AWC 夏休み>【ブルー・ネットワーク】(13)コスモパンダ


        
#1133/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 8/31  21:37  ( 99)
夏休み>【ブルー・ネットワーク】(13)コスモパンダ
★内容
                (12)龍 巻
 『黒い海』は身体を苛まれ、菱形の巨大な身体の周辺部は、ぼろ布のようだった。
 上空には漆黒の雲が現れ、次第に海上に降りて来た。その黒雲の中では、稲妻が光
っていた。
 数百頭の犠牲を出したイルカが作った大きな渦は、『黒い海』を中心に時計回りに
廻り、その速度は次第に速くなっているようだ。
 さっきまでピタッと止んでいた風が洋上に戻ってきた。が、それは亜熱帯のからっ
とした風ではなく、ねっとりと絡みつくような粘着性の風だった。
 イルカと『黒い海』の戦いが始まる前に、空は暗雲に鎖され、海は真っ黒な壁に閉
ざされたかのように、高度二百メートルのヘリから見ても暗い。
 まだ夜が明けて間もないというのに、時間が逆行して夜が戻ってきたようだった。
 沿岸警備隊の二機の十人乗りアエロスパシアル社製SA400型ヘリの二万ワット
のナイトサンFX150サーチライトが、凄まじい情景を照らし出した。
 イルカと『黒い海』、それに激しい爆発に怒濤の如く沸き返る海。
 爆発の光と水柱、それに小さなナトリウム金属の破片が激しく反応して、海上を走
っていく様が見える。
「こちらブルーJ。ブルー199へ、海上の天候が悪化してきた。嵐になるぞ。その
海域から撤退し、基地に帰投しろ」
「ブルー199、了解した。帰投する」
「まっ、待て! 今帰るわけにはいかん! あれを放っておいて帰るのか?」
「西田。危険だ。下手をすると遭難の恐れもある。嵐が去ったら、また来よう」
「私は帰らんぞ。一人でも残る」
「子供みたいなことを言うな!」
 その騒ぎはブルー202の中でも同じだった。
「帰るですって? あんた達、それでも男? 何が沿岸警備隊よ。これぐらいの嵐で
一々帰還してたら、いつまで経っても遭難者も救助できないでしょ!」
「マッカートニー博士。今は遭難者はいません」
「分かってるわよ! もののたとえよ。あっ、それから、私を呼ぶのにマッカートニ
ー博士って呼ばないでくれる? ヒトミ、ヒトミで結構よ」
「はあ」
「それじゃ、残って観測しましょ」
「いや、基地に帰投します」
「あんた達は、あそこで起こっていることが、どれほど大変なことか分かっているの
? 人類が誕生して一度も目にしたこともないし、記録にも無いできごとなのよ。そ
れを自分の目で見ることができることが、どれほど幸運か分かってないの?」
「命令は絶対ですので」
「この石頭! あんた達は言われるままにしか・」
 その時だった。ヘリの外が真っ白になった。
 ビッ・シャァァァァーーーーーーーンンンンンンン・・・・・・。
 ヒトミは、バブルウインドウにへばりついた。
 彼女の目の前に、太いイナヅマが光った。それは空を支える海から生えた光の柱の
ように見えた。
 グワッシャァァァァーーーーーンンンンンン・・・・・・・。
 雷は『黒い海』に落ちたようだった。
 白い腹を見せてひっくり返っているイルカの数は数千頭になった。死んだのか失神
しているのかは分からない。
 『黒い海』が大きく身震いした。どこが頭で、どこが胴体で、手足がどれなのか、
まったく分からないが、その『黒い海』が、のそっと頭を持ち上げたように見えた。
 その途端。
 グシャッァァァァーーーーーーンンンンンンンンンン・・・・・・・。
 世界が真っ白になった。その強烈な光は数十キロ先まで真っ黒な空と海で挟まれた
空間を照らし出した。
 それが『黒い海』に落ちると同時に、そいつは周りのイルカの群れに放電した。
 海面を青白い稲妻が走り、大量の水蒸気が海面を漂った。
 爆発は既におさまっていた。
 ダメージを受けたのは、『黒い海』ではなく、イルカの群れだった。
 密集した陣形があだになったようで、雷のエネルギーはイルカからイルカへ、次々
に伝わっていったのだ。一万はいた群れの殆どが白い腹を上に向けていた。
 身体が元の三分の二程になっても、『黒い海』はまだ一辺四十メートルの威容を誇
っていた。そいつが、海面から姿を消した。一旦潜ったと見えた『黒い海』は、空中
に飛び上がった。
 『黒い海』の背中には、腸をさらけ出したイルカや、夥しい血を流したイルカ、ゴ
ロンゴロンと転がるだけの数百頭のイルカが乗っていた。海牛のように身体を空中で
捩ると、『黒い海』は背中の死体を振るい落とした。
 三重の包囲網のイルカの一番外側の群れはまだ元気で泳いでいたが、空中に飛び上
がった『黒い海』はその生き残ったイルカ達の上に着水した。
 数百頭のイルカが空中に弾き飛ばされ、『黒い海』の巨体が海面を叩いたハンマー
ショックで、海中のイルカ達は死ぬか失神した。
 海面に浮かぶイルカ達を、『黒い海』は横長の口らしき穴に泳ぎながら運んでいた。
 その食欲は、恐るべきものだった。
「酷いよ。なんだ、あいつは! 殺してばかりだ。畜生、お前なんか死んじまえ!」
 ヘリの中からバブルウインドウを通して海上を見ていたケンが怒鳴った。
 ケンだけでなく、ヘリに乗る全員は声も出なかった。
 数千の命が一瞬で失われてしまった。これが、弱肉強食の海の摂理なのか。それに
しても、あまりにも殺し過ぎる。
 これは生きるための戦いではなく、戦争だったのだ。
 だが、その戦争はまだ終わっていなかった。
 イルカ達が作った大きな渦は、次第にその回転を速めていた。今や、大量のイルカ
の死体は洗濯機の中の渦に翻弄されるボロ雑巾のように、渦の流れに乗っていた。
 『黒い海』のその巨体でも渦に逆らうのが困難になってきた。
 イルカの死体の浮かぶ海面に青白い燐光が、ポツリポツリと浮かんでいた。その数
は次第に増えていった。
 再び、真っ白な閃光が世界を照らした。
 数本の稲妻が『黒い海』を襲ったと思うと、止んでいた例の爆発が起こった。
 それも数十の爆発が同時に起こったのだ。
 オーン、オーン、オーーン、ゴオーーーン・・・。ゴーーーーー・・・・。
 その爆発のエネルギーは海面の渦に働き掛けた。
 更に稲妻が走り、一気に数百の爆発が起こった。海水は蒸発し、その蒸気はキノコ
雲のように脹らみ、空に登っていった。
 グワッァァァァァァーーーーーーーーァァァーーーーーーーーーー・・・・・・。
 『黒い海』を中心とした直径三キロの巨大な龍巻が発生した。恐らく百万トンを超
えるであろう海水が、空中に吸い上げられ、上空に垂れ込めた暗雲をも吸い込んだ。
 衝撃波は海面を叩き、空にいたヘリを打った。二機のヘリは翻弄され、巨大な手に
玩ばれているかのようだった。
 凄まじいエネルギーは、物質を破壊し、そしてヘリの人々を、数万年の過去へと導
いていった。
 それは海だけが知っている過去だった。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−




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