#1470/1850 CFM「空中分解」
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☆Mergeing!Mergeing!!2☆《11》L98
★内容
11
この物語の登場人物全てが長いと思った夜は明けた。まさに彼らにとって運命のター
ニング・ポイントである。個人としてはどうしようもない時間の流れをここにきて、彼
らは感じているに違いない。
藤田は早速行動を開始した。大学で根気良く中村で待ち続けた。と、中村は小さくな
ってやってくるではないか。まだ、そうやって隠れている気なのね。でもね、事態はそ
んな悠長じゃないのよ。
彼女は中村の目の前に立ちはだかった。
中村はそのとき、ビクッと一瞬震えた。藤田の胸は早鐘のように響いていた。数日話
さないだけで、こんなにもなってしまうものだろうか。ささいないき違いが、大きな壁
として成長しきってしまったのである。はたして、意志疎通が可能なのであろうか。微
かな不安が彼女を過った。
「おはよ!」藤田から口火を切った。「久しぶりねぇ」何だか変な言い方である。
「………ごめんなさい!」中村は悲痛な声を発し、頭を下げた。「悪戯のつもりだった
のよ。いつも貴方が突っ込み役だったから………たまにはやってみたくなって………」
「ゆ・る・さ・な・い」
「え?」彼女は不安気に顔を上げた。「許してくれないの?」
「うん。」藤田の長い髪が風に舞う。「こんなに事がこじれちゃったひとつの原因は貴
方にあるんだからね。」
「………」
「でも、全力で解決しようとしている人間がいるのよ。」
「誰?」
「羅清仲右衛門くん。」彼女は中村と並んだ。「貴方、なんか変に誤解しているンじゃ
ないの?あのね、橋本くんという人のことは私が教えたのよ。」
「涼子が?」
「そう。孝子と杉丘の間に入る大儀名分としてね。」
「………でも………」
「彼は必死だった。一生懸命やって裏目に出ちゃったけれどもね。」藤田は相手の灰色
の瞳を見入った。「孝子、貴方しか決断は出来ないのよ。今日は。しっかり、考えてね。どっちにしても、今日で私達の状況は決定するのだから。」
「………涼子ぉ………」
彼女は友人の肩を優しく叩いてやった。彼女は嬉しそうに体を寄せた。
杉丘には微かな罪悪感が漂っていた。
何故だ。俺が悪いことをしたというのか。大体こういったことに悪いもへったくれも
ないのだ。きっと、俺は不安に震えているに違いない。何故不安がる必要があるのだ。
数多くこういったことをやってきたではないか。もともと、俺は何の為に???
「羅清め!!」
彼は意を決するために宿敵の名を吐いた。しかし、奇妙なことに敵意ではなく、親近
感に近いものが浮かんだのである。
“やっぱり、人のことを見抜ける奴なんていうのはいなかったんだよ。”
“………もう、反省しているんだからいいじゃない。”
放課になっても彼女はまだ残っていた。7時には、ラグランジュというレストランで
杉丘と会わねばならない。それを実行するか、どうか、まだ決めかねていた。彼女のい
る図書館の一角はあいかわらず薄暗い。しかし、その薄暗さが外光とうまい具合に調和
して趣ある風景を作り出していた。中村も、橋本も、この場所がとても好きだった。
“どうするんだよ、行くのか、行かないのか”
“そんなに早さないでよ”なんでこの人ははっきり止めてくれないのだろう。“ねぇ?”“何?”
“私の事、気になる?”
“何言ってんだよ、そういう状況じゃあねえだろう!時間がないんだぞ!”
“あと3時間もあるわ”彼女は自分が見るというよりは、彼に見せるという感じで時計
を見た。“正直なところ、よく分からないのよ。”
“はぁ?”
“杉丘っていう人は出会ってからまもないし、羅清くんも同じようなもので………。人
間てそんな出会いしか出来ないのかしら。あまりに急過ぎるのよ、何もかも。それで、
相手を選ばなくちゃならないなんて!”
“しょうがないさ。今回の場合は多分それぞれに特殊な条件があるから−−−”
“そうじゃなくって、私がいいたいのは長く付き合っているうちにあるとき分かるもの
なんじゃない、そういうことって。”
“かもしれない。だけれども−−−”
“どうして『だけれども』をつけるわけ!!”彼女はじれったくなった。“私が言いた
いのはね、”
“行くつもりなんだろ”
“え?”
“杉丘の誘いにのるつもりなんだろ?”彼は穏やかだった。“大家さんの事だもんな。
間借り人は口を出すべきじゃあねえんだろうな。”
“ねぇ………”
“頑張れよ”
何よ、あんたに頑張って欲しかったのに!彼女は腐った。
ラグランジュはしゃれたレストランだ。きらびやかな照明と光を交錯する様々なシャ
ンデリアが天井にぶらさがり、赤と金を基調とした店内を演出していた。広いつくりの
ために、テーブル間はゆったりとしていた。プライベートが守られているのだ。シーン
と静まりかえったところよりも、こういう少しにぎやかでしかし話をききとれないとい
う方が話し易いというものだ。杉丘は満足気に微笑みを浮かべた。
カランというドアベルの音がして誰か入ってきた。紺のスーツに、白のブラウス。銀
のネックレスがきらりと輝く。髪をひっつめで纏め、とても清楚だ。黒いストッキング
の足に黒いパンプス。左手で持ったハンドバックも黒に近い色だ。そういえばスカート
のベルトのヘッドは輝いていることから銀か金色なのだろう。これがあの中村孝子なの
か。藤田よりも着こなしているではないか。
ボーイに尋ねている彼女に向かって手を上げる。彼女はすぐに気がついてこちらに足
を進ませた。彼はその間に腕時計をサッと見やった。7時0分25秒。25秒の遅刻は
計算されたものなのかな。彼はふふんと笑った。
「どうも」中村はにこやかだ。
「どうぞ。」彼は椅子を進めた。「まずは腹こしらえといきましょう。ここは美味しい
ですよ。」
「私、こういうところあんまりきたことないんです。」
「大丈夫。」
「今日は、お願いします。」女はぺこりと頭を下げた。
「楽しい夜になることを約束しますよ。」男の目には感情が無かった。
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