AWC 「高所恐怖症の鳥達」(後編)  美樹本震也


        
#1491/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 3/20  22:14  ( 98)
「高所恐怖症の鳥達」(後編)  美樹本震也
★内容

「この大嘘つき!」
「時間がないんだから、ささ、着替えて着替えて」
「詐欺師、ペテン氏、口先女、鬼、性悪女、ブス、悪魔、魔女……」
「はいはい、よくそれだけ単語知ってるわね。はい、ファスナーを上げてっと。いい
感じよ。どう息できる? 大丈夫よね。せいぜい五分しか出演時間ないんだから。は
い、できた。うん、似合うわよ。どこから見ても立派な怪獣よ」
「ばかやろーっ!」
 全身が紫色でピンクの目玉が六つ、四枚の羽が生えた怪鳥が叫んでいた。
 幸平である。
 役を聞かなかったのは、明らかに幸平のミスである。
 美智子の後ろでは、桑田がウルトラマンのぬいぐるみを着ている最中だった。
 その桑田を野村章子は、甲斐甲斐しく世話をしていた。それは、どう見ても恋人の
仕種に見えた。幸平はカーッとなった。男のジェラシーだった。
ルトラマンに倒される役だ。美智子は女性科学者ときた。
 ちくしょうーっ。やってやろうじゃないの。悪い怪獣なんだから、うじゃうじゃい
る餓鬼どもに、怪獣の恐ろしさを思い知らせてやる。
 幸平は講堂の舞台の裾で、きゃーきゃーと騒いではしゃいでいる幼稚園児を覗いて
決意を固めた。

 さて、舞台が始まった。幸平の出番だ。
 ストーリーもくそもない。紙で作ったペラペラのビルの絵を引き千切り踏みつけて
暴れるだけの話だ。
 だが、子供達は結構、それを見てきゃっきゃっと喜んでいる。
 幸平扮する怪獣が暴れているところに、章子隊員と美智子博士が登場。怪獣に攻撃
するが、怪獣は一向に堪えない。
 いよいよ怪獣の反撃。幸平は章子ではなく、美智子に迫った。
 迫ってくる怪獣のぬいぐるみに、美智子は慌てた。
「ちょっとおーっ。台本と違うでしょ」
 幸平は、美智子の頭を手でぶん殴り、体当たりをかました。
「痛いじゃないの! 止めて、止めてよ。そんなの台本に書いてないでしょっ」
 揉み合っている内に、幸平の怪獣の爪が美智子のブラウスに引っ掛かって、ボタン
が飛んだ。以外に大きい胸の膨らみがポロリと覗いた。勿論ブラジャーをしていたが、
ぬいぐるみの幸平の目の前である。幸平の目は美智子の胸に釘付けになった。
 その時である。
「ウルトラ・キーック!」
 空中を飛んだ桑田扮するウルトラマンが、幸平の着たヌイグルミを蹴飛ばした。あ
っという間に、幸平は講堂の舞台から客席に落ちた。幼稚園の舞台は子供達のことを
考えてせいぜい数センチの段差しかなかったが、ぬいぐるみを着ていた幸平は、バラ
ンスを失って倒れた。
 目の前が真っ暗になって幸平の意識は途絶えた。

「こうへい、こうへい、ねえ。幸平、大丈夫?」
 ぼんやりとする視野が天井の明かりを捉えた。その明かりの前に影が揺れていた。
「う〜〜〜ん」
 頭がぼやーとしていた。幸平はベッドに寝かされていた。
「大丈夫?」
 じっと覗き込んでいる美智子の心配そうな顔があった。
「このやろー」
 幸平は、半身を起こしたところで頭がクラクラとして、再びベッドに横たわった。
「だめよ、まだ。脳震動盪起こしてんだから、じっとしてなきゃ」
「ここ、どこ?」
「幼稚園の医務室よ」
 美智子はベッドの脇机に置いた洗面器の水に、タオルを浸すと固く絞り、それを幸
平の額に乗せた。
「みんなは?」
「先に帰って貰ったわ」
「そうか」
「何時間経った?」
「一時間かな」
「そうか」
「幸平が無茶するからよ。御陰でブラウスが台無しだわ」
 美智子は、自分の胸元を見せた。ボタンが取れ、少し裂けたブラウスを着ていた。
「お前、まだ着替えてなかったのか?」
「そんな暇、ある訳ないでしょ。幸平は気を失っちゃうし、皆あわてて大騒ぎ。でも
子供達は喜んでいたわよ。幸平がひっくり返ったのは演技だと思ったのね」
「そうか、良かったな」
「でも、子供達が言ってたわ。羽があるのに飛べないって。あなたのことよ」
「けっ、あんなもの着て飛べるもんか」
 半時間ほどして幸平が起き上がると、美智子と二人で医務室を出た。

 夕闇が迫っていた。
 二人は川縁の土手の上を歩いていた。
「美智子、聞きたいことがあるんだ」
「何よ。あらたまって」
「野村章子のことだけど……」
「説明する必要ないでしょ。見たんだから……」
「そうか、それじゃ。桑田とできてるのか」
「やな言い方。あの二人、まだ清い関係だって章子が言ってたわよ」
「お前の方が嫌な言い方だ。あ〜あ、また振られちまった」
「幸平、どうして、いつも女の子に振られるのか、その訳知ってる?」
「なんだよ。俺に欠陥でもあるって言うのか?」
「欠陥と言えば欠陥。思い切りが悪いのよ、幸平は。もう一歩踏み込まなきゃ」
「どういう意味だ」
「押しが足りないって言うのか。臆病って言うのか。昔っから、そういうところがあ
ったもんね。現代の女の子をものにしようっていうなら、もっと逞しくなきゃね」
「だから嫌いなんだ……」
「えっ?」
「どうして、お前はそんなに俺のことに口出しするんだ」
 美智子は立ち止まった。幸平も立ち止まる。彼女は幸平の顔を見つめた。
「あなたが一人じゃ飛べないからよ」
 一人で飛べない……? 一人で………。あっ! 幸平は思い出した。
 『だいじょうぶ。私がついてるもん』
 美智子はにこっと笑うと走って行った。
 長い髪をなびかせて…………。
 彼女の頭上、遙か上空、夕焼けの空に鳥の翔ぶ姿があった。
 明日は飛べるかも知れない。幸平は美智子の後を追って駆け出した。
                                 (おわり)




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