AWC 深夜連載小説「噂のスーパーガール」(12) クエスト


        
#1096/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG     )  88/ 7/24  23:46  ( 63)
深夜連載小説「噂のスーパーガール」(12) クエスト
★内容
 ベンツはまたしても左に曲がると、神戸の夜の街をかすめて西に向かった。
「くそ!えらい人込みやったやんけ。探すのに苦労したやんけ。リリー」
「ほんま。おかげで行抜けだらけ。読んではる人も訳わからんのとちゃいますかー」
 落ち着くと男達はしゃべりだした。
「そやから人違いなんですぅ。そのリリーとかいう人と違うの、よく私を見てくれはったら判るはずです」
 明美は焦っていた。そもそもこうして健作から明美に変身している時、明美は全くの
身元不明者なのである。例えば今家に行ったとしても、両親はもちろん「こんな女の人
内にはおりまっせん」て、言うだろうし、妹の明美も、何かを薄々感じていたとしても、「さあー、私が明美ですけどぉ、この女の人も明美いうんですかぁー」とか言う位に違いない。

「まだ言うてるんか。お前はどっから見てもリリーやないかい」
 背の高い男が言った。
「あのー、おじさんはリリーさんと親しいんですかー」
「当たり前や。リリーが広島から家出して神戸の街をうろついてたんを、引っ掛けてさんざん玩具にしたあげく、福原のソープに売り飛ばし、毎月の稼ぎをピンハネしてるんやから間違いない!」
 背の高い男は断定的に言った。
「まあ、酷い!でも、本当に私違うんです」
「そやけど証明するもんはない。そうやろ。お前はリリーなんやから。まあ、店に帰ったらはっきりするで」

 そうこうしている内に、車は三の宮から数キロの福原のソープ街についてしまった。
きらびやかなネオンの渦、道を行き交う男達、呼び込みのボーイと、一時のエイズ騒動でのダメージも今では感じられない。
 ベンツはきんきらきんの店の間を通り抜け、「夢の花園」というソープランドの裏手
に入っていった。

「なんやの、リリーちゃん。どこ行ってたん。この忙しい時にぃー」
ちょっとおかまっぽい男が明美を見つけて言った。
「いやー、店長、すんませんなー。私の教育が悪いせいで。これからびしびし働かせますよってに」
 背の高い男はおかまに頭をかきながらへこへことした。
「それからですね。この娘、ちょっと自分は明美やなんていいのがれしようとして聞きまへんねーー。まあ、見ての通りリリーには間違いないんでっけど」
 背の低い方が付け加えるように言った。
「あら、そう。リリー、あんたまだうそつく癖が抜けへんの。しょうのない娘やねー」
 店長はあきれたように明美を見ながら言った。
「リリー、お早う」
 若い女が擦れ違いながら明美に挨拶していく。
「ほら見てみい。うそついても皆お前がリリーやていうてるやないか。故にお前はリリーなんや。わかったか。ボケ」
「ええーー、ここへ来たら疑いが晴れると思ってたのにぃ。どないしょー。そうや、こうなったら警察へ行きます。もうそうするしか仕方ないです」
 愕然とし、腰から崩れ落ちそうになりながら、明美はこの悪夢のような状態から逃れられるのなら、自分の変身の秘密が親や学校にばれてもいい、世間の笑いものになってもいい、と決心して言った。
「警察?警察やてぇー。そんなとこ自分から行くとことちゃいますがな。あれは仕方なしに御世話になるところや」
 店長がびっくりして言った。うーむ、常識がこうも違うとは。
「なんちゅうこというんや。リリーのボケ、カス!お前がリリーやいうこと認めてここでおとなしう働いて、俺に金を貢いでくれたらみんな丸くおさまるんや」
「そうよ。あんたが誰でもええねん。ここで働いてお金儲けてくれたらそれでええんよ」「ああーーーん、そんなん目茶苦茶やーーーー。誰か助けてーーーー!」
 明美は錯乱状態に陥り、逃げようと背の低い男を突き飛ばして出口の方へ行きかけた。しかし、すぐに追いついた背の高い男にうしろからつかみかかられ、ふかふかの絨毯に押し倒され、腕を捩じり上げられてしまった。
「そう、そういう心がけなら、反省するまで特別コースで働いてもらいます」
 店長のおかまが床にうつ伏せにされ、腕の痛みに顔をしかめている明美を冷やかに見つめながら言った。

                       つづく




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