#1352/1850 CFM「空中分解」
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APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(12)コスモパンダ
★内容
(12)大人達の言い訳
「ルドンコ少佐、あなたはここを戦場にするつもりなんですか?」
カズの押し殺したような声が、皆の耳に入った。
「んっ?」
少佐は眉を僅かに動かした。感情の無い鮫の目のような瞳がカズを見つめた。
「君は、戦場を知っているのか?」
「い、いえ」
ルドンコ少佐に尋ねられたカズは口籠もった。
「生臭い血と鼻をつく硝煙、それに甘酸っぱい死臭の漂う場所。戦場では、生あるこ
とが罪悪になる。心を許せるのは死体だけだ。だが、それすらも時々裏切る。そんな
所が君らは好きか?」
「いや」カズが答えた。
「そうか、俺も嫌いだ」
「何が言いたいの?」
ノバァが少しヒステリックな声で少佐に尋ねた。
「自分の嫌いな戦場を、俺がわざわざ作ると思うか?」
少佐はぐるりを取り巻く人々を、感情の無い目で見回した。
「戦場にするのは、・・・。奴だ」
「そうかしら、あんたのやってることは、ただ騒ぎを大きくして、白い火の球を呼ぼ
うとしてるだけじゃなくて? その御陰でどれだけの犠牲が出たか、分かってるの?
『俺は平和主義者だ』なんて台詞言わないでね。聞くと、歯が浮くから」
相変わらずノバァの毒舌は健在だった。
「口だけは達者だな。言うだけなら、誰でもできる」
「そう、結構なあなたの行動力の御陰でどうなったの。あの様は何よ! あれは!
ルル・ピークはどうなったのよ?」
少佐は答えなかった。
「我々、医師団があの子を診断しようとして、装置を作動させた瞬間に、あの青白い
光があの子を包んだ。あの光があの子の身体を覆ってから、メディコンや各種の医療
装置は火花を散らし、沈黙した」
メガネの医師が口を開いた。
カズの頭の中に、フレスコ執事の言葉が甦った。
『・・・シェン様の身に危険が及ぶ時や、ルル様の身に何か起こる時です』
「おかしい。変だ・・・」カズが独言を呟いたが、それを誰も聞いていなかった。
「あの光、危険はないのかな?」
「あの子にとってはね」再び、その医師が答える。
「どういうこと?」とノバァ。
「医者が二人、看護婦が一人、警官が三人、兵士が二人、既に火傷で治療を受けてい
るよ。あの子に人が近づくと、あの光は、近づいた周りの人間に放電する」
ノバァとカズは顔を見合わせた。
「シェンおぼっちゃまが、ルル様を護っていなさる」
フレスコ執事が声を出した。
「何が護っているって言うの! ルルは、ルルはあの光に包まれたままなのよ。母親
の私でさえ近づけないのよ。それが護ってるってことになるの!」
スーザンがフレスコ執事を責めた。
「いいえ、奥様。ルル様はあの光の庇護を受けておられるのです。シェン様とルル様
は、いつも心を交わしておられるのです。この兵隊達が、ルル様を囮にしようとした
ことを、シェン様は察知され、お護りになっているのです」
「フレスコ! あなたは、よくもそんな呑気なことを、言ってられるわね・・・。ル
ルは、ルルは私の子なのよ。その我が子を自分の手で抱けないなんて、あなたには分
る? そんな馬鹿げた話は聞いたことがないわ!」
「もういい。全員、この部屋から退去しろ。これから、何が起こるか分からん。我々
アーミーだけが、残る。医師も看護婦もポリスも退去しろ。勿論、家族もだ」
物憂げなルドンコ少佐の命令が、部屋に響いた。
「身勝手ね、少佐! ここまで連れて来て、今度は追い返すっての? あたし達を退
去させるのは、あんたが大手を振ってシェンを抹殺するためなんじゃなくて? あた
し達が居ては邪魔なのかしら」
「邪魔だ。少なくとも、ぎゃあぎゃあと騒ぐ雌鳥の声に、気を逸らされて、作戦を失
敗することはなくなる」
「嫌よ! 私はあの子の側を離れないわ。ルルは、ルルは私が自分の腹を痛めた子供
なのよ。放って逃げる訳にはいかないわ!」
スーザンは、聞き分けがなかった。
「連れ出せ!」
少佐の冷たい命令が飛んだ。兵士達が、次々に人々を部屋の外に連れ出す。
「少佐!」
部屋の隅で、タックコン(戦略コンピュータ)の端末の前に座っていた一人の兵士
が、ルドンコ少佐を呼んだ。少佐は、その兵士に近づいて行った。
「第四ゲートの検問をブルーの車が突破しました。こちらに向かっているそうです」
「ブルーの車。シェンが乗っているコンピューターカーだろ、フレスコさん」
カズがフレスコ執事に尋ねると、執事はこくりと頷いた。
「よし、各検問の部隊に連絡しろ。車は攻撃するな。そのまま通過させろ。但し、一
旦通過した後は、どんなことがあっても外に出すな。退路をポリスのロボット装甲車
と戦闘モービルで塞ぐんだ」
少佐はその兵士に命じた。兵士はタックコンの端末を叩き始めた。
「第四小隊は、車を地下駐車場に追い込めろ。第三小隊は、地下駐車場で、車を待ち
伏せし、走行不能にしろ。但し、乗車している少年は生きたまま捉えろ」
少佐は次々に命令を与えた。
「映像が入ります」
タックコンの端末から伸びたケーブルは、部屋の壁に仕掛けたスクリーンに繋がっ
ていた。
そのスクリーンに検問を突破するブルーの車が映っていた。車は道路を封鎖してい
た高張力プラスチックのゲートをバンパーで引っ掛け、引き倒しながら病院の建物に
近づいて来る。
車高の低いブルーのツー・シーター・カーだった。
「あれは、・・・痛っ!」
スクリーンの車を見たカズが、何か言おうとした途端、隣に立っていたノバァの肘
鉄を脇腹に食らった。
「なに、すんだよ!」
さすがに頭に来たカズは隣のノバァを睨みつけた。
ノバァは魅力的な唇の前に、右手の人指し指を立てていた。
「カズ、出よう。ここに居ると、少佐の作戦の邪魔になるよ」
ノバァはスタスタと部屋を出て行った。フレスコ執事やスーザンはとうの昔に連れ
出されていた。ふくれっ面のカズも部屋の外に出ると、ノバァに食って掛かった。
「何、考えてるんだい、ノバァ」
「本物のコンピューターカーの『ブルー』を探すのさ」
「気付いてたのか」
「あたし達の見た青い車は、六人乗りのキャデラックだよ。検問で暴れてるのは、囮
だよ。本物は多分、もう潜入してるよ」
ノバァとカズは非常口に向かって走り出した。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−