の空間の中に猛烈なスピードで捨てられたのだ。
トムス爺を取り巻く満天の光は全て星。
しかし、その星々にはまだまだ手が届かない。どこまで行っても虚無しかないので
はないかと思ったこともある。
回転するトムス爺の視界の端に、巨大な物体が見えた。
暗黒の空間の中に光り輝くその物体は、直径三十キロの巨大な円盤に長さ十キロの
巨大な柄が付いたような形をしていた。
人工重力を発生するために回転する巨大な円盤の中が、居住区である。
そして、長い柄には、半物質と常物質の対消滅反応で推進するエンジンが搭載され
ており、今もほぼ平行の推進力を船に与えていた。
恒星間移民船は、それ自体が巨大なスペースコロニーだった。眠り続ける数万の移
民を乗せ、数世代も掛かる星への旅を続けていた。
起きているのは、数百人の船員達。彼らの仕事は数世代も続いていた。
しかし、その旅もあと僅かだった。
あと僅かで届く距離に、エリダヌス座イプシロン星はあった。
光に包まれた人工の星は遠ざかって行く。
「こんなところにも、あったとはな。でっかい傘だ」
だが、トムス爺のその言葉を聞く者は誰もいなかった。
ソラリアン達の旅はまだまだ続く。
(ソラリアン・シリーズ第二話 「スペース・パラソル」から)