#1274/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (UCB ) 88/11/27 8:28 ( 71)
とらぶるビーチ(2) おうざきあかん
★内容
ゆうこさんが不幸な目にあった時間を、少しだけさかのぼった数分前。
平泳ぎをしているようで、その実、単に浮いているだけのえりなちゃん。今度
はくるりとあお向けになりました。
「んー、いい気持ち!」
波も穏やか。しぶきの音もぱちゃぱちゃと心地良くて、時ならぬハンモックと
いったところでしょうか。
しばらくして、えりなちゃんは何かが動くのに気がつきました。どこから流れ
てきたのでしょうか、緑色をしたビーチボールが波間に漂っているのです。
まわりに人影はありません。
「今なら、人に見られないわ……」
小さくつぶやいたえりなちゃん、すっと身を起こしました。水の上を歩いてみ
ようと、そう思ったのです。まず手をついて、バランスを取りつつそろそろと水
上に起き上がります。スケートの要領でいいはずです。
ビーチボールを目標に、まず一歩。もう一歩。まるで月面に立った宇宙飛行士
さんのように、緊張したおももちで足を運びます。以外とうまくいきます。
うれしくなったえりなちゃん、ビーチボールに向かって駆けだしました。とこ
ろが、遊泳区域を示す、あのワイヤーに足を引っかけて、海面に向かって盛大に
つっ転んでしまったのです。バッシャーーーン!!
「い、痛い! 痛いー!」
あまりの痛さに、えりなちゃんはしばし波間につっぷしていましたが、気がつ
くと……。
「きゃああ! ブラが無い!!」
転んだショックのためか、水着のブラが外れて、海底に沈んでいるのです。何
という事でしょう。潜って水に体を隠そうにも、沈めません。当然、沈んだブラ
を取る事もかないません。
あの薬です。博士の作ったあの浮き薬が、意外な障害となって、彼女とブラと
の間に立ちふさがったのです。
「いやーん! 恥ずかしいよう!」
えらい事になりました。それでも、何とかブラを取ろうとじたばたしている時、
水中にへたりこんでもがいている女の子を発見したのです……。
ゆうこさんはハッとして、えりなちゃんはドキッとしました。視界が急激にせ
ばまり、二人の視線が、ぴったりと合ったのです。
片方は、水面を求めて、空の色をうつしているのに、海水に充血して紫色に染
まった、カッと開いているのに、どこかうつろな瞳。
そして片方は、海底をただようビキニの布を追っていた時までは大きく開いて
いて、海底に人影を見つけて、いぶかしげにひそめられた、それでも活発そうな、
黒い瞳。
二組の瞳がお互いを吸い寄せあっているようです。
どちらが先に動いたのかは、分かりません。音波も電波も使わないコミュニケ
ーションが終わると、視線を追って腕がのび、やがてお互いにしっかりと握りあ
ったのでした。過ぎる時間の、何と長かったことか。でもそれは、現実的にはほ
んの数瞬の出来事だったのです。
そしてそのささやかな時間が過ぎ去った時、二人の女の子は、水面と海底には
さまれた空間で、抱き合っていました。取るにたりない短い時間ではありました
が、その美しい光景は、二人が弾みをつけて延びあがり、エメラルド色のしぶき
と共に海面に頭を出すまで続いたのです……。
狂ったように深呼吸と咳をくり返すゆうこさんの顔に、暖かい夏の日ざしと涼
しい夏の風が「現実」という文字を書き込んでいます。結構な事ですが、それに
つれて、足にも激痛が戻ってきたからたまりません。
「!!! アアーーーーッ!」
悲鳴といっしょになってしがみついたのは誰あろう、近くに遊泳区域を示すボ
ールかロープはないかとキョロキョロしていた、えりなちゃんだったのです。
やめてよ、離してよ! などと言う訳にもいかず、じたばたしている内に、二
人仲良く溺れそうになりました。そして小さな迷いと妥協の末、えりなちゃんは
決心し、全身を使って叫んだのです。
「助けてえーーーーーっ! 溺れるーーー!」
その声は波をぬって、海辺にいた監視員に届きました。返事は、ピーーーーッ
という警笛となって、えりなちゃんの耳に戻ってきました。やがて飛ぶように近
付いてきたモーターボートをぼんやりと眺めるうち、えりなちゃんはある事に気
がついたのです。
<あたし、泳いでる……>
博士の作った、浮く薬の力ではありません。それとはまったく違う感覚なので
す。いつしかえりなちゃんは、ゆうこさんをくっつけたまま、自分の手足を使っ
て、海の上に顔を出していたのです。
<カナズチだったはずなのに……自分で泳いでる!>
<つづく>