#1462/1850 CFM「空中分解」
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☆Mergeing!Mergeing!!2☆《3》L129
★内容
3
“全くあんたのせいよ!!”
“どぉーしてぇ?”
“あんたが去年、社会観察部の部誌を買おうなんて気まぐれをおこさなかったら………
あんたが、作品投稿なんかしなかったら………もう!!”
“そんなに嫌なのかよぉ!”
“もしばれたらどうするのよ!”
“そしたらそしたらだよ。”
“なに呑気なこといってんのよ!2重人格と噂が立ったら!!”
“ま、否定はできまい。2つの人格がRuningしているんだから。”
“もう………”
“よく考えてみろよ。あの羅清くんだっけ?とにかく、あの人が、仮に万が一偶然たま
たまひょっとして気がついていたとしてもそんなことを信用する人間が何処にいるって
んだ。とうの本人の俺らだって、現状確認をするまでに時間がかかったじゃないか。そ
れにだよ、あの言い方では気がついていないよ、絶対に。”
“………そう言い切れるかなぁ〜”
“本人が弱気でどうするんだよ!”
“う………うん………”
藤田の後ろを歩きながら彼女らは先程のことについて討議していた。橋本は大丈夫だ
と言い切っているのに対して、中村は絶望視していた。彼の言い分は分かるのだが、理
屈にはない恐怖感があった。性格とかよりも、それが羅清を避けたいという動機である。 「ねぇ、ちょっと寄っていきたいんだけれどもいい。」と、藤田が指したのは緑色の
雑居ビル。B1部分に、かなり大きなレコード・ショップがあるのだ。
「う…うん。」突然話しかけられたので言葉がつまりがちだ。
階段を下るとネオンで飾られた鏡張りの奇麗な入口が待ち受けている。カシューとい
う音とともに自動ドアが開き、彼女らを迎え入れた。有線放送ががんがんかかっている。殆どがCDで、それが壁一杯にびっしりとあり、それでもまだ足りないとばかりに、フ
ロア全面に、書店のように棚が整然と並んでいた。レジは入口に1つあるだけで、なん
となくアンバランスさを感じさせる。客は結構入っていた。
藤田は棚の間をすり抜けながら奥へと進んでいった。藤田涼子というのは本と音楽に
かけては凄く幅広いものがある。深さも普通レベルは軽くこなしているのだから凄い。
中村は藤田に勝てるのは唯一映画だけだった。これはながらく続けてきた趣味だったの
で、深くなりつつあるのだ。もっとも、SFの理論となるとあちらの得意分野になって
しまうのだが。
“今日はなんだろうねぇ〜。”
“さぁ〜。気まぐれな奴だからね。”彼女は友人を遠目に眺めた。“しかも金持ちだか
ら、何でも手が出せる。”
中村は藤田が決めるまでに適当にそこいらのCDを手に取っていることにした。CD
も依然に比べて安くなってはきているが、ほいほいと買うわけにはいかない。彼女もア
ルバイトを当然しているのだけれども、その目標はバックライト(白液晶)方式のワー
ドプロセッサであるので、小さい買物を控えていた。もともと、藤田と同じように文を
書いていたのだ。あ〜あ、こんな状況じゃなかったら、あいつに進められるまでもなく
サークルに入るのになぁ〜。
“あれ、誰?”考え事をしていると橋本が話しかけてきた。
“煩いわねぇ………あの人?見たことないわねぇ〜”
見ると藤田の脇に背の高い、スポーティな感じの男がたっている。刈り込まれた後頭
部が涼しげだ。着ているものもなかなかのセンスで、藤田と並ぶとファッション雑誌の
ようだ。これに比べたら羅清なる奇人はセンスが全くないと言える。
“友達なんじゃない?”
“でも、涼子さん、嫌がっているみたいだぜ。なんども手を振り切っているし……?”
“そぉ?”
“わかんないの、あんた鈍感な女だねぇ!”
“わっわかるわよ!”この上、頭の中の住人にまで馬鹿にされたら堪らないわ!“涼子
とあの男がいい関係だってことぐらい!”
“そしてこじれているということもね”間借り人が付け加える。“なんとかしてやれよ。友達だろ”
“へへぇ〜ん”
“なんだよ”
“さっきまで私を苛めた罰だ。茶化してやろぉ〜”
“おいおい………”
中村は自分の思い付きに満足して、彼女の方へ歩き出した。涼子め、いつも攻めに撤
しているから、こういうチャンスは逃しませんわよぉ〜ん。さ、日頃のうっぷんはらし
ましょっ!
「そんなにあしらうことねえじゃねぇか。」
「あしらってなんかいないわよ。ただ、あんたという人間をよく知っているから、それ
なりの態度をしているだけ。」藤田はキッとにらみ返した。しかし、相手の男はひょう
ひょうとしていてそれがどうしたといわんばかりの表情。
「俺の何を知っているってんだい?」
「みんなよ!」
よりによってどうしてこんな奴と会っちゃったんだろう。もしかしたら、こいつが私
を探していたのかもしれない。素知らぬふりでやって来やがって!店じゃなかったら振
りきれるところなんだろうけれども………。それに孝子がいる。孝子を呼びにいって、
外へ出るまでに捕まるだろうし、強引に騒げば迷惑になるし………。それさえも計算し
ているとしたら………いや、有り得る!!
「どなた?」
意外な声が彼女を振り向かせた。そこには、灰色の奇麗な瞳をもった色の白い女が意
地悪げな表情を浮かべて立っていた。きっと、私の顔はこれまでに孝子がみたことがな
いような情け無い表情をしているだろうなぁ、藤田は思った。
「あ、杉丘修です。」男は藤田を通り越して挨拶をした。それにむかって中村もつくり
笑顔で答える。「あれ?藤田さんのお友達かな?」
“何が『お友達かな?』だ。みりゃあ分かるだろ、馬鹿野郎!”
“あんた、煩いわよ!”
「はいそうです、宜しく。」
「いやぁ、かわいい人じゃない。君の友達にも話の分かる人がいるんだねぇ。」杉丘は
視線を藤田に戻した。「つんつんしているのが男に受けると思ったら大間違いだぜ。」
「別に貴方に気にいられたいと思ってなんかいないさ。」
「随分嫌われたもんだな。」杉丘は軽々と言い放った。「ところで、この子もうちの学
校なの?」
「孝子は関係ない!!」低いが決意に満ちた声が藤田から湧き起こる。「もう、構わな
いでよ!」
「そうか、孝子さんていうのかぁ〜」杉丘は藤田を押しのけ、中村の正面に出た。頗る
背が高い。「苗字は?」
「中村です。中村孝子です。」中村は藤田がいつもになく必死になっているのを面白が
った。奇人を押しつけた罰よ!「杉丘さんもうちの大学なんですかあ?」
「政経学部3年ですよ。」
「まぁ!!」
“わざとらしい!”
“あんた、ひがむんじゃないの!”
“なんで俺がひがまにゃあならんのだ!”橋本が絶叫する。
「ちょっと、孝子はねぇ−−−」
「君が俺を嫌がるのは勝手だけれども、この孝子さんは話したいそうだ”男はぴしゃり
と言い切った。しかし、女も負けてはいない。
「この子にはちゃんと相手がいるんだからね。」
「ほぅ。」言えるもんならいってみろと言わんばかり。
「そんなのはいな−−」
「いるでしょ、羅清くんがっ!」
すると杉丘は大きく笑い出した。藤田はそれを憎々しげににらんでいる。一方、中村
はそんな友人をみて楽しんでいた。もっとも、これくらいで許してやろうと思い始めて
はいたが。
「あの奇人の………これは面白い!」男は再び中村の方向に向いた。「じゃあ、俺も
君を射止めるレースに参加させて戴くぜ。」
「え………あ………いぃ!!」意外な展開!
“ばぁ〜か、分かりきった展開だろ”
一瞬、無言の間が出来た。
藤田はパッと中村の右手を掴むと、ツツッと駆け抜けて店内から出た。追い付かれや
しないかと思って、出口で振り返ると、杉丘は先程のところから一歩も動かずに、ただ
こちらの方向をみて笑いを浮かべているだけだった。そしてこっちが振り向いたのにあ
わせて、手を上げやがった!
自動ドアが閉まった後も、あいつがそこに現れるように思えてならなかった彼女は、
そのまま何処へ行くともなく、走り続けた。彼女が足を止めたのは、中村が手を痛さに
耐えきれずに振りほどいた時だった。
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