#1325/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 88/12/25 16:27 (100)
APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(4) コスモパンダ
★内容
(4)追 跡
身体がシートにめり込む。航空母艦から発射されるロケット機のような加速だった。
ピーク邸の玄関から、正門までの直線一キロはあろうかという道のりを一気に突っ
走る。外の景色があっという間に後ろに飛び去って行く。高速のために前方の視界が
狭くなる。
ギャーーーーン・・・、ギーーーー、キュキュキュ・・・・。
突然、制動ブレーキが掛かった。車は大きく回転して停止した。
目玉がひっくり返りそうになったカズは、シートをしっかりと握りしめていた。
ハンドルを大きく回すと、ノバァは車を屋敷の方に五十メートルほど戻した。
ノバァはドアを開けて飛び下りると、車道に敷き詰められた石畳の一部を熱心に見
つめていた。
「ど、どうしたんだい?」
ノバァの後を追って降りたカズは、口から泡こそ出していなかったものの、青息吐
息だった。
「これをご覧」
ノバァが指差した石畳は、黒く変色していた。よく見ると、キラキラと光るガラス
質のものが付着しているようだった。
頭を上げたカズの目に黒焦げになった木の枝が映った。
カズが枝に触れるとすぐにポロポロと崩れた。高温で焼かれたらしい。形を残した
まま炭化するというのは、一瞬に焼かれたためだろう。その辺りの木々は多少を問わ
ず焦げていた。
「これは、例の・・・」
その時である。
「そこで、何をしている!」
野太い声が二人を恫喝した。
二人が振り返ると、脚立と大きな植木鋏を持った恰幅のいい男が立っていた。
「あら、ごめんなさい。ちょっと珍しい花があったので、車から降りたの」
ノバァがすぐに答えた。
「勝手に立ち入ることはできん所だ。さっさと帰れ」
白い口髭が顔の輪郭を囲んでいる庭師らしき男はぶすっとしていた。
「あらっ、愛想の無いこと。もっと笑顔を見せてくださらない?」
「この顔は生まれつきだ」
「すみません。すぐに出て行きますから。あのう、ここでよく焚き火でもするんです
か?」
カズが惚けて尋ねると、庭師は眉をひそめた。
「お前さん達は、何者じゃ?」
「ノバァ・モリス、ご主人の友人ですわ」
にこやかに笑顔を見せると、ノバァは自分から手を差し延べ、庭師と握手した。
「カズ、カズ・コサック。ノバァの友人です」
カズも握手した。
「答えにはなっとならん。大方、警察か、探偵屋じゃろが。女だてらに、腰にそんな
物騒な物を下げてりゃ、普通の御婦人ではないことは一目瞭然じゃて」
男はノバァの腰のポシェット型のホルスターをちらっと見た。
ノバァは小首を傾げ、肩を竦めた。それが実に様になっていた。
「実はご主人にある仕事を依頼された探偵です」
「そんなに簡単に身分を明かすようでは、腕前の方は大したことないな」
「あなたが信頼できる方だと思って打ち明けたんです」
男は、焦げた枝の下に脚立を広げて立てると、それによじ登った。
「それは、白い火の球の跡じゃ」
脚立の上に跨がると、彼は大きな植木鋏で炭化した枝を切りながら話し始めた。
「三日前のことじゃ。この屋敷を一人のジャーナリストと言うか、やくざなルポライ
ターがやって来た。旦那様と大喧嘩のあげく、帰る際におぼっちゃまの可愛がってお
られた犬のマッキーが、そのルポライターの車に轢ねられた。その時、側におられた
おぼっちゃまが、大層嘆き悲しまれてのう。じゃが、そのルポライターの男は詫び一
つ入れなんだ。そのまま、立ち去ろうとしたのじゃ。男の車が十メートルも走らない
間に、その車は真っ白な光る球に飲み込まれたのじゃ。すぐに光は消えたが、その後
には、真っ黒に焼けた車の残骸があっただけじゃった。ネットワークニュースにも載
っとらんじゃろ? 事件は、闇から闇に葬られたのじゃ」
そういえば、昨夜のバイクの事件も、ニュースにはならなかった。
「そして、おぼっちゃまは、屋敷から消えてしまわれた」
「消えた?」カズとノバァの声がハモった。
「その場を目撃しとった者は誰もおらん。全て想像じゃ。その事件で、おぼっちゃま
は忽然と消えなさったのじゃ。だから、お前様方が旦那様に呼ばれたのじゃろ?」
「でも、子供の足では、この郊外の屋敷から市街地まで歩いては行けないわ。おぼっ
ちゃまはどうやって消えたのかしら?」
「事件後、屋敷の車が一台、行方不明になってな。『ブルー』というコンピューター
カーじゃ。ブルーはとてつもなく頭のいい奴でな。おぼっちゃまは、学校の登下校に
このブルーを使われておった。恐らく、ブルーに乗って行かれたのじゃろうて」
その時、真っ黒な車がノバァ達の横を通り過ぎ、門から出て行った。
「やれやれ、今日はポリスもおいでだったらしいのう」
「シティ・ポリス?」カズが聞き返した。
「そうじゃ、確かハザウェイ警部とか言っておったのう」
正門から外に走り去る黒い車を見つめていたノバァは突然、自分の車に走った。
「おじさん、ありがとう。恩にきるわ。また会いましょう」
「ノバァ、一体どうしたのさ。ワーーーーッ」
ノバァを追って助手席にカズが飛び込んだ途端、車は走り出した。
「あの車を追うのよ。あれに乗ってたのはハザウェイ警部じゃないよ」
「えっ!」
「誰かがハザウェイ警部の名前を騙ってるのよ!」
二台の車はピーク城をあとに市街地に向かって、一本道を疾走した。その車間距離
は縮まる気配がなかった。安全装置の外れたノバァの運転技術と、このスポーツセダ
ンの千馬力のパワーでも、黒い車には容易に追いつけるとは思えなかった。
「あったまにきちゃうわね! なんて速いの!」
「ノバァ、あいつは普通じゃないよ。パトの馬力じゃ出ないスピードだよ」
「じゃあ、誰だっていうのよ。どう見ても覆面パトじゃないの」
既に十分以上も追跡ごっこをしていたが、カズは妙なことに気付いた。
黒い車は、カズ達の車が遅れると、スピードを落とすようなのだ。
「あの車、僕達を誘き寄せてるんじゃないかな」
「なんですって!?」
「少しスピードを落としてくれないか」
ノバァは怪訝そうだったが、比較的素直にカズの言葉に従った。
二台の車間は開き、やがて黒い車は大きく右廻りのカーブに消えて行った。
「バカ! 置いてきぼり食らっちゃったじゃないの!」
再びノバァがアクセルを床に踏みつけた。
カーブを曲がり切った所にトンネルの入口が見えてきた。トンネルの中に入ると、
オレンジナトリウム灯に照らされた前方に、黒い車のテールライトが見えた。
突然、前を走っていた黒い車の後部トランクから白い煙が吹き出した。
「ミサイルだ!」カズが叫んだ。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−