AWC お題>「女子高生とカレーライス」   コスモパンダ


        
#1376/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 1/22   8:59  (100)
お題>「女子高生とカレーライス」   コスモパンダ
★内容
      「女子高生とカレーライス」      コスモパンダ
 時計は夜の九時を回っていた。
 ルルルルル・・・。ルルルルル・・・。
「はい、『ベンガル』です」
「あの〜、こちらは、新町商店街の側の雀荘『チュンレンパオトウ』なんだけど。あ
のねえ〜。かつ丼と、チャーュー麺、それと餃子三人前と、焼きそばの大盛り。大至
急、出前頼むよ。そいじゃあ〜」
 ガチャン。ツーーーー。
「あっ、あの!」
 と言った時には後の祭り。相手は言うだけ言うと切ってしまった。
 ガッチャーーーーン。あたしは受話器を壁の電話器のフックに投げつけた。
 側のカウンターにいた工員のおじさんが驚いてあたしを見ていた。
「おいおい、おねえちゃん。男に振られたからって、電話にあたるのは良くないぜ」
「あっ、いえ、違うんです。間違い電話です」
「隠さなくったっていいさ。相手の男に見る目が無かったんだ。男なんて星の数程い
るんだから。おねえちゃんだったら、すぐにいい男が見つかるさ。元気だしなよ。お
ねえちゃんの元気な笑顔がないと、飯が不味くなる」
 完全に勘違いしているおじさんに、あたしはにこっと笑った。これ以上、弁解する
と話がこじれる。
 おじさんはにこにこしながら、再び「作業」に没頭し始めた。
「あのーっ」
 カウンターの隅に座っている若い会社員風の男の人があたしを呼んだ。
「はい、なんでしょう?」
「あのーっ、お水。・・・ください」
 くっ、くっ、暗い! 暗黒星雲かブラックホールのような男の人だった。黒いコー
トの襟を立て、その襟の中に埋もれた頭にふけがチラホラとあった。不潔〜〜〜。
 あたしはアイスウォーターを入れたコップを持って、そのカウンターに行った。
「はい、どうぞ。あっ、あの!」
 そのコップをカウンターに置いた途端、その男の人が急にあたしの手を握ったのだ。
「君、さっき、彼氏に振られたって言ってたよね。だったら、君、一人だろう? 僕
も一人なんだ。僕なんかどうだい」
「あっ、あの、困ります。放してください」
 しかし、その人はあたしの右手をしっかりと握って放さなかった。
 その時である。バッシーン・・・・。男の人の頬に赤い手形がついた。
「この変態男。およしよ。こんな純な子に迫るなんてさ。みっともない」
 出たーっ。常連の厚化粧お化け。これから勤めに出掛けるノンノンさんだ。
「ぶたなくてもいいだろう〜」
 その男の人は、くしゅんくしゅんと泣き出した。あたしは、その人の手を振り払っ
て、そこを離れた。
 いつものようにノンノンさんは、すだれのような付け睫毛、ブルーのアイシャドウ、
厚化粧で、短い髪の毛は茶色で、ピンクのドレスで派手派手に決めていた。
「美香ちゃん、男なんて、山程いるのよ。あんな、いじいじした男と付き合うことな
いよ。どこが良くて、あんな男と知り合ったんだい?」
「違うのよ。あの人とは関係ないんだって」
「隠すな、隠すな、このプレイガールが。あたしも、あんた位の時、好きな男の子が
いてね。恰好良かったんだなー、バイクに乗って、走ってく後ろ姿見ると、ビンビン
痺れちゃった。その子の前じゃ、何にも言えなかった。あたしも純だったんだねえ」
 ノンノンさんは、長い睫毛をバラバラとさせながら、遠くを見つめるように、カウ
ンターに肘を乗せ頬杖を付いていた。
「へい、へーい。ノンノン姉さんもそんなことがあったのかい? みんな〜、信じら
れるか〜。この色気違いのお姉さんに、美香ちゃんみたいな時があったなんてよ」
「信じられねえ」「うっそーっ」「ないない」「美香ちゃんに失礼だよ〜〜ん」
 赤や黒、ブルーの色とりどりのライダースーツの集団が口々に騒いだ。こっちも常
連のケン、トシ、テツ、マサオにヤスオだった。
「うるさいね! この餓鬼ども! あたしの値打ちが分かるには十年早いよ!」
 ノンノンさんが、ライダー達に向かってわめいた。
「分かんないよ〜〜ん」「僕達、若い子の方がいいも〜ん」「子持ち嫌いだよ」
「誰が子持ちだって!」「託児所に預けてるんだろ」「でたらめ言うんじゃないよ」
「俺、見たもん」「この餓鬼!」「僕ちゃん、人妻好きだよ」「皮かぶりが!」
 びっしゃーん。カウンターに水しぶきが散った。
「わーっっっっっっっ」「あっ、冷たい」「何すんだよ」「このーっ」
 ライダーの男の子達の頭から、水がポタポタと滴っていた。
「し・ず・か・に・し・ろーーーーーーーっ・・・・」
 店の窓ガラスを揺るがすような大声が、喧騒を一掃した。
 左手に空コップ、右手にはスプーンを持っているのがなんとも滑稽だったが、赤ら
顔の中年の恰幅のいいおじさんが、椅子から立ち上がっていた。
「お前達だけの店じゃないんだぞ。もう夜中だ。近所迷惑も考えろ。でかいのは図体
ばかりで脳味噌がはいっとらんのか、その頭は。ヘルメットなんか必要あるまい」
「ざけんなよ。俺達を誰だと思ってるんだよ」とはマサオ。
「そうだ。この辺りじゃ、ちょっとは名の知れた『爆走天使』だぜ」とテツ。
「それがどうした?」
「知らねえってのか。それじゃ、教えてやろうぜ」ケンがいきまいた。
 ライダースーツの男の子達は、椅子から一斉に立ち上がった。
「お止めなさーーいっ! ここ、どこだと思ってんの!」
 あたしは思わず叫んだ。店中のみんなが一斉にあたしの方を見た。
「他のお客様に迷惑です。喧嘩するなら、外でやってください」
「何を偉そうに言ってる。女子高生の分際で、こんな夜中までアルバイトするなんて
けしからん。そんなことだと、今に、あそこの化粧お化けのようになるぞ」
 女子高生の分際? このおじん! 怒鳴ろうとした時。
「あたしが何だって! 余計な御世話だよ」とノンノンさん。
 バッシーン・・・・。
「何をする、このあま!」「きゃーっ、やったわね」「やれやれ」「わっ、こっちま
で殴らなくても」「このーっ、やっちまえ」「馬鹿野郎ーっ」
 ガシャン、グワン、ドシャン、バシン、ドタン、グワン、グシャ・・・・。
 その時、手にぴとんとくっつく湿っぽい掌の感触に、ぞわわと全身が総毛立った。
「あのーっ、僕なんか本当にどうですか?」と、顔に手形が付いた暗い会社員。
「キャーッ」あたしは逃げた。
 再び、ルルルルル・・・。ルルルルル・・・。ガチャ、受話器を取った。
「はい、『ベンガル』です」
 電話に応対するあたしの目の前では、まだ乱闘が続いていた。
「あの〜、さっき、出前頼んだ、新町商店街の側の雀荘『チュンレンパオトウ』なん
だけど。まだかな〜。かつ丼と、チャーュー麺、餃子三人前と、焼きそばの大盛り。
腹減ってんだけど〜」
 こっ、こっ、こっ、こっ、このーーーーーーーーーーーーーっ。
「ばかーーーっ、ここは出前もしてないし、かつ丼も餃子もやってないの!」
「はあ?」相手の間抜けな声。
 私は最後の台詞を吐き捨てるように言った。
「ここは、カレー屋よ!」

                お わ り




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