#1475/1850 CFM「空中分解」
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★Mergeing!Mergeing!!2★《16》L142
★内容
15
《大団円》
(下)
何もかもが闇の世界だった。そして上下左右あらゆる方向に意味がなかった。ここに
存在するのは彼女しかなかったからだ。彼女は情報処理高等学校時代の制服であった紺
のブレザーを纏って、そこに浮いていた。彼女の体からは光粉がさんさんと降り出てい
てそれがこの闇を照らす唯一の光源だった。彼女は手の平を目に近付け、それを見定め
ようとした。
その瞬間だった。遥か彼方から青い稲妻のような閃光が彼女めがけて走った、音もな
く。彼女はそれに対して驚きはしたが、恐怖は無かった。何故ならそれはよく知ってい
る人間だったからだ。閃光は彼女の手前でとまると、中村より少しばかり大きい楕円を
形成した。小さい稲妻の放電が彼女を照らし出す。触手のようなそれは彼女から出る光
粉に触れようとしているようだった。
やがてそれは段々と人の体になっていった。形を形成すると、ドット単位に着色され
てゆく。6:4分けをした、細い目の顔。意外にしっかりした体つき。どことなくそれ
は羅清仲右衛門を思わせるものがあった。それが完全に固体化すると、彼女は手を伸ば
そうとした。当然のことだ。何故なら彼女は−−−−
しかしそれは無理だった。彼女が触れようとしたとき、その間で強力な爆発が起こっ
たからだ。彼には触れることがかなわぬらしい。その事実は彼女を落胆させた。
「大家さん、もう時間が無い。」彼は優しかった、これまでになく。「全て説明した
いんだ、これまでのことを。」
「もう、時間が無い?」
「僕は3年前車に引かれ死にかかった。しかしどうしても生きたかった。当然なことだ。そしてちょうどそのとき、貴方も意識不明状態になっていて、どういうわけかシンクロ
「どちらかといったら、それは喜ばしいことだよ。」橋本は細い目を一層細くした。「
人間の魂とか個性というものはプログラムなんだ、という結論を3年前に出したよね。
人間というシステムを保全しようとする高等なプログラム。第1の目標が“システムを
最高の状態に保つ”という。」
「ええ。」
「だからこそ、“死にたくない”という僕と“助けて”という貴方がマージングしたん
だと思う。しかし、このシステムにも1つのプログラムで十分なんだ。」
「何を言おうと−−−−」
「貴方には黙っていたけれども2年半前ぐらいから、僕は口を使えるように練習をして
いたんだ。その頃からだった、例の発作が始まったのは。」
「………」
「初め、僕にはそれが何の意味か分からなかった。ある種の警告であることが分かった
のはもう既に自分の運命が決定してしまったつい最近の事だった。」
「………何だか恐いわ。」
「システムを保全するプログラム。それが個性。しかし、システムを操る別のプログラ
ムが存在していて、自分のシェアを圧迫しようとしていたらどうだろう。それを取り戻
そうというのが本能だろう。プログラムを破壊したり邪魔したりすることはシステムを
攻撃するのも同じだから、それに対する防御があっても当然だ。僕が口を使えることに
しようとしたことに対するあなたの警告だったんだ。」
「私………そんなする事するわけない!。」高校生に戻っている彼女は叫んだ。
「いや、貴方なんだよ、中村さん。貴方の一部分が私と確執を繰り返していた。もとも
と劣勢プログラムである私は優勢プログラムの貴方にかなう訳がなかった。一時は本当
に存在が消えかかったこともある。しかし、私にはまだ仕事があった。だから復帰した」「もう、やめてよ、そんなこと。いつも通りになって−−−−」
「もう貴方は普通に戻るんだ。」
「そんなの絶対にいやよ!!」
「昨晩、貴方が意識が無くなったとき、私は再び“100%”の力の開放を行った。そ
のとき、貴方のプログラム化にある全ての命令系統を奪い、体を操れるようにした。杉
丘と戦うつもりだったんだ。しかし、女の体を操るのは初めてでね。」彼は冗談のよう
に笑った。「うまいこと動かせなかった。絶体絶命かと思ったとき、ある男が姫を助け
にきたんだ。」
「もしかして………」
「そう、羅清くんだった。彼は君のことを好きだと絶叫し、杉丘を打ちのめした。おそ
らく彼も“開放”が起こっていたに違いない。」橋本は真顔に戻った。「システムの全
面的侵略を行ってしまった僕はきっと抹消されるだろう。あるいは貴方に吸収されるか
もしれない。そして僕には立ちむかう力がないし、その気もないんだ。もうそろそろ、
この体を本来所有すべき人にもどさなくっちゃと思っていたんだ。」
「戦ってよ。私を守ってくれたときのように!!」
「3年間、どうもありがとう。」間借り人は静かだった。「死の向こうには何も無い。
ただ、ものがなくなるだけなんだ。天国や地獄などといったことはプログラムが精神的
システムを安全にさせようとして造りあげた虚無なビジョンだったんだ。僕にはそんな
ことをする必要が無い。守るべきシステムがないからね。僕は、自分が分解されてゆく
ことを誇りに思う。」
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「大家さん、さようなら。」
「待ってよ、家賃まだ払っていないわ!!」
「………意識が無くなってゆ………もう、分からない………さよう………なら………僕
の………す………き……だった……………………………………………………………ひと
……………………………なんで、僕は………………このひとから…………………………
離れにゃならんのだぁあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ……………」 彼が目映いばかりの光を発した。それは光の爆発だった。彼女をも噴き飛ばすような
勢いさえあった。それは闇を完全に無くしてしまうかのようだった。しかし、変化が起
こった。膨脹をしていた光球は急激に収縮し始めた。まるで橋本が死んでゆくかのよう
に。
白色わい星のように光球は強力な引力が存在していた。周りじゅうの微粒子を凄い勢
覆っていた闇さえも吸い込み始めた。激風が吹き荒れる。闇は彼に突入する際に爆発を
繰り返し、彼の周りで稲妻を生じさせた。あらゆるものが彼を押し潰そうとしているか
のようにも感じられた。
再び爆発が起こった。今度は彼女を取り巻く空間からだった。それは燦然と輝き出し
中村を優しく包んでいった。羊水のごとく。そして、そのとき、橋本智樹は光の速度の
数千倍の早さで彼女の視界から消え去った。
結局…………告げることが出来なかった………私がいろいろと恋に迷ったのも………
杉丘さんに動いたのも………貴方との出会いの意味を確かめたかったの………ベッドの
上で告げようとした名は勿論貴方だった………3年間一緒にいて、ようやく分かりかけ
たというのに………独りになるなんて………私は耐えられない…………絶対に…………
「家賃を払っていってよォ、貴方の愛という!!」
彼女にも記憶の裂化が始まった。断片的な思いは次第に小さくなってゆき、彼女の意
識も周囲と同様に光に−−−−
「私は貴方がすきだったのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
突如中村が飛び起きて絶叫をした。そばにずっと付き添っていた羅清は彼女の肩を抱
いた。
階下で“うるせーぞぉー”という声が響き渡った。
「大丈夫………ここは私の部屋です。」彼は必死で声を掛けた。「夢………ですか?
彼女は周囲を見廻した。そしてほっとするのと同時に怒涛の感情の渦が襲ってきた。
中村は彼に抱きついた。そして彼の胸の中で泣いた。とめどもなく出てくるそれを羅清
の方でも必死に受け止めた。
「彼が………彼が………彼が!!」
「はい。」奇人は彼女の背をさすった。「全て出してしまいなさい。」
「私は止められなかったわ…………この世で一番好きな人を………失ってしまった。告
げることもなく………。」
「………」
「私はこれから独りで生きなくちゃあいけないの。私のことを理解してくれる人なんか
………。」
“それは違う。”
“え?”彼女は意識を疑った。確かにこの声は……
“君の目の前にいる………ではないか”それは頭の中にBGMとして響いた。
「中村さん」羅清はあのことを話そうと思った。「貴方の………もう独りの人に会い
ました。」
そのときの彼女の顔は恐怖というよりも驚異の顔だった。やがてそれは和やかなもの
となっていった。涙がこはく色の奇麗な筋を彼女の頬に形成していた。
「そう。」中村は嬉しそうに言った。「橋本くんに会ってくれたの。」
そして彼をぎゅっと抱きしめた。
外界からはカーテンの隙間から朝の第一光が差し込んできていた。まるで、新世界を
照らし出す可憐なオーロラのように。
FIN
『どうも、長いの読んで下さってありがとうございます!』
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カナリ ギョウトビ シチャッタナァ~