#1247/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE ) 88/11/13 13:22 ( 96)
トゥウィンズ・2 六章 ( 3/ 5) (33/43) あるてみす
★内容
そして、通夜、葬式と、僕が目を覚まさないうちにすべてが終わり、ミコ
ちゃんは煙になって空へと帰っていった。―――――
「……お前もさ、お嬢さんと別れの挨拶してこいよ。俺も付き合ってやるか
らさ。」
僕は、あまりのことに呆然となり、しばらくは何をしたらいいのか判らな
かった。
でも、一美が泣きながらも、いろいろと用意してくれていて、気が付くと
僕は黒のワンピースに身を包んでいた。
健司は僕が着替えるのを玄関先で待っててくれて、一緒にミコちゃんちに
向かった。
一美も、うちで二人きりで待ってるのも嫌だし、デートする気分にもなれ
ないからって言って、僕と同じ黒のワンピースに着替えて、康司と一緒に付
いてきてくれた。それでも道中は一言も口をきかず、ただ黙々と歩き、そし
て電車に乗り、ようやくミコちゃんの家に着いた。
毎度おなじみの広くて豪華な造りの玄関を抜けて、ミコちゃんの部屋に通
されると、そこはいつも通りの部屋で、特に何も変わったことはなかった。
ただ、その部屋の主であるミコちゃんがいなくて、代わりに、白いピアノの
上に黒いリボンのかかった大きな真新しいミコちゃんの写真があることを除
いては。
部屋の隅には、また海に行くつもりでいたのか、この前、海に行ったとき
にミコちゃんが着ていた水着が吊してあった。
ミコちゃん御自慢の白いピアノはふたが開いていて、いますぐにでもミコ
ちゃんに弾いてもらうのを待っているかのようだった。
愛用のステレオ。いつもはクラシックのレコードをかけてたけど、時には
歌謡曲なんかも流してた。そしてほとんどクラシックばかり並んでいるレコ
ードの棚。ブラームスやチャイコフスキー、ショパン、バッハなどの有名な
ところから、普通の人じゃ知らないようなものまで並んでいる。
主に白系統の色で統一された、そのすべてが元のまま。ただ、ミコちゃん
の姿が見えないだけ。
すぐにでも部屋の扉を開けて、
「お待たせ。」
とか言って、白いワンピースを来たミコちゃんが入って来そうな気さえす
る。
本当にミコちゃんがいなくなったなんて、未だに信じられず、部屋の中に
ミコちゃんの姿を追い求めてしまう。
そのとき、ミコちゃんの御両親が、ピアノの上のミコちゃんの写真を胸に
抱いた。
そこにはミコちゃんが微笑んでいる。そして、額縁には黒いリボン。
ミコちゃんの御両親の悲しみの様子。健司と康司、それに一美の暗い顔。
部屋の明るさとは対照的な暗さ。そして、部屋の白さの中に、ぽつんとしみ
のようにミコちゃんの写真の黒いリボン。
その明るさと暗さの奇妙な対称さに違和感を覚える。
ミコちゃんの御両親の案内で、近くの墓地に行き、河野家のお墓の前に着
くと、そこに真新しい十字架が一つ。他には何もない。
「うちはね。私一代で身を起こしたものですから、墓地なんて持ってなかっ
たんですよ。でもね、私もそろそろ年だし、いい加減に墓地くらいは持って
いた方がいいかと思いましてね、家の墓地として確保しておいたのが、この
土地なんですよ。まさか、そこに自分の娘が一番最初に入るなんて思いもよ
りませんでしたがね。」
ミコちゃんのお父さんの淡々とした、それでいて悲しみを秘めた言葉に、
胸がつまって涙がこぼれそうになる。
そして、しばらくミコちゃんの魂の安らかならんことを祈る。
「ミコちゃん。未だに信じられないけど、本当にもう会えないんだね……。」
そう呟いて、涙を拭ってミコちゃんにお別れをして、お墓を後にする。
ミコちゃんの家に戻って御両親と共にミコちゃんとの思い出などを話し、
ミコちゃんのお母さんと一緒にひとしきり涙を流したあと、お通夜とお葬式
に出られなかった非礼を詫びた。
「美子もね。博美さんに会えなかったこと、最後まで残念がっていましたよ。
どうしても伝えたいことがあったとかで。でも博美さんも大変な状態だった
んですものね。仕方ないですわよね。」
「あの……。」
突然、健司が口をはさむ。
「お嬢さんが博美に伝えたかったことの内容なんですけど、俺が代わりに聞
いてあるんです。まだ博美には伝えてないんですけど、ちょっと個人的なこ
となんで、博美には後で伝えてやります。」
「そうですか……。あの子は、それだけが心残りだって言ってたんですよ。」
そして、またひとしきり涙を流したあと、
「あの子ね。最後に博美さんに『短い間だったけどありがとう』って伝えて
おいてって言ったんですよ。そのあと……そのあとで……。」
ミコちゃんのお母さんは、そこで完全にハンカチに顔を埋め、肩を震わせ
ている。
一美も一緒に泣いていた。僕もミコちゃんの最後に会えなかったことで、
一層悲しくなってしまって胸の中がつかえてしまい、ハンカチを涙でグショ
グショにしてしまった。
ミコちゃんの家からの帰り道。僕は健司と並んで歩いていた。一美は康司
と一緒に、僕達の少し前を歩いている。
しばらくは黙りこくっていたんだけど、そのうち健司が、
「あのさ、お嬢さんがお前に遺そうとして、俺に伝えたことなんだけどさ。」
「あ、さっき言ってたやつ?」
まだ、喉の奥がつまっているみたいな感じがして、今一つ声に力が出ない。
声がふるえて止まらない。これって、完全に泣き過ぎだよね。
「ああ。これさ、あんまり人には聞かれたくないからさ。今、伝えようかと
思ってな。」
「そう……。で、ミコちゃん。なんて言ってたの?」
「博美、健司くんと仲良くね、って言ってた。お嬢さんは俺が博美のこと好
きだっていうの知ってたんだ。ところが博美は、お嬢さんと俺をくっつけよ
うとしてただろ? もうその必要もないからって。そして、博美も早く自分
の本当の気持ちに気付きなさいってさ。」
「……。」
一瞬、言葉を失う。と、健司が続けて言う。
「博美さ、俺のこと嫌いか?」
僕は、その言葉にちょっとつまって答える。
−−− まだあるよ −−−