#1494/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NQC ) 89/ 3/21 20: 4 ( 51)
中型倒錯小説 渇きの海(7)【虫】・・・・・・・・天津飯
★内容
いつのまにか私達は悪名高いエルム帯の悪夢に取りつかれてしまっていた
宇宙旅行者にとって無限地獄の夢を見ることほど恐ろしいことは無かった
ただでさえ宇宙旅行そのものが無限地獄に等しい悪夢なのだから
私は3日間辛抱したが3万年我慢したに等しかった
眠ることは とてつもない恐怖に変わり 睡魔との戦いが始まった
悪夢に取りつかれたことにより うかつにも
すでに冬眠カプセルに入る機会は失なわれていた
いまさら冬眠すれば 悪夢の格好の餌食となってしまう
酷く永い悪夢にさいなまれ 地球に着く頃には発狂しているだろう
私は意を決して医療資材庫に行き
冷凍庫から冷凍保存された虫を捜がした
液体窒素に漬けられた[space bug]とラベルの貼られた容器の中に
その虫はひっそりと眠っていた
危険な賭には違いなかったが取るべき手段はもうそれしか残されていなかった
容器を取り出し解凍機にかけると
容器の中の数十匹の虫は いっせいに背中に1個ある小さい目を
赤くルビーのように輝かせ始めた
奇妙な宇宙の虫
いったい いつ 誰が 何処で見つけてきたのだろう
体長10mmに満たない灰色の虫 背中の目が無ければ
みかけは 地球にいる貝殻虫のような感じだった
私達は虫をキャビンに放すと ようやく眠りについた
この虫がいれば二度と夢を見ることもないだろう
夢は全部この虫が食べてくれる
久しぶりに安らかな気持ちで眠りに就くことが出来た
キャビンに放された虫は驚くほどの勢いで増え続け
私達の躯を びっしりと覆い 埋め尽くした
いまや何千何万と増殖した虫は赤く小さい目を明滅させていたが
やがて私達の躯からぼろぼろと崩れ落ち あとには二体の白骨が残された
さらに10年が過ぎ トラジディがようやく地球に帰還する日が近づいた頃
再び虫は もぞもぞと私達の白骨に群がり うごめき 山となり
再び人の型を作りあげた
明滅する赤い小さい輝きで全身を飾られた人型は よろよろと起き上り
次第に赤い光が消え失せ やがて かさぶたが落ちるように
ぼろぼろと人型から虫が落ちていった
虫の下から美しいグレーの瞳が現れ 赤味の射した唇が現れ
まるで 泥の中からヴィーナスが現れるように
崩れ落ちる虫の下から白い陶器のようなメリーの裸身が現れた
しかし もう一体の白骨はついに起き上がることがなかった
宇宙虫による仮死冬眠は宇宙旅行者に残された最後の手段だった
生理的老化を まったく及ぼすことなく
気の遠くなるような長期の銀河間旅行を意識の上では
一瞬の内に成し遂げることが出来るのだった
しかし 人工冬眠カプセルによる冬眠と違って
必ずしも蘇生されるという保証は なにも無かった
非常の場合にだけ取られるリスクの大きい手段だった
つづく
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