AWC 夏休み>【ブルー・ネットワーク】(5)コスモパンダ


        
#1122/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 8/19  23:34  (100)
夏休み>【ブルー・ネットワーク】(5)コスモパンダ
★内容
                (4)密航者

「所長、マッカートニー博士が、モーターボートで出て行かれました」
 所長室でまんじりともせずにいた西田に、大野が報告に来た。
「どこへ行ったんだね?」
「それが、誰も知らないんです。昼間、わたしらがケン君の捜索に出掛けた時も、彼
女は自分勝手に、ひょうたんプールで何かやってましたよ。まったく、しょうがない
人だ」
「無線で呼び掛けたのかね?」
「はあ、しかし彼女、無線を切ってるようで応答がありません」
「まずいな……」
「はっ?」
「今、沿岸警備隊から連絡が入った。ケンを捜索するヘリが、日没直前にセンターの
東南海域で、漂流中の小型ボートを発見したらしい。ボートには三人の男女が乗って
いたが、男性一人は救助した時には死んでいたそうだ。溺死らしい。他にも乗員がい
たらしいが、発見されていない。二人の生存者も具合はあまり良くないらしい」
「それが、何か?」
「生存者の内、口のきける状態の男性の語った話だが……。漂流していた連中は、中
型クルーザーに乗ってたらしい。発見された海域で、事故に逢ったと言ってる」
「事故と申しますと?」
「その男が話したところでは、突然クルーザーの周りの海が黒くなったと思ったら、
次の瞬間には下から突き上げられ、宙に浮いたってことだ。落下した時に、クルーザ
ーは固い物にぶつかったように、船体が真っ二つに折れたらしい」
「潜水艦ですか?」
「どうかな。よく分からないが、男はしきりに『海が黒くなった』って、うわごとを
言ってるらしい」
「海が黒くなった? どういうことですか?」
「分からん。何しろ、熱にうなされている奴の言ってることだから、どこまで信じて
いいものやら……」
「まさか、それが昼間のイケスの網の破れた原因と、関係してるというんじゃ?」
「分からん、だが、マッカートニー博士をその『海が黒くなる奴』が襲う可能性が無
いとは言えないだろう?」
「じょ、冗談でしょ」
「本気だよ。海は、とてつもなく大きい。そして古くて、多くの生命を産み、今も我
々を養ってくれている。その中には、まだまだ我々の知らないものがある筈だ」
 大野は暫く黙っていたが、突然、大きく頷いた。
「分かりました。沿岸警備隊に、マッカートニー博士の捜索を依頼しましょう。幸い
に今夜は、波も穏やかだし、風も無いし、空も晴れています。行方不明者が二名に、
その『海が黒くなる奴』を合わせると、ひょっとしたら、ヘリを出せるかもしれませ
ん。そうすれば、ケン君の捜索を再開できますよ」
 西田は、ケン君云々の話にドキッとしたようだった。
「あまり無理をせんようにな。これ以上、ここのことで迷惑を掛けたくない」
「お子さんは大事にすべきですよ、所長。特に片……。いえ、それじゃ、沿岸警備隊
に依頼してきます」
 大野は最後の言葉を呑み込み、所長室から出ていった。
 扉が閉まると、西田は大きな溜め息をついた。
「片親か……。甘やかせ過ぎたかな……」
 彼は腕を組むと、椅子の背もたれに凭れた。
 壁のディジタル時計が、午前三時を過ぎたことを示していた。
                ★ ★ ★
 チカチカと光る赤い光が、ラップトップの表示器の海図の中央に近づいていた。
 星明かりの下、17インベーダーの進行方向に小さな島影が見えてきた。
 ヒトミは、島の海岸線から百メートル位離れた所でエンジンを切った。そして、ボ
ートに装備されているサーチライトのスイッチをひねった。
 強烈な光が闇を切り裂いた。
 闇の中に浮かび上がったそれは、通称『ヒトデ島』と呼ばれる小島だった。空から
見た形が、珊瑚の天敵のオニヒトデに似ているために、地元の人はそう呼んでいた。
 ヒトミは操縦パネルの下からハンドマイクを取り出した。
「ケン君、聞こえる? 私よ、ヒトミよ。いたら返事して頂戴」
 片手にハンドマイク、片手でサーチライトを島の海岸線沿いに向ける。結構大変な
仕事だった。サーチライトの熱は凄い。ヒトミは額に汗が滲んでくるのが分かった。
 丸い光の輪が、海岸線を舐め回す。しかし、動くものは何も無い。
 ヒトデ島は周囲が三キロ程の小さな島だが、ヒトデの触手のように複雑な海岸線が
続いている。触手と触手の間の部分には、ボートが停泊できる程度の深さがある。
 この辺りの海底には、珊瑚礁があり、珊瑚のテーブルの間を亜熱帯特有の派手な柄
の魚が泳ぎ廻っている。
 ウイークエンドには、スキューバダイビングの絶好のポイントとして、本土からの
レジャー客がボートで乗りつける。
 ヒトミはボートの位置を変えようとした。しかし、その間にはマイクとサーチライ
トから手を放さなければならない。
 もう二本、手があれば。そう思った時である。
「手伝おうか」
「キャーッ」
 背中から声を掛けられたヒトミは、悲鳴を上げた。
 サーチライトの照り返しの中に、ひょろ長い人影が浮かんでいた。
「だ、だれ!?」
 ヒトミは自分の声が震えているのが分かった。
「僕ですよ。博士って、恐がりなんだなぁ」
「リー君! 怖かったぁ〜」
 ヒトミは胸を撫で下ろした。
「あなた、こんな所で何してるの?」
「博士。さっきは御免なさい。薄情者なんて。あの後、博士が昼間言ってた、スピー
カーの改造の話を思い出したんだ。きっとパソコンでローやイーの居所を突き止めよ
うとしてるなって分かったんだ。で、手伝おうと思ったんだけど、きまり悪くてさ。
モーターボートの中にいれば、その内、博士が来るだろうって、隠れてたんだ」
「呆れた。もし私がボートに乗らなかったら、どうするつもりだったの?」
「乗るって信じてた」
「ありがと。それに免じて、さっきの件は許してあげるけど、子供がこんな時間に、
こんな所で若い女性と一緒にいることを、他の大人にどうやって言い訳するの?」
「それは、博士の仕事。頭いいんだもの。それくらい言い訳できますよね?」
「厚かましい。そうだ、もう一つ絶対に許せないことをしたわね!」
「えっ? 黙ってボートに隠れてたこと以外に?」
「そうよ。私のことを『博士』って漢字で呼んだでしょ」
「げっ! ごめんなさい。ヒトミさん」
「結構、結構。それじゃ、サーチライト要員、配置に付け!」
「アイアイ・サー」
「馬鹿! アイアイ・マムでしょ。私は女なの。あなた、英語もできないの?」
 リーは、ここに来たことの大きな間違いを改めて感じていた。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−




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