#1378/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (AMJ ) 89/ 1/22 9:13 ( 82)
お題>女子高生とカレ−ライス (後編)NEPTUNE
★内容
副題:「薄野物語」(後編)
PART−4 [狭山良介の回想」
昔、愛し合ってる男と女がいた。
二人とも若かった。
だから、馬鹿な事も真剣に出来た。
お互いに同じ物を彫ったんだ。
(と、良介は二の腕の蛇の刺青を苦笑しながら見せた)
私は、シェフを目指していた。
なれると思っていた。
一流に。
フランスにも留学した。
当時は新進気鋭の料理人として、話題になったこともある。
が、それも一時の夢だとわかった。
あの日の事故・・・。
(良介は遠くを見る眼になった)
あの日、私は急に彼女に会いたくなった。
(彼女とは、君のお母さんの事だよと、良介は言った)
彼女とは結婚するつもりだった。
(良介は、苦痛に充ちた顔になった)
夜。
激しい雨。
なんでそんな日を選んでしまったのか。
いまでもわからない。
「逢いたい」
「今日は、雨が降ってるから」
電話で彼女はそういった。
彼女を無理矢理説得し、私は彼女の住むマンションへ車を飛ばした。
老女が飛び出してきた。
どうして、そこにいたのか分からない。
急ブレ−キ。
老女を避ける。
思い切り私は頭をぶつけた。
幸いその時はなんでもなかったと思った。
ただ一つの後遺症を除いては。
マンションで彼女はカレ−ライスをつくってくれた。
シェフになるあなたには、口にあわないかも。
はにかみながら、彼女はそう言った。
ああ、何という事だ。
一口カレ−を食べた私は全身から血の気が引いた。
味が分からない!
匂いがしない!
味覚と、嗅覚を失っていたのだった。
料理人の命である、味覚と、嗅覚を。
PART−5
「その時以来、恭子さんには会っていない」
「・・・・」
「どうした、笑ってくれないのか。この哀れなシェフ崩れを」
「忘れられないのね、母を」
「いや、忘れていた。死んでしまう迄はね」
「母は忘れていなかったと思う。あなたのこと」
「どうしてそんな事分かる」
良介は、自嘲するような調子で言った。
「私、あなたの腕にある蛇の形の刺青を見たことがある。母の太股にね。幼い
頃、お風呂でこれな−にって母に言ったら、あなたが大きくなったら話してあ
げるって。とても悲しそうだった」
「だから?」
「そんなに悲しいって事は、母の心の奥底にあなたがいたって事じゃないかし
ら?」
「そういってくれるのは嬉しいが、つらくなる。」
良介は、スタンウェィから離れると、ソファに座っている理恵の方に向き直っ
た。
「でも、私は高校生の君が思っているほど純粋じゃない。いろいろな女性と付
き合ってきたんだよ」
「忘れないで欲しいんです、母を」
「無理だ、と思う。今は悲しんでいるが、きっと忘れてしまう」
「いいんです。ずっとじゃなくて、出来るだけで」
「優しいんだな、君は。誰に対しても」
「お願いがあります」
「なんでもいってくれ」
理恵は、迷っていた。
「いいから、言ってくれ。出来ることなら何でもしよう」
「私の作ったカレ−ライスを明日食べて下さい」
「カレ−ライスを?」
「母に作り方を教わったカレ−ライスです」
「わかった、喜んで食べよう」
良介は、にっこりと笑った。
** END OF STORY **