#1326/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 88/12/25 16:36 ( 97)
APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(5) コスモパンダ
★内容
(5)蜘蛛の巣
ノバァが急ハンドルを切った。
バーーーーーーーーンンン・・・・・。
ミサイルは、二人のスポーツセダンに当たる寸前で爆発した。
普通の爆発ではなかった。爆発の白い煙は四方八方へと手足を伸ばし、トンネルの
床や壁、天井にペチャリと張りついた。
白い煙と見えたものは粘着性の強い液体だった。それが空中で次第に固まり、太い
蜘蛛の糸のようになってトンネルを塞いだ。
バーーーーーン、バーーーン・・・。
爆発は二度、三度と起こり、トンネルの中には巨大な蜘蛛の巣ができた。
二人の乗るスポーツセダンは真っ直ぐにその蜘蛛の巣に突っ込むと、太い糸に絡ま
れて身動きできなくなった。
ギャァーーーーーンンンンン・・・。
アクセルを踏むが、車輪は空転するばかりで、ハンドルも効かなかった。
「畜生!」
上品な顔に似合わない言葉を吐くと、ノバァはハンドルを両手で叩いた。
「スパイダー・ネット・ミサイルだ!」カズが呟いた。
「なんだい、それ?」
「爆発すると粘着性の液体を飛び散らせて、廻りの物体に付着し、自由を奪うミサイ
ルのことさ。しかし、この装備はシティ・ポリスにはないよ」
「それじゃ、どこが装備してるってのさ?」
その時、二人の乗った車を強烈な光が照らし出した。
「中の二人、速やかに投降しろ。手向かえば、抹殺する準備がある」
拡声器のキンキンする声がトンネルの中に響いた。
「おたおたするんじゃないよ。おとなしく降りるしかないでしょ」
カズに言い聞かせるとノバァは腰に付けていたバレンタイン・レーザー銃も外し、
シートの上に乗せた。しかし、カズはジャケットの前を止めた。
ノバァはドアを開けようとしたが、スパイダー・ネットに絡まれたドアは容易には
開かなかった。
「窓から出ろ!」
再びキンキン声が命令する。
ノバァがパワーウインドゥを全開にし、上半身を乗り出したが、大きな胸がつっか
えた。彼女が窓枠を掴んで力を込めると、大きくブルンと揺れて胸が通り抜けた。
その後からカズも出た。
「両手を上げ、車の前に並んで立て! グズグズするな!」
命令口調のきびきびした声が二人に飛ぶ。
二人は三台のサーチライトに照らされていた。光の奥から聞こえてくる声の主は見
えない。
「なぜ、我々を追った?」
「あらっ? ハザウェイ警部じゃなくて? 私、警部に貸しがあるのよ。この前のポ
リス主催のバザーで、仮装用のドレスを貸したのよ。その時に」
キューン!
バシュッという音と共に、スポーツセダンのボディに穴が開いた。
「無駄口叩くな! 真面目に答えろ」
「ノバァ、やばいよ。ありゃ、高出力の軍用レーザーライフルだ」
キューン!
今度はノバァとカズの間を不可視ビームが掠め、やはり車のボディに穴が開いた。
「内緒話は止めろ。おとなしく我々の質問に答えろ。なぜ、我々を追った」
「同じ答しかできないわ。ハザウェイ警部が乗っているって聞いたからよ」
相手の声に少し間が開いた。
「それは残念だったな。今日はハザウェイ警部は来ていない」
「本当にそうかしら? 最初からハザウェイ警部なんていないんじゃないの?」
「身分証明書をこちらに投げろ。変な素振りを見せると即座に撃つ」
相手はノバァの言葉を無視した。
「カズ、分かってるわね」
ノバァが話し掛けると、カズはコクリと頷いた。
ノバァは腰のポシェット、カズはジャケットのポケットからカードを取り出す。
「いいわね」ノバァの合図で二人はカードを光の奥に投げた。
カチンとカードが路面に落ちると、派手な火花が飛び散り白い煙が立ち込めた。
「うわっ!」光の向こうで驚いたような声が上がる。
カズがジャケットの下に吊っていたパイソン三二オートを引き抜いた。
ガーンッ、ガーンッ、ガーンッという音と共に、サーチライトの光が消え、オレン
ジナトリウム灯の光だけが辺りを満たしていた。
ノバァが身を路面に投げ出すと、腕のCBを操作した。スポーツセダンは、ボディ
の下部から、白い煙とキラキラと光る火花のようなものを撒き散らした。煙はたちま
ち、ノバァとカズの身体とセダンを隠してしまった。
幾条もの霞色のビームが白煙を貫いて舞う。だが、ビームが当たった部分は焦げ跡
も付かない。
二人の車が吐き出すレーザー・チャフが、レーザー光特有の偏光を散乱させ、エネ
ルギーを奪ってしまったのだ。今やレーザーの優位性は消えた。
白煙が薄くなると、黒い車は逃げに掛かっているのが見えた。
カズはパイソンから引き抜いたマガジンの一番上に、ジーンズのポケットから出し
た特製の弾丸を押し込み、再びそのマガジンをパイソンに押し込んだ。スライドを引
くと、エジェクターが薬室に入っていた弾丸を引き出し、次弾を薬室に送り込んだ。
カズは立射の姿勢で構えると、遠ざかる車の後部トランクを狙った。
ガーーンンンン・・・・。
特製弾丸は車のボディを貫くことなく付着し、微弱な電波を送り始めた。
「畜生!」
「やられたね、カズ。敵の方が一枚上手だってことだよ。あんたのちゃちなトレーサ
ー・ブレッドは、すぐにばれちゃたようね」
カズが黒い車に撃ち込んだ筈の発信機付の弾丸は、シティ・ポリスの駐車場に停車
していたモスグリーンの覆面パトカーのボンネットに付着していた。
それも御丁寧に、ハザウェイ警部専用の車だった。
警部には怒られるわ、修理代はふんだくられるわ。カズは踏んだり蹴ったりだった。
「手掛かり無しかい」
「そうでもないよ。あのスパイダー・ネット・ミサイルと軍用レーザーライフルは普
通のギャング連中じゃ絶対に手に入らないものだよ」
「普通の連中じゃなきゃ、誰なら手に入るのさ?」
「アーミーじゃないかな」
「どうして、アーミーなんかが出てくるのさ」
「分からない。ハザウェイ警部は自分の名前を騙ってる奴のことは知ってたかい?」
「知らないって。『私も有名になったもんだ』って、喜んでたわ」
「あほかいな」
カズとノバァはハザウェイ警部の車に凭れて、唸ってしまった。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−