#1454/1850 CFM「空中分解」
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ユミアウラ創生紀 第4話<光の一族 キンセイ>(1) 舞火
★内容
ユミアウラが誕生した太古。時を同じく混沌のシトスイもまた、新たなる力を魔に注
ぎました。
魔は星を闇にしました。
闇に包まれた星の人は、闇の世界への不安から、恐れ、疑い、憎しみ、諸々の悪しき
感情を起こし、やがては人同士の争いにまで発展しました。
混沌のシトスイが望んだ世界は闇の世界でした。
闇に巻き込まれた星々の間に争いが起こり、それは、宇宙の全てを巻きこみ、戦乱の
嵐と化させました。
『光』
たった一つの自然を取り除かれたがために。
奪われた『光』は、人の安心感を支えていたもの。平和を維持するもの。
長きにわたる戦乱は、人々の心を闇にしました。闇は戦乱を起こします。そして、ま
た。巡りめく悪しき循環。
闇の勢力は、際限無く拡大しようかとしていた頃。
闇は止まりました。
闇の成長が抑えられたのです。
闇を抑えたもの。それは……。
『光』
光を消した闇は、光により消されました。
大地母神ガイアの児。『光』。
闇と闘う術を、持ち得た一族。
光の一族ИИ全てが女性である一族。優しき、温かき、そしてまた厳しくもある、母
なる一族。
闇に包まれすさんだ心に、『光』を灯す、一族。
光の一族の微笑みは闇を切り裂き、『光』を与えました。
かくして。
星は、光を取り戻したのです。
だけど。それでも闇の魔は完全に消滅した訳ではないのです。
光が踊る。光の世界。
きらめく雫が光を映しだす。
黒い髪を長くたなびかせ、軽やかに舞う少女。声が光に乗る。すらりと伸びた手が、
宙を舞う。足が、地を蹴る。
調に乗った声が聞く者の心を揺さぶる。
宙で伸びきった手足は、一瞬にして縮まり、しなやかな体が回転する。
黄色い衣が風にたなびく。黄色の衣が光に見え、光が、体を支えているよう。
足が大地に着いた。体を曲げ、柔らかく大地に沈む。
調が止まった。
少女は立ち上がり、一礼した。
未熟さと妖艶さ。相反する雰囲気を覗かせた顔に汗が光る。わずかに微笑んだ口許か
ら白い歯が光る。
例えるなら、光の妖精。
「素敵。なんて、素敵なの」
デーメテールの娘ペルセフォネは手を胸の前で合わせる。胸が高鳴り、鎮められそう
にない。それほどまでの興奮。喜び、感動。
オリンポスに帰っての、母からの贈り物。大満足。
「よかった」
穀物の女神デーメテールもまた喜ぶ。ペルセフォネが喜ぶ。これ以外に何を望もう。
せめて。
せめて、娘がオリンポスに帰って来た時には、最高の時を過ごさせてやろうと誓って
いるのだから。
「キンセイ。素敵」
ペルセフォネが差し出す杯を受け取るキンセイ。
「ありがとうございます」
わずかに小首を傾け、微笑む。
その愛らしさ。
「ありがとう。素敵な踊り。ペルセフォネがこんなに喜んでくれるなんて、本当に感謝
しますわ」
「デーメテール様のご要望ですもの。喜んでお受けします」
神をも圧倒する毅然さを見せ、一礼する。
それは、戦士ИИユミアウラ。
光の一族キンセイ。
美しき、戦士。
キンセイは飲み干した杯を、ペルセフォネに返した。
「ありがとうございます」
キンセイはにこりと笑う。
それは、母なる顔……。
ペルセフォネはうっとりとキンセイの横顔を見つめた。
まだ、幼ささえ残るその横顔、けれど、どうしてこうも母に似ているのだろうと。何
故、こうも似た雰囲気を持つのだろうと。何故ИИ温かく、優しい視線なのだろうと。
そしてИИ何故、厳しく、寂しそうな表情を見せるのだろうと……。
いろいろな疑問。
「何か?」
視線に気付いたキンセイが顔を向ける。優しく笑みを浮かべて。
「どうしてあんなに素敵なのかしら、と、思って」
「素敵、ですか?」
やや、とまどったような表情を浮かべた。視線が宙を舞う。
「素敵よ。光と戯れてるみたいで」
キンセイの変化に気付かず、ペルセフォネは浮き浮きと話す。口の前で指を絡ます。
「黒い髪が光に当たって輝くの。黒色があんなに素敵に輝くなんて、思ってもみなかっ
た」
「そう、ですか」
気乗りなげな返事である。デーメテールがその理由に気が付いた。
「ほら、見て。ムーサイ達が来たみたい」
慌てて話をそらす。
指差した方に、ムーサイの九人がいた。笑いざわめきながら、オリンポスの花園に入
って来る。
「今度はムーサイが歌うのよ」
「まあ。わたくしのために?」
「ええ」
ペルセフォネはきやっきやっと喜んでいる。
キンセイはほっとため息をついた。が、即座ににこやかな表情に戻る。
デ−メテ−ルがキンセイを見ていた。キンセイは笑い返した。
デーメテールは安心し、ペルセフォネに視線を移した。
光が、降り注ぐ。
光の中で、女神達は淡く輝いていた。高貴なる気の流れに、光が反応していた。
淡い光の溢れるオリンポスの花園で、ただ一人キンセイの光は揺らいでいた。
これが、素敵に見えるなんてね。
キンセイは、自ちょうし、かすかに口許を歪めた。
それは、人から見れば、美しく光と戯れているように見える。けれど、それは女神達
の輝きとは違う。
高貴な光ではない。
キンセイのそれは、強烈な気により、光の一族なるが故に、与えられた代償。
それは……。
「きゃああっ!」
甲高い悲鳴がキンセイの心を現実に呼び戻した。
視線を向ける。
「きゃあああИИ」
悲鳴が重なる。ムーサイの声。
全身の毛が総毛立った。
あれはИИ闇の魔だ。
立ち上がった。ムーサイが逃げて来る。
「逃げて!」
キンセイの、りんとした声が響いた。デ−メテール達も神殿へと走る。
「キンセイっ!」
ペルセフォネの声が流れて来た。
キンセイは闇と対じしていた。
闇は、闇だった。
光を遮る力を持つ魔。
魔が触手を拡げた。一瞬にして、闇が辺りを包む。
「ひっ」
「えっ」
あらぬ悲鳴に、キンセイは驚いて振り返る。
デ−メテールとペルセフォネが闇に行く手を遮られ、呆然と立ちすくむ。
「お母様っ」
ペルセフォネの悲痛な声が響く。
しまった!
足を……。
デーメテールは足を押さえ、うずくまっていた。
しゅん。
空気を切り裂く音ИИ反射的に横に飛んだ。
再び闇と対じする。
さっきまでキンセイが立っていた所に、小さな穴がうがかれていた。
しゅ。
かがむ。後方で大地が弾けた。
真空弾、だ。空気中に作った真空の刃は皮膚を切り、肉を裂く。しかも見えない。闇
の魔の力。
音に全神経を集中させる。
しゅるるるる。
跳ねた。
十数か所で真空弾が弾けた。
このままでは、疲れるばかりだ。
一瞬の判断。右腕の篭手を前に突き出す。妙に角張った浮き彫りを持つそれは、かす
かな音と共に、変化した。
ついで、左の腰に付けていた直方体の箱を、右手のそれに組み込む。その先は、闇の
中心。
闇が揺らいだ。
闇は、それを知っていた。
おののくように、真空弾が発せられる。
と、同時に。
数条の光の筋が闇に吸い込まれる。
「ちっ」
キンセイの声だった。
狙いが外れた。即座に場所を移動する。真空弾の攻撃が絶え間なく続きだした。
動きながらも、右腕を構え、連射する。
篭手は、今や、『聖なる石』から造りだされた、短針弓へと形を変えていた。直径一
ミリに満たない針が連射。針もまた、『聖なる石』。
『聖なる石』は、何物の素材であろうとも、突き通してしまう。折れる事もない。
黄色の『聖なる石』を使う資格のある者は、光の一族だけ。
繰り出される光の針は、わずかに闇の動きを止めていた。
それでも闇の中では歩が悪い。
キンセイはちらっと後ろを見た。
デ−メテ−ル達に近すぎている。
わずかな動揺が、キンセイに隙を作った。
音がした。
キンセイは動こうとしてИИ駄目っ!
右手で顔をかばった。
真空弾がキンセイの体を切り裂いた。
ИИあ、体は……どこが?
頭部は大丈夫。けど、右腕の皮膚が裂けてる。『聖なる石』といえど衝撃を完全には
「う」
痛みが背を走り、がっくと膝をつく。
しゆっ
二転三転と横に転がる。かろうじて。これ以上の時間の経過は、許されない。
勘が危険を知らせる。
転がる度に、血が宙に散った。
かまわず転がり続ける。
攻撃がわずかに切れた。
即座に。
右手を前へ押し出す。
「はうっ!」
声と共に。
光が。
溢れた。
右腕の短針弓から、光が溢れ、渦を巻き、広がった。
<続く>