AWC 「秋本ヨナの復活」 第2話 永生   山椒魚


        
#1277/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (RMF     )  88/11/27  20:27  ( 99)
「秋本ヨナの復活」 第2話 永生   山椒魚
★内容

 声をかけようかどうしょうか、と山椒魚はしばらく迷った。秋本氏とはボー
ドの上でのつきあいだけで面識はない。草刈正雄に似ているといっても、本人
がそう言っているだけで、ほんとに似ているかどうかは?である。旅に出かけ
る格好ではないし、人待ち顔でもない。それに、そもそも、この暑いのに何故
秋本氏がわざわざ川崎から東京駅までやってくるだろうか。動機がないではな
いか、動機が。

 強いて言えば、秋本氏が「叫びのアイスティー」という作品でAWCに衝撃
的なデビューをしたのが昨年の今ごろだから、あるいは今日が丁度1年目にあ
たり、1周年を記念して思い出の鈴の下にやってきたということは考えられる。
ロマンチックなタイプの人間ならそういう行動をとるかもしれない。しかし、
秋本氏はロマンチックなタイプだろうか。

  秋本氏の作風は、自称「お笑いの文学」であるが、その笑いは単純な笑いで
はない。人間の愚かさや人生のばかばかしさを見すえた不条理の笑いである。
「不条理の文学」といえば、ゴーゴリやカミユに連なる純文学ではないか。し
かし、お笑いのサービス過剰で、上品な純文学のはんちゅうからはみだしてし
まった作品が多い。純文学のはみだし野郎といった雰囲気である。

 どうもロマンチックなタイプではなさそうだ。1周年記念をかみしめるため
に東京駅までわざわざ来る筈がない。とすると人違いだろうか。いや、やはり
秋本氏だ、と山椒魚は思う。直感的にそんな気がするのだ。鯨の腹の中のよう
な病院の手術室で死亡し、幽体分離したばかりの秋本氏か、それともパソ通の
やりすぎで頭がおかしくなった山椒魚の幻覚が生み出した秋本氏かもしれない
が、とにかくあれは秋本氏だ。声をかけてみよう。

 「あの、失礼ですが、秋本さんでは」。
 「ええ、まあそのようなものですが」。
  「やはりそうでしたか。人違いでなくてよかった。胃潰瘍の具合いは、如何
ですか」。
 「パソ通をやめたおかげで少しよくなっています。でも、おたくは誰?」。
  「山椒魚です」。
  「山椒魚? ああそうですか。さいなら」。
 「ちょっと、待って下さい。逃げることはないでしょう」。
 「私、用事がありますから」。
 「そう言わないで、少しつきあって下さい。私は、秋本さんのファンです。
AWCに掲載されている全作品を読んでいます。けったいな小説ばかりですが、
実に面白い。面白いだけでなく、心理的なリアリティがあって、人生の深淵を
考えさせられます。驚きました。日本にこんなすぐれた小説の書き手がアマチ
ュアの中にいるとは」。
 「私、年上の人に認められてもちっとも嬉しくないです」。
 「どうですか、喫茶店でアイスコーヒーでも飲みませんか。お金は私が払っ
てもいいですから」。
 「アイスコーヒーは好きですが、年上の男とは飲みたくない」。
 「冷たいですね。私の気持ちをちっともわかってくれないんだから」。
 「歯歯歯。山椒魚さんが女ならよかった」。
  「秋本さん、お慕い申し上げております」。
 「歯歯歯。身の毛がよだつ。さいなら」・
  「帰るのですか」。
 「用事がありますから」。
 「それではおひきとめしません。でもお別れする前に一つだけ教えて下さい。
秋本さんは、2カ月ほど前にあの銀の鈴を見て、永生について考えた、とボー
ドに書いておられましたが、そこのところをもう少しお聞きしたいのです。実
は、私も以前から永遠の生命という問題に関心がありまして・・・」。
 「永遠の生命? 考えたこともありませんよ。誤解です。私が考えたのは、
エイセイではなくて、ナガイキです。まあ、そんなにナガイキをしたいとも思
いませんが、せめて1999年まで生きて、ノストラダムスの大予言が的中す
るかどうか見届けたい、と思っているだけです」。
 「ああ、1999年に宇宙から恐怖の大王がやってくるというSFみたいな
予言ですか。でも、1999年といえば、わずか10年後ですよ。そんな短期
的なことより永遠の生命の方がもっと大事な問題だと思いませんか」。
  「歯歯歯。あなたは偉い。さいなら」。
 「では失礼します。今日のところはこれでひきさがりますが、これからシツ
コクつきまとおうと思っていますので、覚悟して下さい」。

  秋本氏は、人混みの中に消えていった。呆然として後ろ姿を見送る山椒魚。
あれはほんとうに秋本氏だろうか。パソコン通信の世界では、秋本氏は死亡し、
葬式も行われたが、実生活では胃潰瘍に苦しんでいるとはいえ、1999年を
目指してまだ生きている筈だ。しかし、その生きている人物は、厳密にいえば
秋本氏ではない。秋本というのは、本名ではなく、パソコン通信用の偽名なの
である。山椒魚のようにおどろおどろしい名前をつけず、さりげなく秋本と名
乗った。憎い。

 本名でないことは、「秋本骨つぎ堂の逆襲」というエッセィ風の連作を読ん
でわかった。本名だったら、いくら図々しい山椒魚でも、川崎院風狂秋骨居士
という戒名やヨナという洗礼名をつけるような失礼なことはしない。九州の出
身というから本名は伊集院とか龍造寺とかいう立派な名前かもしれない。ある
いは、天草四郎の子孫か。

  秋本氏よ、あなたは、今日も、川崎の線路沿いの暗い道を蹌踉と歩いている
だろうか。私は、5カ月前、その暗い道であなたの後ろ姿を見かけた。その時
のシーンを再現しょう。

  大体ひと月の間
    パソコン通信をやめていたことになる。
    ほんとはモットやめているつもりだった。

先月の23日、例の如くに外で食事をして帰る川崎は線路沿いの暗い道。
突然の嘔吐。ゲボッ!
防ぐ暇もあるものか。いきなりの消化物逆流。胃潰瘍の逆襲。
うしろから来る人あり。その人驚く。足音止まる。
わたし再び歩く。歩きながら決意する。鳴呼、煙草とコーヒーとパソコン通信
をやめよう。うしろの人も再び歩き始める。
   (「秋本骨つぎ堂の逆襲」(止めていたが)88・4・20より)。

 ところが、天は路線変更をきらった。「お前は健康であってはならない」。
秋本氏は、配転を申し渡され、会社を辞めてしまった。そして、煙草とコーヒ
ーとパソコン通信を復活し、胃潰瘍を悪化させてしまったのである。 (続)




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