AWC 【ソラリアンの旅立ち】(後編)コスモパンダ


        
#1099/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 7/25  16:55  (100)
【ソラリアンの旅立ち】(後編)コスモパンダ
★内容
【ソラリアンの旅立ち】(後編)コスモパンダ

「マージ、マージ、マージ、マージ、マージ・・・」
 コロシアムの中には、触れれば火傷しそうな熱気がこもっていた。その熱気はコロ
シアム周辺の群衆の中へも飛火していった。
 装甲警備車を遠巻きにしている群衆が、ジュースやビールの空き缶を、警備のポリ
スに向かって投げ出した。

 「私は知っています!
  女一人の力はたかがしれていても、みなさんがついてくれていれば、何だってで
 きることを!」
「マージ、マージ、マージ、マージ、マージ、マージ・・・」

 「私は知っています!
  このコロシアムを取り囲んでいるポリスやアーミーのみなさんも、声を大にして
 言いたいことがあることを!」
「マージ、マージ、マージ、マージ、マージ、マージ、マージ、マージ・・・」

 「私は知っています!
  搾取者である評議会は今すぐに解散すべきだということを!」
 オーン、オーン、オーンという十万の歓声ともどよめきとも言えない興奮がコロシ
アムを中心に周辺の数万の群衆まで巻き込んで広がって、やがてはシティ全域にまで
広がっていった。

  執務室の中では・・・。
 「介入だ! 中継を中止させろ!」
 「あれが、折れた女だというのか!?」
 「二〇四〇時、緊急戒厳令発令。零時以降は夜間外出禁止とする」
 「鎮圧部隊へ指令! コロシアムを封鎖し、指令あるまで中の人間は何人たりとも
 外に出すな!」
 「鎮圧リーダーへ、コロシアム内部の、マーズ・C・バロステスを逮捕し、政治犯
 留置所へ連行、拘禁しろ」
 「抵抗するものは、射殺しても構わん。鎮圧リーダーの判断で、全ての武器の使用
 を許可する」

 コロシアム周辺の装甲警備車のスピーカーが、周辺にたむろする群衆を追い払おう
と喋り出した。
 「みなさん、解散してください。只今、緊急戒厳令が発令されました。集会を行っ
 ている市民のみなさんは、直ちに解散して・・・」
 グワーーーーン・ン・ン・・……。
 装甲警備車は跡形も無く、吹き飛んでいた。
 それが合図だったかのように、次々に警備車が吹き飛び、愚連の炎で空を焦がして
いた。火の粉が夜空を舞っている。
 キーンと高速タービン音を響かせたエアロダインが、低空飛行をする。
 高速バルカンが、ガーッと一瞬吠える度に、装甲警備車が炎に包まれる。

 「馬鹿な! 何事が起こったんだ」
 「反乱だ! ポリスのエアロダインが、地上の警備車を襲っている。反乱者が操縦
 しているに違いない」
 「なんだと! アーミーを出動させろ。シティ・アーミー司令官を呼べ」
 「司令官が出ました」
 「司令官、暴徒を鎮圧してくれ、暴動だ」
 「暴動? そんな話は聞いていない」
 「なっ、なっ、何を言ってる。コロシアムで暴動が発生した」
 「それなら、ポリスの仕事だ。アーミーは、シティに脅威を及ぼす外敵に対して行
 動する」
 「ポリスの武装エアロダインが、こちらの警備車を襲っている。暴動ではなく、反
 乱だ。他シティからのテロ組織の仕業に違いない」
 「評議会諸君、これは暴動でも、反乱でもない。なぜなら、革命だからだ。他シテ
 ィからのテロ組織は何も関与していない。この革命は君達、評議会自身が招いたの
 だ。我々、アーミーは、マーズ・C・バロステス女史と、彼女を支援する市民達を
 援護する。無益な争いで、市民の血を流したくはない。速やかに降伏し、評議会を
 解散させたまえ」

 「私は、今夜、評議会に要求します。
  このシティは既に、限界に来ています。これ以上の移民を受け入れることはでき
 ません。にもかかわらず、評議会議員は、その権力を笠に着て自らの都合だけで移
 民を受け入れています。
  既に、この地は限界です。新天地を開くべき時です。
  そのためになら、我々市民は一致団結し、目的を達成しましょう。
  しかし、一部の搾取者のために、汗水流すことはしません。
  我々に約束の地を!
  既にそのための準備、技術は成熟していると聞いています。
  みなさん、行きましょう。新しい地に!」

 「クソッ! 彼女の狙いは最初からこれだったのか!
  彼女は既にこのシティを脱出しようとしていたのか!
  一杯食ったぞ」
 「彼女は確かに、政治も経済も知らない。だが、人を操る天性と、洞察力だけは持
 っている」
 「敵を褒めるのか? やつらは、我々の船を盗もうとしているんだぞ!」
 「その船を作ったのは誰だ?」
 「市民だな。下層市民だ。彼らの犠牲の上にできたんじゃないのかね?」
 「だが、あれは我々のものだ!」
 「そう、我々みんなのもの。市民のものだ」

 反物質を利用した対消滅によるエネルギー流が、ほぼ平行の推進力を船に与えてい
た。そのエネルギー流は目では見えない。宇宙空間の真空中では塵もなく、光は横か
らは見えないのだ。
 木星のイオ周辺から、離脱した宇宙船は総数二十隻。
 一隻に、五万人の人間が冬眠状態で眠っている。
 目指すは十・五光年彼方のエリダヌス座イプシロン星。
 この年、太陽系惑星国家は、地球行政府の統治から離れ、ソラリア連邦を設立した。
 同時に、ソラリア連邦の外惑星連合は、総勢百万人の大移民団を、隣の恒星系に送
り出した。
 人類の大進出時代、大航海時代の幕開けであった。
 その幕を切って落としたのが、無学無教養の一人の女性、マーズ・C・バロステス
であったことは、記憶に新しい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−(END)−−−−−−−−−−−−−−−−




前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 コスモパンダの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE