#1402/1850 CFM「空中分解」
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APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(15)コスモパンダ
★内容
(15)誤 解
「今から、救助バスケットを降ろしますから、それに乗ってください」
頭上のエアロダインから、ブルーの声が聞こえてきた。
「へっ?」「えっ?」カズとノバァは、顔を見合わせた。
エアロダインの機体の右側のドアがスライドし、中から大きな人間が数人は乗れる
バスケットが、小型のクレーンアームに吊られて出てきた。そのバスケットが、ゆっ
くりと、屋上の二人の側まで降りてくると、ピタッと停まった。
「急いで乗ってください」ブルーの声が催促する。
「途中で落としゃしないだろうね!」とノバァ。
「言ったでしょ。九十九・九九九九パーセントの確率で任務を遂行できるって」
「〇・〇〇〇一パーセントは失敗するんだ」
「止めなよ、ノバァ。早く乗ろうよ」
カズはノバァをバスケットの方に押しやった。その二人の足元に大きな穴が開いて
いた。底無しの穴は、二十階建ての別館の一階まで貫いていた。
ノバァがバスケットの中に上半身を入れたが、背中や腕の傷が痛いのか、もたもた
してなかなか乗り込めない。その彼女の尻を、カズが両手でグッと押した。
「ワーッ!」
悲鳴を上げたノバァは、バスケットの中に頭から落っこちてしまった。
カズもバスケットの淵を両手で掴み、乗り込もうとした。
エアロダインは高度を上げ始めた時、宙ぶらりんになったカズの足下の屋上が、音
を立てて崩れた。
カズの目の前に、バスケットの底から起き上がったノバァの顔が、突然現れた。
「勝手に人のお尻に触んないでよ!」
バシッ! バックスイングの思い切り効いたノバァの平手が、カズの頬に炸裂した。
目の前に星がチラチラと瞬いたカズの右手がバスケットから離れ、カズは左手だけ
でバスケットから宙ぶらりんになる羽目になった。
エアロダインは次第に高度を上げる。屋上は既に数メートルも下だった。
「ノバァ、助けてよーっ。落ちるーっ」
「もうちょっと頑張りな。怪我してるあたしの力じゃ、あんたを引上げられないよ」
「そんな薄情な!」
片手でぶら下がったままで、再びカズは見下ろした。機は五十メートルは上昇して
いた。眼下の屋上は、既に平坦の部分は殆どなく、亀裂が入り瓦礫となっていた。
その起伏の激しくなった屋上の一角に、倒れている人影があった。
「あの兵隊。あのままだと瓦礫と一緒に落っこちる。オーイ。ブルーーーー」
さっきノバァが薬で眠らせた兵士が、崩れていく屋上でまだ白河夜船だった。
「はい、なんでしょう」
「屋上に戻って! 忘れものしたの。もう一人、いるの。放っておくと、死んじゃう
わ。助けるから、引き返してよーっ」
ノバァは声を振り絞って叫んでいた。
「分かりました。ああ、あの非常階段の側で寝ている人ですね」
ぐちゃぐちゃになった屋上で寝ている人影を、ブルーはパターン認識していた。
ブルーは、エアロダインのコンピュータと無線で接続していた。エアロダインはブ
ルーの手足であり、エアロダインのカメラ、レーダー、各種のセンサーは、ブルーの
目であり、耳であり、スピーカーは口だった。
バスケットを吊るしたエアロダインは降下して行った。
「カズ、あんた、あの兵隊をこのバスケットに乗せてよ」
「えーっ、嘘だろーっ。今でさえ、自分一人の体重を支えるのがやっとなんだ」
「つべこべ言うんじゃないよ。あんたが助けなきゃ、あの男は死ぬんだよ」
ノバァは自分が眠らせた兵士を、死なせまいとしていた。自分が原因で、他人が傷
つくのを絶対認めようとしないノバァ。だから好きなんだ。でも、こっちはいい迷惑
だ。カズは心の中で呟いていた。
バスケットが、仰向けに倒れている兵士の側、屋上から数センチ上に浮いた。
カズは屋上にそっと足を下ろそうとした。だが、カズの靴が触れた部分は脆くも崩
れていく。コンクリートの組成は結合力をなくし、今や角砂糖よりも脆かった。
「ブルーっ。もう少しバスケットを下げてくれ!」
カズが頼むと、ブルーの操縦するエアロダインは、ゆっくりと数センチ刻みで降下
していった。コンピュータとはいえ、見事な操縦だった。
カズは左手で、バスケットの淵にぶら下がり、バスケットの底の淵にある五センチ
ほどの出っ張りに両の爪先を引っ掛けていた。そして、空いている右手を伸ばすと、
倒れている兵士の腰のベルトを掴んだ。
「うぉおおおおおおおぉぉぉぉ・・・・・」
掛け声と共にカズは右手一本で、軽戦闘装備の兵士を吊るした。じわっじわっと男
の身体は屋上から離れた。
「カズ、頑張って! もう少しだよ」
ノバァが手を伸ばし、カズの持っている男のベルトを両手で掴んだ。二人は力をあ
わせると、一気にバスケットの淵まで男を引き上げた。
「やった!」ノバァの嬉しそうな声。
ガガガガガガ・・・・。突然、バスケットの側の空間を銃弾が掠めた。
いつの間に上がって来たのか、非常階段に数名の兵士が、マシンピストルを構え、
乱射していた。
銃弾はノバァとカズ、そして兵士の三人を襲った。
「うわっ!」
カズは、右手に焼け火箸を当てられたような痛みを覚え、反射的に手を放してしま
った。カズの右手の甲には、銃弾に削がれた跡があった。
兵士が落ちる寸前、ノバァがベルトを掴んだ両手に力を入れ、踏ん張った。
「くっ!」ノバァが苦痛に呻く。
ノバァはバスケットから上半身を乗り出して兵士を引っ張っている。ノバァの白い
シャツの背中にうっすらと赤い血が滲んでいた。傷口が開いたらしかった。
「お前らは仲間も殺す気かあーっ!」
しかし、カズの叫びがマシンピストルを乱射している兵士達の耳に入る筈もなかっ
た。兵士達は、エアロダインとブルー、それにバスケットに向けて乱射した。
「馬鹿野郎!」カズは頭にかーっと血が上っていくのを感じた。
カズは、左脇下に吊ったホルスターから、血の滲んだ右手でパイソン三二オートマ
チックを引き抜いた。親指で安全装置を外すと、非常階段の兵士を狙った。
タイミングの悪いことにカズが銃を撃とうとした時、ノバァが必死でベルトを掴ん
でいた兵士が、意識を取り戻した。仰向けにベルトで吊られた男は、カズの拳銃が非
常階段の仲間に向けられているのを見ると、カズの腕に必死でしがみついた。
「あっ! 馬鹿。何をする!」
ガーーーーーーン・・・・・・。
男の胸板に真っ赤な薔薇の花が咲いた。ビクンと大きく痙攣した男は、ノバァの手
を離れると、崩れかけた屋上に横たわった。
「きゃぁああああーーーーーーーーーー」
「うわーーーーーーーーーーーーーーっ!」
二人の絶叫と同時に、真っ白な光る球体が非常階段の兵士達を包んだ。
数秒後、光が消えた非常階段には、何も残っていなかった。
シャツの背中に血を滲ませ、傷の痛みに堪えながらもノバァは、返り血を浴びたバ
スケットの外のカズを支えていた。
二人の救助バスケットを吊ったエアロダインは、次第に高度を上げていった。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−