AWC 実録「カラオケ屋」     美樹本震也


        
#1488/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 3/17   6:16  ( 79)
実録「カラオケ屋」     美樹本震也
★内容
              実録「カラオケ屋」
               作 美樹本震也

 世の中には、カラオケが非常に好きな連中がいる。
 いつの頃から、この「カラオケ」なる言葉がはびこってきたのか。
 「カラオケ」とは、元々は業界用語で、オーケストラだけの歌の入っていないマス
ターテープを言っていたと思う。
 レコード会社が曲をレコーディングする際、歌手抜きのスタジオミュージシャンだ
けで、この「カラオケ」を作っておく。
 後日、売れっ子の歌手がスタジオにやってきてレコーディングの時、ヘッドフォン
を付けて、マイクの前で独り歌うのである。
 かっては音合わせなるものが存在したのだが、現在では歌手の方に幾らでも音を合
わせられるミュージックコンピュータとでもいうような編集装置がある。
 何やら虚しい感がしないでもない。
 だから、カラオケなどという言葉を民間人が知っている筈がないのである。
 では、なぜカラオケという言葉を素人が知る羽目になったのか。
 私の記憶では、十年以上前、週末にFMで、作曲家のすぎやまこういちが司会をや
っていたベストテン番組があった。
 彼がある日、番組の中で、まだレコーディングしていないマスターテープを放送し
たところ、聴取者から「また放送してくれ」という注文が殺到し、それからこの番組
の目玉商品の一つとなった。
 当時は山口百恵やらピンクレディやらの全盛期であり、彼女らのカラオケが週末に
なるとFMで流れ出したのである。
 そうこうしている内にカラオケが街に出るようになったのである。
 飲み屋に行けばカラオケ、スナックでカラオケ、旅館、ホテル、合宿所、保養所、
一般家庭など。今やカラオケのない所を探す方が大変である。
 最初の頃のカラオケは、馬鹿でかい箱の装置で、車載用の8トラックテープデッキ
を利用していた。
 それが、次第に16トラックになり、昨今の流行ではレーザーディスクまで登場し
ている。
 大手の電気メーカまでがカラオケシステムを発表する始末である。

 さて、少し古い話である。
 昨年の年末、会社の同僚から聞いた実話だ。
 歳の暮れ、酒場を転々と巡り、カラオケの店の梯子をしていた二人の某課長。
 既に夜の十時を回っていた。
 新宿界隈のメインストリートから、少し外れた裏通りをよたよたと歩いていた。
「つひ、つひ、行ほう!」
「ほーし、つひはらにを歌うかなー。ぎんらのほいのほのはたり(作者中:『銀座の
恋の物語』である)」
「それ、さっき歌ったれひょ。ほれは、そうらな『もしもぴえろがひへたなら』」
「らにいっへるんへす。それらっへ、さっひ歌ったでしょ」
「ほれっ、このあはり、人通りがすくらいら」
 一人の課長が言った。
 なるほど、ネオン街とはかなり外れているし、かと言って連れ込み宿の暗い通りで
はない。
「店がないなぁ」
「いや、ほらっ。あそこ、かんぶぁんがある」
「おお、あったあった。でもなんらか、陰気らなあ。今時、照明のないかんばんなん
て、へんらなあ〜」
「れも、『カラオケ』ってかんぶぁん、出てる」
「だいじょうぶらぁ〜。行ってみよう〜」
「おおーっ!」
 二人がビルの近くまでやってきた。
「おやっ?」
「なんらこれっ、せまいかいらんらな〜」
 二人がカラオケという看板を見つけたビルは、五階建ての典型的雑居ビルで、看板
はビルの四階辺りに出ていた。
 ボロビルであり、エレベータもない。
 二人の酔っぱらいは、よたよたと狭い階段を歩いて登って行ったのであります。
「なんやら、変な所だな〜」
 四階の階段に面したドアに「○×カラオケ」という看板が出ていた。
「まあ、とにかく、はいろう、はいろう」
 そして、ドアを開けた。

 薄暗い裸電球に照らされた室内には、二人の男がいた。
 俯いて仕事をしていた鼻眼鏡を掛けた中年の細面の男は、作業の手を止め、二人の
思わぬ珍入者を睨んでいた。
「何か、用ですか?」
 ぶすっとした男の口調に。
「い、いえ、いえ、その、…………………………………………………失礼します」
 おどおどした調子で、酔っぱらい達は答えると、一目散に逃げ出した。
 二人の酔っぱらいが帰ると、鼻眼鏡の男は、再び半田ごてを握った。
「年の瀬だっちゅうのに、仕事が溜まっとる。あんな酔っぱらいのために、仕事して
るかと思うと、胸糞悪くなる」
「おいおい、あんな酔っぱらいがいるから、わしらのおまんまのタネになってるんじ
ゃないか。わしら、零細企業は大手のような大量生産はでけんからのう」
「ああ、分かってるさ。さあ、今晩中に、あと二セット仕上げなきゃな」
 男達は、再びカラオケセットに向かって、仕事を始めた。




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