#1245/1850 CFM「空中分解」
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トゥウィンズ・2 六章 ( 1/ 5) (31/43) あるてみす
★内容
六章 ミコちゃん……
ふと、暗黒の淵から、かすかに意識が戻ってきて、だんだんはっきりとし
た意識として、蘇ってきた。そして、目の前が明るくなってきて目を開ける
と、心配そうにのぞき込む三人の顔。
「あ、博美、気が付いたみたいね。大丈夫?」
一美が、ほっとした表情になる。
しばらくの間、見慣れた天井をぼんやりと見ていたが、そこではっと気付
く。
「あれ? ここ、家だよね。なんで、こんなとこにいるんだ? ミコちゃん
とこの別荘にいるはずなのに。」
ガバッと起きあがって、そう言うと、
「何言ってんだよ。階段でコケてから、今までずっと意識不明だったんじゃ
ないか。」
「へっ? 階段でコケた? ガケから落ちたのは覚えてるけど、なんでそれ
が階段でコケたことになるんだ?」
「お前さ、自分の名前、判るか?」
「今更、何言ってんだよ。」
「いいから、答えてみな。」
「中沢博美。」
「年は?」
「今は十六だけど、もうすぐ十七になるよ。」
今更、何を言ってんだろう。こんなの判りきったことなのにさ。健司のや
つ気でも違ったんじゃないか?
そんな感じで、ちょっとぶっきらぼうに答える。
「そうか。どうやら記憶は戻ったみたいだな。」
その言葉と共に、一美が本当にほっとした表情をして、
「よかったあ。やっと元の博美に戻ったのね。」
と言って抱きついてきた。健司は少しも表情を変えずに、
「じゃあさ、今日が何日か判るか?」
「えーと、八月に入ったばかりだったから……二日か三日ってとこだろ?」
「いや、今日はもう八日だ。」
「へっ? なんでさ。だって、僕が覚えてるのは、一日にミコちゃんちの別
荘のガケから落ちたとこまでだよ。もしかして、僕、一週間も気を失ってたの?」
「いや、そんときはすぐに気が付いたんだけどさ、記憶喪失になってたんだ。
それが三日前まで続いてさ、で、三日前の夕方、階段から落ちて、それから
今までは全然気が付かなかったってわけ。」
「えーっ? そうなの? 全然覚えてないや。」
「まあ、そんなとこだろうな。でさ、これも覚えてないだろうけど、三日前
の夕方、ちょっと電話があったんだ。」
そういう健司の言葉で、三人の表情が沈痛なものとなる。
「ふうん。誰から?」
「由香からだったの……。」
一美も暗い表情のまま、やっと言葉を絞り出したように言う。
「で?」
「お嬢さんがさ、危篤になったっていう知らせだったんだ。そこで慌てて出
かけようとして、お前は階段で足滑らして頭ぶつけて、そのまま今日まで意
識不明やってたんだけどさ、そんときに医者呼んで、あとを任せてさ、俺達、
すぐにお嬢さんの家に駆けつけたんだ。」
そして、健司は一息付いて、ちょっと喉を詰まらせたあと、
「だけど……、俺達が行ってからすぐだったよ……。お嬢さんが死んじまっ
たのは……。」
健司が声を詰まらせながらも吐き出すような感じで言うと、今までこらえ
ていたものが我慢できなくなったかのように、一美が泣きだした。
健司と康司は、なんとか涙だけは流すまいとしているのか、必死にこらえ
ている。
僕は、それを聞いたとき、何か聞き間違えたか、あるいは冗談でも言われ
たのかと思った。でも、健司がそんな冗談を言うわけないし、それに、今の
皆の様子からして聞き間違いとも思えない。
そして、そのあとしばらくは一美の泣き声だけが聞こえ、健司と康司は身
動き一つしなかった。
「う、嘘だろ……?」
僕は、しばらく呆然としたあと、ようやく言葉を発したんだけど、その声
は、かすれてうつろに聞こえる。
「お嬢さんはさ、博美にもう一度会いたかったって言い残して逝っちまった
よ……。」
あんなに元気だったミコちゃんが死んだなんて、とても信じられない。そ
んなの嘘に決ってる。
「俺だって信じたくはないさ。だけど、一昨日の通夜と昨日の葬式に出た以
上、信じるも信じないもないだろ? 悲しいけど……あまりにも悲しすぎる
けど、それでも事実なんだ。」
健司は、そう言ったあと、しばらく言葉を失って沈黙する。そして、通夜
と葬式の様子をかいつまんで話してくれる。―――――
記憶喪失の僕が階段でコケた後、いつまで経っても目を覚まさないので急
いで救急車を呼んだ後、健司、康司、一美の三人はすぐにミコちゃんのとこ
ろへと駆けつけた。
ミコちゃんは、重体患者のみが入るとされているリカバリ専用の個室に入
っていて、既に酸素マスクに何本もの点滴を受け、完全に危篤状態だった。
それでも意識はわずかに残っているらしく、三人が来たのは判ったらしい。
そして、ミコちゃんの御両親やお兄さん、先に到着していた由香ちゃんや
茂とともにミコちゃんの枕元に集まった。真琴がいなかったのは、連絡が取
れなかったためらしい。
ミコちゃんは三人を認めるとわずかに微笑んで、それでも僕の顔が見えな
いことに気付いたらしい。しきりに何か言おうとしていた。
健司が、僕が階段でコケて頭を打って気を失い、まだ目を覚まさないこと
を告げると、苦しい息の下で心配そうな顔をした。そして、自らの手で酸素
マスクを外す。
医師や看護婦は慌てたけど、ミコちゃんはしっかりした口調で、
「大丈夫です。少し、話をさせて下さい。」
と言いきって、医師達の行動を止めた。そして、
「それで、博美の記憶喪失は直ったのかしら?」
「いや、まだなんだ。さっきコケて頭を打ったから、その衝撃で記憶が戻れ
ばいいんだけどね。」
「本当に、あたくしのとこの別荘で、あんなことになったんですものね。責
任を感じてしまって。」
−−− まだあるよ −−−