AWC 夏休み>【ブルー・ネットワーク】(最終回)コスモパンダ


        
#1139/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 9/ 4  23: 3  ( 90)
夏休み>【ブルー・ネットワーク】(最終回)コスモパンダ
★内容
                エピローグ
  ひょうたんプールのプールサイドに、水着を着た幼い女の子が、イルカの絵のボー
ルを持って遊んでいた。
 その側には母親らしいスタイルのいい女性が、ショートパンツから出た長い足を投
げ出し、ビーチチェアに寝そべっていた。
 その女性は、小型のラップトップパソコンを操作していた。
 大型表示器には、海図の上にチカチカと点滅する点が表示されていた。
 それは、この近辺の海域にブイに仕込んで設置された水中音響装置の位置を示して
いた。
 この数年間、大量のブイが設置され、広域海中音波監視網が完成していた。
 水中音波は、魚やクジラやイルカの類の通信手段として用いられている。
 船のスクリュー音を探知し、船の種類、大きさ、船名、船籍までを探知する、長距
離聴音レーダーは既に一九六〇年代後半から実用化されている。
 しかし、この広域海中音波監視網は、純粋な学術的目的で設置されたものである。
 一時は軍事目的に利用しようとする輩が徘徊したり、軍事施設の建設と勘違いした
沖縄住民に敷設反対運動を起こされたりしたが、三年の歳月を経て、どうにか完成し
たのだ。
 現在では、海流の変動、水温の変化、魚群の種類や位置、イルカやクジラの通信の
傍受が可能になっている。
 特に、イルカの通信音波の研究は飛躍的に進み、いくつかの有意信号が確認される
までになった。
 この研究所では、数頭のイルカとの水中音波を遣った会話が、ある程度の段階にま
で到達していたのだ。
 イルカと人を結ぶ水中音波のネットワークを完成させたのが、このビーチチェアに
寝そべっている彼女である。
 人呼んで、ブルー・ネットワークという。
                ★ ★ ★
 イルカの絵のボールが、コロコロと転がってプールにはまった。
 幼い女の子が、よちよちとプールに近づく。
 それを見た母親が、ビーチチェアから飛び起きると、幼児に走り寄った。
「危ないわよ。リエちゃん。プールにおっこっちゃうわよ」
「だいじょうぶ。イーがいるもん。イー、イー、おいで、おいで」
 女の子が一杯に水の張られたプールに手を入れた。
 プールの外の海で泳いでいた一頭のイルカが、突然ジャンプすると、物凄い勢いで
プールの中に入ってきた。プールの真ん中に浮いていたボールを、イルカが鼻先でひ
ょいと叩くと、ボールは女の子の所に飛んできた。
 イルカはそのまま、女の子の側にやってくると、プールサイドに頭を乗せた。
 女の子はそのイルカの頭を撫でてやった。イルカは嬉しそうにケケケケ・・・と笑
い声を上げた。
 母親は驚いて、その光景を見ていた。
「ハハハ・・・。驚いた?」
 母親が振り返ると、真っ黒に日焼けした少年が立っていた。
「ケン」
「へへへ、ちょっと、ヒトミさんの端末をいじって、イーとローにリエのことを教え
たんだ。リエが呼べばイーもローもとんでくるよ。かなり遠くにいてもリエが呼んだ
ことが分かるみたい。テレパシーでもあるのかな?」
「まさか」
「テレパシーは冗談だけど、イーやローはどうしてか、リエによく反応するんだ」
「不思議ねえ」
「ヒトミさんは疑り深いな。少しは信じてよ。これでも、一応、海洋大学の海洋生物
学専攻の学生だもんね」
「おいおい、ケン。お前、まだ『ヒトミさん』って呼んでるのか?」
 そのケンの横には、背の高い青年がいた。
「いいのよ、リー。ケンにも昔、言ったことがあるのよ。『博士って呼ぶな。ヒトミ
さんって呼べ』ってね。でも、お母さんって呼べとは言わなかったわ」
 ヒトミは微笑んだ。
「あらっ、その子は?」
 彼の横には、浅黒いが健康そうな若い女の子がいた。
「あっ、この子、カオリちゃん。ガールフレンドなんだ」
 じっと見つめるヒトミに、リーはまるで言い訳するように紹介した。
 カオリはペコリとお辞儀をした。
「こちらは、西田ヒトミさん。僕の憧れの女性なんだ。こいつは西田ケン、悪友だ。
この子が西田リエちゃん。ヒトミさんの娘で、ケンの妹ってわけ」
 ケケケケ・・・・。
 プールサイドに頭を乗っけたイルカが声を出した。
「おっといけない。こいつがイー」
 突然、もう一頭のイルカが皆のいる目の前でジャンプした。イルカが飛び込んだ飛
沫が、全員に掛かった。
「こらーっ! ローの馬鹿ーっ」
 ケンが怒鳴ると、ローはケケケケ・・・と笑いながら、プールから出て行った。そ
のあとをイーが追っていく。
 二頭のイルカはたちまち沖合に遠ざかって行った。
「イー、ロー」
 幼いリエが再び、プールの水に手を入れて掻き回した。
 その途端、沖合に出たイルカ達は、高くジャンプした。
 水しぶきが虹色に輝いた。
 空は青く、エメラルドグリーンの海はどこまでも澄んでいた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−END−−−−−−−−−−−−−−−−−

 短い夏が終わろうとしています。
 コスモパンダの夏休み特集も、ようやく終わりました。
 最後まで呼んで戴いた皆さん、本当にありがとうございました。
 夏は思い出を作る季節でもあります。
 この物語が、皆さんの心のどこかに、ほんの少しの間だけでも思い出のかけらとし
て残れば幸いです。
                             1988年9月4日
                               コスモパンダ




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