#1281/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (RMF ) 88/11/27 21: 0 ( 99)
「秋本ヨナの復活」第5話 暇だから 山椒魚
★内容
「暇だから、小説でも書いてみようかと思った男がいた。
六畳一間のアパート。当然と云えば当然の所に住んでいた。金がないの
だ。働いてもいない。遊んでもいない。つまり、何もすることがない。
する気もない。テレビもない。電話もない。あるのは暇と目の前の何枚
かの紙きれだった。はじめはその紙で折り紙でもしようかと思った。で
も、やめた。そして、小説を書こうと思った。
「いい考えだ」男はうなずいた。
「何を書こうか」男は考えた。
何もなかった。これじゃあ、いかん。男はさらに考えた」
秋本氏の作品「暇だから」の冒頭の部分である。男は、結局、小説を書くか
わりに、トイレにいってウンコをする。ただそれだけのストーリーである。ば
かばかしい。阿呆らしい。くだらない。しかし、この小説はAWCの若い人た
ちにうけた。もう一つのウンコ小説「贈物をありがとう」とともに1987年
度メガネ大賞アイデア部門の授賞作品となり、更に近く出版される予定のAW
Cの本にも掲載されることになっている。
この作品には文学的青春の原点がある。秋本氏が若い頃に書いた作品が下敷
になっているのではなかろうか。一度でも小説を書こうと思ったことがある人
ならこれを読んでニヤリとし、自分にも思い当たることがあるぞ、とうなずく
のではないだろうか。小説を書こうという意欲だけはあるのだが、いざ書こう
とすると書けない。内部にモヤモヤとうっ積しているものを表現することが出
来ないのだ。
山椒魚にもこのような文学的青春があった。「暇だから」に似た短い小説を
書いた記憶さえある。この道はいつかきた道。なつかしい。タイムスリップし
て、ちょっと、あの頃に戻ってみることにしょう。オンボロアパート日の出荘
の四畳半。テレビもない。電話もない。金もない。ガールフレンドもいない。
勉強する気にもなれないし、働く気もない。あるのは暇だけだ。仕方がないか
ら、隣室の友人のところにでも遊びに行くことにした。そいつは、ゴロリと寝
そべり、天井を眺めながら、タバコを吸っている・
「おい、秋本、何か食うものはないか」。
「なんだ、山椒魚か。食うものならないよ」。
「おまえタバコ吸ってるじゃないか」。
「パチンコでとった」。
「どうして腹のたしになるものに替えないんだ」。
「俗物に天才の気持ちがわかるか。タバコは思索に必要だ」。
「おまえのどこが天才なんだ。「暇だから」というくだらないウンコ小説を
書いただけじゃないか」。
「あれは傑作だ。俗物にはわからん」。
「腹へったな。ちょっとカネ貸してくれ」。
「ある訳ないだろ」。
「弱ったな。朝から何も食っていないんだぞ」。
「カネならクエストに借りたらどうだ」。
「あいつは気のいい奴だから頼めば貸してくれるだろうが、今までにも随分
借りているから頼みにくいな」。
「じゃあ勝手にしろ」。
「おまえ小説を考えているのか」。
「ああ」。
「何か書けそうか」。
「まだだ」。
「俺は書いたぞ。自信を持って世に送れる小説だ。ある文学賞に応募しょう
と思っている」。
「どんな小説だ」。
「うん、「黄色恐怖症」という題名で、われわれ新人類の繊細で鋭い感覚を
描いた傑作だ。読ませてやろうか」。
「なに、「黄色恐怖症」? 歯歯歯。そりやあダメだ。落選するにきまって
いる。応募するだけムダだよ」。
「読みもしないのに失礼なことを言うな」。
「読まなくてもだいたいのことは想像できる。題名を聞いただけでオチがわ
かってしまうような作品はダメだよ」。
「じゃあオチを言ってみろ」。
「黄色が嫌いな男がいる、そうだろ」。
「うん」。
「その男は、黄色いものに恐怖を感じるようになる。ヒマワリや菜の花や蝶
々がコワイ。交差点の黄色い信号もコワイ。中でも一番コワイのは黄色のセー
ターや黄色のスカートの女の子だ」。
「・・・・・・・・・・・」。
「そんな男でも恋をした。もちろん、相手は、白い服しか着ない白雪姫のよ
うな可愛い女の子だ。ある日、彼女の両親が留守をしている時に自宅へ招待さ
れた。白いドレスを着ている彼女は、白い壁、白い机、白いベッドの寝室に男
を招き、お風呂に入ってきたら、と言う。男は、風呂に入り、期待に胸をふく
らませながら寝室に戻る。そこで、男が見たものは・・・」。
「ストップ、もういい、やめてくれ」。
「図星だろう」。
「どうしてわかった」。
「わかるさ。いいか、文学はオリジナリティが大事なんだ。この秋本さんの
マネをしてもダメだよ」。
「マネじゃないよ。俺の方が先に書いたんだ」。
「証拠があるか」。
「ない。まあいいさ。せっかく書いたんだからは応募してみよう」。
「それはおまえの勝手だ」。
「ああ、女を抱きたいな」。
「黄色いスカートの女でもいいのか」。
「女ならなんでもいいよ」。
「真魅奈という子は可愛かったな」。
「短歌のうまい女子高校生だと噂に聞いたことがある。おまえだろう、サラ
ダねえちゃん、と言ってからかったのは」。
「うん」。
「あの子がいなくなったのはおまえのせいだ」。
「違うよ」。
「腹がへったな」。
「実は俺もそうだ」。
「タンメン食いたいな」。
「タンメン食いたい」。
「やはりクエストにカネを借りに行くか」。
「待ってくれ。俺も行く」。 (続)