AWC 中型SF小説 渇きの海(1)【黒衣の女】・・・・・天津飯


        
#1441/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NQC     )  89/ 2/28   7:28  ( 39)
中型SF小説 渇きの海(1)【黒衣の女】・・・・・天津飯
★内容
宇宙貨物船トラジディの乗組員ときたら
そろいもそろって陰気な連中ばかりだった
その中でも飛びきり陰気なのが
私の相棒でコンピュター要員のメリーという女だった
彼女は いつも頭のてっぺんから足の先まで黒ずくめの長い服を着ていた
といって彼女は未亡人だったわけではない
大学を出たばかりだったし 身体つきは少女のように痩せていた
足が悪く片足を引きずって歩いた
私はいまだかって彼女のような陰気な人間を見たことがなかった
彼女はエンジニアとしては非常に優秀だったが
表情には感情というものがまるで感じられなかった
彼女と話していると時々この船のマザーコンピュターの
ENIACと話してるような気がした
しかし 彼女は美しい一人の生身の女だった
彫りの深い顔立ち 強い意志で固く結ばれ唇 細く通った鼻筋
強い光を持った灰色の瞳
たぶん 美人という平凡な形容は彼女にふさわしくないように思う
美を超越した なにか強烈な雰囲気がフェロモンのように私を惹きつけた
紙のように白い顔の上に赤ん坊が被るような黒い被り物をしていた
その変な被り物を仕事中はとったらどうだと彼女に言ったことがあった
そのとき彼女はしばらく沈黙してから そっと私に顔を近ずけると
思いきったように「私はアーミッシュなの」と言った
それまで私はアーミッシュという閉鎖的な宗教集団の存在など
まったく知らなかった
彼女の簡単な説明によると
アーミッシュとは再洗礼派とよばれ
アメリカのペンシルベニヤ州で独自の小集団を形成する宗教団体だった
外部との交流を最小限にとどめ近親婚が多く それ故に遺伝病が発生しやすく
彼女の足の悪いのも そのせいでトロイヤー症候群という病名まで教えてくれた
彼女の黒い奇妙な被り物も長い黒衣もアーミッシュの戒律だと言った
無口な彼女との仕事は本当なら恐ろしく退屈なものだったはずだが
不思議と気も狂わず むしろ なにかしら満ち足りた気分でいられたのは
私自身の人間嫌いの性格のせいなのか
それとも私が彼女に恋をしていたせいなのだろうか
少なくともあの事故が起きるまでは
彼女と一緒の この恐ろしく退屈な旅に満足していたのだった

                         つづく
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