#1480/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 89/ 3/12 21:19 ( 99)
「宇宙軍の勧誘」 美樹本震也
★内容
「宇宙軍の勧誘」
作 美樹本震也
そいつは奇妙な手紙だった。
のたくったような字が、金属のような紙の上に連なっていた。
<あなたも宇宙軍に入ってみませんか?>
こんな手紙を出す奴は決まってる。
ジョーイはその奇妙な手紙をごみ箱に捨てると、家を出た。
「ジョーイ、ジョーイ。待ってよーっ。凄い、凄い、ビッグニュースだ」
デブのディックが肉をだぶつかせて、学校に通じる坂を駆け下りて来た。
「マーチンが、凄いんだ。とにかく、大変で、物凄くて、なんて言うか」
ディックが大袈裟に両手を振り回す度に、彼の背中の小さなバッグが踊った。
「落ち着けよ」
ジョーイはうんざりして言った。
「マ、マーチンがさ、一昨日の夜、家の裏で、う、宇、宇宙人と会ったんだって」
「その宇宙人ってのは、背丈が一メートルくらいで、目が大きくて、鼻が無くて、小
さな口と大きなとんがった耳を持った、全身が緑色のやつなんだろ」
「ど、どうして、知ってんだよ。僕とマーチンだけの秘密だと思ってたのに……。酷
いや、マーチンの奴、ジョーイにも話したんだな。絶対、二人だけの秘密にするって
約束したのに……」
ジョーイは首をうなだれて、左右に数回振った。ついてけないや。
「ディック、いい加減にしろよ。お前、あいつに担がれてれんだ。マーチンは、頭が
いいかもしれないけど、少しまともじゃないんだ」
「だけどさ……。マーチンが言うには……」
まだ何か言いたそうなディックを残し、ジョーイは学校に入った。
「ねえ、ジョーイ。マーチンが今日、学校休んだの。病気かしら?」
家路に向かうジョーイは、マーチンと同じクラスの近所のマリーと一緒だった。
「さぼってんじゃないのかな。あいつ、よく学校さぼって、研究室に籠もってるから
ね。変わってるよ」
「でも心配だわ。ねえ、研究室に行ってみましょうよ」
本当は嫌だったが、マリーに誘われたので、ジョーイはオーケーした。
夕食を済ませ、家を抜け出した二人が、マーチンの研究室で落ち合った頃には、とっ
ぷりと日が暮れていた。
納屋の周りの草むらでは、虫がチーチーと鳴いている以外に物音はない。
マーチンの「研究室」とは、彼の父親がやってる農場の古い納屋の二階にあるガラ
クタ置き場のことだった。その屋根の上では、大きな中華鍋で作ったマーチン自慢の
パラボラアンテナが、満天の星空に向いていた。
「おかしいな?」
「何よ、急に」
マリーが怖そうにジョーイの腕にしがみついた。
「明かりが点いていない。いつもマーチンは、あの二階にいる筈なのに……」
大きな納屋は真っ暗で、空の街明かりをバックにそびえ立っていた。
「行ってみましょうよ。せっかく、ここまで来たんだもの」
ジョーイは手に持った大きなハンディライトを付けた。サーチライトのように強力
な光が闇を切り裂いた。その光の中に、納屋の二階に上がる梯子段を見つけた。
ジョーイがまず二階に上がると、マリーのためにライトで照らしてやった。
「気味悪いわ」
梯子を登り切ったマリーが小声で囁いた。
ハンディライトで照らされた納屋の中には、古臭いラジオ、動かない大時計、汚い
馬の鞍、小さな錨、鏡筒が凹んだ天体望遠鏡等が雑然としていた。
納屋の真ん中の大きな木の作業机の上には、金床やハンドドリル、ラジペン、ヤス
リなど、いろんな工具が散乱していた。おが屑や金屑の中に、作り掛けのラジオや壊
れたパソコンが乱雑に置かれていた。
「マーチンは何を作ってるのかしら?」
「さあ、宇宙人と話のできるラジオかな」
「キャーーーーーーーーーッ!」
マリーの悲鳴が静けさを破った。
ハンディライトの中に浮かび上がったのは、床に倒れている人間の姿だった。
「こんなとこで何してたんだ!」
「だってさ〜。マーチンが今日、学校に来なかったんで、どうしてるかって探しに来
たんだよ。そしたら、そのまま寝てたみたい……」
眠そうな目を擦りながら、マーチンは二人に説明した。
ジョーイとマリーは、目の前のでぶのディックの姿にがっかりしていた。勿論、マ
ーチンじゃなかったからだ。マーチンはどこにいったんだろう?
「あらっ? これ何かしら……」
マリーが工作机の上から何かを取り上げた。
それは薄い金属光沢の紙だった。ジョーイがごみ箱に捨てたやつと同じだった。
<あなたも宇宙軍に入ってみませんか?>
「僕にもこの手紙が来たよ。捨てちゃったけどね」
「なんてことするんだい、ジョーイ。これは、宇宙軍からの誘いだよ。本当だよ。本
物の宇宙軍からの誘いなんだ。君とマーチンは宇宙軍にスカウトされたんだ」
「ディック、いい加減にしろよ。これはマーチンの悪戯なんだ。きっと、あいつはど
こかに隠れて、僕らを笑ってるんだよ」
その時である。窓から納屋の中に強烈な光が差し込んだ。赤や青、緑、ピンク、様
々な光線が納屋の中を交錯した。
三人は窓に走り寄った。納屋の上空にとてつもなく大きな物体が浮かんでいた。
それは今時、SF映画やコミックの中でも見られないような不格好な巨大宇宙船だ
った。船体は、ブリキの板を継ぎ接ぎした玩具のようにリベットの頭が並び、丸い窓
からは色とりどりの光が漏れていた。
「だせえ〜〜」
隣のディックの呟きをジョーイは聞いていた。
チョロチョロと赤い炎を吐き出す大きな宇宙船は、小高い丘の上空を越えると、急
にスピードを上げて西の空に消えていった。
その時、マリーが持っていた薄い金属の手紙も、忽然と消えてしまった。
次の日、ジョーイ達は学校で興奮してその話をしたが、誰も信じてくれなかった。
それどころか、友人達は声を揃えてマーチンのことなど知らないと言った。
その上、マリーのクラスのマーチンの机が無くなっており、クラス名簿からもマー
チンの名前が消えていた。
驚いた三人が訪れたマーチン家の人々は、マーチンなんか初めからいなかったよう
に生活していた。
とうとうマーチン・リスナーの名前を覚えているのは、ジョーイとマリー、それに
でぶのディックだけになった。
例の納屋はまだあったが、マーチン自慢のアンテナやガラクタは無くなっていた。
晴れた夜、三人は納屋の窓から、星空を見上げることが多かった。
マーチンは本当に宇宙軍に勧誘されたんだろうか。
今度あの手紙が来たら、大事にしようとジョーイは思った。
....