#1121/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 88/ 8/18 21:55 ( 99)
夏休み>【ブルー・ネットワーク】(4)コスモパンダ
★内容
(3)捜 索
バラバラバラ……。アエロスパシアル社製SA400型ヘリのローター音である。
既に、太陽は傾き、今にも水平線の向こうに消えてしまいそうだった。
夕焼けが、空も海も、真っ赤に塗り潰していた。
捜索ヘリは、二時間近くも、研究センターの近くの島影をしらみつぶしに当たって
いたが、未だにケンもイーもローも発見できなかった。
「ブルー・202から、ブルーJへ。センターの南東海域を半径二十海里にわたって
捜索したが、手掛かりなし。残存燃料はあと、二十分。捜索を打切り、帰還する」
「ブルーJから、ブルー202へ。了解した」
「ブルーJから、ブルー199へ。残存燃料を連絡せよ」
「こちらブルー199。当方の残存燃料は、六十分」
「了解。日没まで、あと十五分だ。現在の海域をギリギリ日没まで捜索し、帰還せよ」
「ブルー199、了解した」
二機の捜索ヘリが投入されていたが、一機は燃料切れで帰還した。
ケンの行方はようとして知れなかった。ローやイー達と、沖合に出て既に八時間あ
まりになる。
自分も捜索すると言う西田所長を周りの職員が抑え、研究所のクルーザーやボート
で、思い当たる場所を目指して散って行った。
そのボートもポツン・ポツンと帰って来た。
もうすぐ日が暮れる。夜の海を小さな小舟でうろつくのは得策ではない。
日が落ちると捜索ヘリも役に立たない。あとは沿岸警備隊の巡視艇だけが頼りだ。
センターの屋上では西田所長が、ローの背中に乗ったケンが消えて行った海を、食
い入るように見つめていた。
ふと視線を落とすと、ひょうたんプールに照明が付いており、ヒトミが工具箱を持
ち出して、何やらしていた。
他の職員は、海に出て行ったというのに……。博士号を持つ若い女性のすることは
分からん。西田はふとそう思った。
★ ★ ★
「ブルー199から、ブルーJへ。セクター20Eで、漂流者を発見。小型ボートに
三名が乗っている。二名は手を振っているが、もう一名はボートの中で横になったま
まだ。付近の海域には、浮遊物が多い。油も浮いている。船舶事故らしい」
沿岸警備隊の基地には緊張がみなぎった。ただちに付近の巡視艇が現場に向かった。
その騒ぎの中、誰もがケンの行方不明のことを忘れたかのようだった。
★ ★ ★
夜、零時を回っていた。ひょうたんプールは、カクテルライトにこうこうと照らさ
れていた。その中で、ヒトミは何本ものケーブルを繋いだ機械と、格闘していた。
よく続くものだ。彼女は、既に十時間以上も、その作業に没頭していたのだ。
「博士。何してんだよ! こんなときに!」
リーが物凄い剣幕でヒトミに怒鳴った。
「丁度良かった。リー君。手伝ってくれないかしら、最後の調整をするから、この端
末に私が言う通りのデータを打ち込んでくれない」
今朝、ケンが持っていたラップトップを、ヒトミはリーに差し出した。
リーは、ヒトミの差し出したラップトップを、両手で払った。薄型のそれは、ひら
ひらと宙を舞うと、ひょうたんプールの中にポチャリと落ちた。
「なにするの!」
ヒトミは水に落ちたそのラップトップ目掛けて、プールに飛び込んだ。
ラップトップはプカプカと水に浮かんでいた。彼女はそれを掴んだ。
「博士は、そんなものが大事なのかい? ケンが気にならないのかい? センターの
みんなは、ケンを探しに行ったんだぞ。だのに、博士は、ぼくらがケンを探してる時
にそんな機械をいじってただなんて。薄情者! 僕だって探しに行ったんだ。今朝、
ローやイー達と一緒に遊びに行くケンを、僕は止めなかった。逆に一緒に遊んでおい
でとイーを追っ払った。まさか、こんな事になるなんて……」
リーは肩を振るわせていた。水から上がったヒトミは、その肩にそっと両手を置い
た。
「止めろよ!」
リーの思いもしない強い拒否の態度に、ヒトミは驚いた。
「僕に触るな!」
「リー、違うのよ。誤解よ」
「うるさい。薄情者の博士の言い訳なんか聞きたくない!」
リーはそう言い残すと、踵を返して走り去った。ヒトミが止める暇など無かった。
大きな溜め息を一つつくと、ヒトミは濡れた身体でプールサイドに座り込み、再び
作業に没頭し出した。
風の無い蒸し暑い夜だった。
★ ★ ★
「できたわ!」
ひょうたんプールにヒトミの歓声が上がった。
しかし、それを聞く者は誰もいない。
彼女は、ラップトップの防水キーを叩いた。
大型表示器に文字が現れた。
<....q..a....>
キーを更に叩く。
<D..F.M...CAU.T.O.N.>
更に叩く。
<E..E..GA..KEGA.T.SUK.TE>
「ローだわ!」
ロー、お願い教えて。いまどこにいるの? ケンは一緒かしら? ケンは無事?
ヒトミは心の中で言葉を唱えながら、キーを叩いた。
<KEGA KEGA KIKEN>
怪我ですって? 誰が? ロー、ケンは怪我してるの? ローったら!
<KEGA KEGA>
ケンは? ケンはいるの?
<KEN KEN .E. GA KEGA KEGA....>
ケンが怪我してる!
ヒトミは、そのラップトップを掴むと、桟橋に駆けて行った。
桟橋には白に赤のストライプが一本入ったスピードボート、ハーディン・マリン社
製の17インベーダが停泊していた。
ボートのとも綱を外し、エンジンを掛けた。260馬力の350V8エンジンが糞
力を発揮し,スクリューを回転させる。たちまち桟橋を離れた。
エンジンの回転数は一気に四千を超え、時速五十ノットに達する。
事務所に詰めていた数人の職員がエンジン音に驚いて桟橋に走って来た。
後ろを振り返ったヒトミの目に、大野とミッシェル、それに涼子の姿が一瞬見えた。
疾走するボートの中で、ヒトミはラップトップを操作した。
グリーンの海図の中に、赤い点が点滅していた。
そこに、ケンがいる筈だった。
17インベーダの操縦とラップトップの操作に夢中のヒトミは、ボートの後部の防
水シートがムクムクと動き出したのに気付かなかった。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−