AWC 『リブルの翼  第2回』  甲斐石太


        
#1078/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LYF     )  88/ 7/ 9  23:29  ( 98)
『リブルの翼  第2回』  甲斐石太
★内容
 リブルとステリアは、どことなく似ていた。
 ちょっと見には、双子の姉妹かと思えるほどである。
 リブル−本名、リブラルタ=フロル=ラムラウス。ラムラウス王国の第一王女−は、
美しい金髪を、無造作に後ろで束ねていた。これには理由があって、それというのも、
城を抜け出して、街で働いていた彼女は最低限の変装はしなくてはならなかったから
である。
 そして、その青い瞳は意志の強さ、細かいがひき締まった四肢は武術に長けている
ことを示していた。
 一方、ステリアは、リブルと同じくらい長い(腰にとどくほどの)金髪を、こちらは
耳の横で少しくくり、残りはそのまま垂らしてした。彼女の瞳は、少し影を宿したよう
な青で、その影は、魔術師特有のものであった。が、彼女はその魔術を使いこなすには
まだ少々若かった。それでも空を飛んだり、姿を動物などに変えたり、などのある程度
のことはできるようになっていた。
 この二人がめざすもの… それは王国の北のはずれ、ダラハ山脈の麓になる古城、
それこそ王国の滅亡をもくろみ、第二王女−すなわちリブルの妹のバルバーラを人質に
とった反乱軍の拠点であった。もともとその城はこの王国の初代王が建てた城で、後世
王国がその版図を拡げ、都を現在のところへ移してからは廃墟となっていた。
 反乱軍の主導者ブルタークは、そこを拠点に王国を荒し、人々を脅かした。人々の中
には、彼奴(きゃつ)らの餌食になるよりはましと、反乱軍側につく者も多く、その
事態に対し王は反乱軍征伐軍を組織したが、効果はなかった。それは、反乱軍が悪魔
か、それに類する妖魔の力を借りていたからである。その噂を聞いただけで、王国の
兵たちは戦意を喪失した。また、周辺の国々もこれを機会に王国を滅ぼそうと動き始め
ていた。いまや、王国は最大の危機に瀕していた。

                  *

 リブルとステリアはしばらく歩いて、都のとなりの街に着いた。その街のありさまを
見て、リブルは目を覆った。
 家々は破壊され、人々はみな街を捨てて逃げようとしていた。言うまでもなく、反乱
軍の仕業である。
 そんな中で、一人の少年−というより男の子が、泣いてしゃがみこんでした。
 わけを聞くと、やつらに父を殺され、家を壊されて金目の物をのこらず持っていか
れ、病で伏せっている母と二人、どうすることもできない、というのだ。
 「何とかしなくちゃ…… そうだ、これを持って行きなさい、城下町まで行って売れ
ば、お金になるから」
 そう言ってリブルは腰の剣を取りはずし、男の子に与えた。それはリブルのために
特別にあつらえた品で、彼女の青い甲冑とともにかけがえのないものであったが、それ
を手離してしまうのが彼女の優しさであった。
 「ありがとう、お姉ちゃん。一生恩に着るよ。でも、本当にいいの?」
 「いいの。余計な心配しないで、お母さんのためになってあげなきゃ」
 リブルはそう言うと、男の子の頭を撫でた。

                  *

 そして、リブルは古道具屋の前で目をとめた。がらくたの中に一本の剣がある。その
古い柄と鞘から見て、かなりのよい品である。
 手にとったとき、店の主人が声をかけた。
 「もう店はおわりだよ、商売にならねぇ」
 「そう言わずに、これちょうだい。いくらかしら」
 「それならよしときな、鞘の中はからっぽさ、柄しかないんだ。こっちにすれば
いい」
 そう言って見せたのは、ごく普通の剣である。
 「ううん、これでいい。こんな立派な剣、どこ行ってもないわ」
 「見かけ倒しさ、試してみたから間違いねぇ。どうしてもっていうなら、変なもの
売りつけたと思われちゃ何だし、くれてやるよ」
 「本当? でも悪いわ、これとっといて」
 リブルは金貨を一枚主人に押しつけると、店を出た。何故柄と鞘だけの剣に固執した
のかは自分でもわからなかった。が、彼女はそれに引きつけられていた。
 「ねぇ、リブル、抜いて見たら?」
 「うん、そのつもりよ」
 と言って、リブルは柄を鞘からとってみた。
 何もなかった。−と思うと、突然緑の光が生まれ、形となり、固まった。
 「きゃっ、…… 何よこれ」
 今リブルが手にしているのは、緑色に透き通る、エメラルドでできたような剣で
あった。
 「何だ? その剣。きれいじゃねぇか。俺のと交換しないか?」
 突然、一人の少年が声をかけてきた。。年格好は十七・八、リブルと同じくらいで
ある。
 「だれが、あなたなんかに」
 「じゃ、勝負しようぜ、それを賭けて」
 言うが早いか、男は剣を抜いた。
 「いいわよ、どっからでもかかって来なさい」
 リブルもそのまま構える。
 対峙する2人の間の空気が張りつめたとき、男はリブルに飛びかかった! 動きは
すばやい。が、リブルはもっとすばやく身をかわし、男に足払いをかけて、倒れた男に
剣を突きだす。
 「ま、まいった! たいした女だな、まるで王国のじゃじゃ馬王女みたいに」
 「リブル、あなた、国中にろくな噂立ってないのね。……あっ、しまった!」
 ステリアはあわてて口を押さえたが、遅かった。
 「え…… じゃ、もしかしてこれがあのリブラルタ… 王女?」
 「ステリアったら、もう…… どうでもいいけど、誰がじゃじゃ馬ですって?」
 「い、いえ、別に、あの… お、俺、ラックス。ていいます… で、その賭けのこと
ですけど……」
 「そう言えば、私が勝った場合どうするとも言ってなかったわね。そうねぇ、じゃ、
一緒について来てくれる? 反乱軍をやっつけに」
 「ちょっと、リブル、何でこんな奴と」
 「まあまあ、何かの役には立つわよ、きっと。こっちはステリア。で、私は、リブル
って呼んでね。話も最初みたいな感じでしてちょうだい」
 「う… うん、わかった、リブル……」
 「それでいいわ。じゃ、出発しましょ、急がなきゃ」

 こうして三人の奇妙な旅が始まった。




 つづく………





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