#1510/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF ) 89/ 3/31 23:50 ( 84)
『雲』(7.最終話) 舞火
★内容
(7)
遠藤 隆は、ぼおっと川原に座っていた。
加藤家の葬式の帰り道。かつての同僚の打ち萎れた姿に少なからぬ衝撃を受けていた。 前日、同じ葬式という場で会話した時とはうってかわった姿。
−−−人の世界とはこうも殺伐としたもんになったのかぁ……。
わずか10歳の子供が自殺してしまうような環境。
遠藤にも同年代の子供を持っている。
だから、だからこそ……。
遠藤はやりきれぬ思いで一杯だった。
目を空に転じる。
ぼおっと見上げた空に、雲が1つ,2つ。
「ばあ」
女の子が突然視界に入って来た。
「恵ちゃんかぁ」
遠縁……母の姉のだんなさんの弟の家……の子。
佐藤 恵。
「おじさん、加藤君のお葬式、行ったんでしょう?」
「そうだよ」
恵は元気なかった。加藤は努めて明るい声を出した。
「恵ちゃんも行ったんだろ。ちゃんとお別れしたかい?」
「……うん」
恵は空を見ていた。
「どうした?」
「加藤君はね、雲の上にいるの」
「え?」
「だって、加藤君が言ったの。天国って雲の上にあるって」
「……いつ……」
遠藤は驚いて恵を見た。
−−−ということは、その時から慎君は自殺を……。
「んと、山に登る前の日……」
「って、自殺する……あわわ」
慌てて口を塞ぐ。『自殺』なんて子供に聞かせるような事じゃない……。
が。
「自殺じゃないもん、加藤君は」
恵はふくれっ面をして、大きく首を振った。
「自殺じゃないって……」
「塾の先生達も、おかあちゃんも、大人ってみんな加藤君を自殺にするんだもん」
恵は空を見上げた。
「加藤君は雲を取ろうとして、崖から墜っこっちゃたの」
「雲、を取ろうとして……」
遠藤は考え込む。
−−−雲を、取る?
「だって山を登った所ってとおってもきれいでね、雲がふわふわとほんと手の届く所に
あるんだもん。真っ白な綿のような……」
「でも、雲の正体は……」
「うん。知ってる。だけど、あそこの雲は綿みたいだったよ。手ですくったら取れそう
な位の……。だからね、あたしも手を伸ばして取ってみようって思った位だから」
「……加藤君も、そう思ったのかな」
「うん。絶対そう思ったんだ。だって雲に手を伸ばしてたから……」
「そうだった、のか……」
「先生達だって見てたのにねぇ。嘘付きだから……」
−−−事故だと責任問題になるからな……。
「慎ちゃんは、雲を、取る、のに、失敗、して、崖から、墜ちた」
ゆっくりと、遠藤は噛みしめるようにつぶやいた。
「うん」
恵は大きくうなずいた。
「今頃、加藤君は雲の上にある天国にいるのね。あたしのおばあちゃんにもう会ったか
な」
遠藤は恵を見、そして、空を見た。
空には、白い雲がぽつんぽつんと浮かんでいた。
遠藤は内心ほっとしていた。
勉強、勉強に明け暮れている子供達、だけど、それでも雲が掴めるという夢を追うこ
とができる。
まだ、夢という、非現実的な事を現実に思える位の心を持っている。
遠藤は嬉しかった。
「ほら、恵ちゃん。あの雲大きいよ」
「うん、あそこに天国あるのかなぁ」
「そうだね……」
「ねぇ、あっちの雲、飛行機みたい」
「ああ。じゃあれは?」
「えーと、りんご」
「あれは」
「ぞうさん」
「きりん」
「車」
「ぶたさん」
「お花」
そして……
「天国」
−−−−『雲』−−−−
舞火
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