AWC 『リブルの翼  第1回』  甲斐石太


        
#1077/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LYF     )  88/ 7/ 9  23:20  ( 66)
『リブルの翼  第1回』  甲斐石太
★内容
 ここは、とある街の盛り場。一軒のバーに今日も仕事帰りの男たちが集まっていた。
 「よお、知ってるか? この国のお姫様、本当は王様の子じゃないって話」
 「どっちのお姫様だい」
 「姉の、リブラルタ王女さ。何でも、子供のできなかった王様が拾ったんだと。それ
が、その後でバルバーラ王女が生まれたってんで、世継をどうするかもめてんだとよ」
 「その話、リブラルタ姫は知っているのかい」
 「さあな」

 「「「ガチャン!! 不意に、皿の割れる音がして、話をしていた男が振り返ると、
この店で働いているリブルという少女が、呆然と立っていた。
 「ねぇおじさん、今の話、本当?」
 「さあ、俺もまた聞きした話だしな、確かとは言えねえ… どうかしたのかい?」
 「べつに……」

                  *

 その王国には、二人の美しい娘がいた。その、姉の方であるリブラルタは活動的で、
明るい女の子で剣術の腕は王国で右に出る者はいなかった。彼女は国中の者に愛され
る、不思議な魅力を持っていた。また、彼女は毎日城をこっそり抜け出しては街へ出て
いたが、王や城の者たちも黙認しているようであった。
 一方、妹君のバルバーラも、大変美しい姫であったが内向的で、武術よりも魔術の
方を得意としていた。彼女は、国民誰にも愛される魅力を持つ姉に、少なからずコンプ
レックスを抱いていたが、それは普通の弟や妹が兄や姉に持つ感情とさほど変わりな
った。
 リブラルタはよく気の付く、優しい娘だったので、妹のそういった感情にもそれとな
く感づいてはいたが、それすら優しく受け入れているので、リブラルタとバルバーラは
結局中の良い姉妹であった。

                  *

 リブルは悩んでいた。もし、酒場の男の話が本当なら、彼女の親は誰なのかわからな
くなる。
 「ただの噂話よ」
 そう言って自分をなぐさめても、どうも納得がいかない。火のない所に煙は立たず、
である。何の根拠もなしに噂がおこるとも思えない。

 「どうしたの、そんな顔して…」
 リブルの親友、ステリアという少女が声をかけた。リブラルタがリブルと名乗り、
街で出会ってから、ふたりは無二の親友である。
 ステリアは、また、街中で唯一、リブルの正体を知っている者だった。彼女もまた、
魔術師であり、リブルの正体を見抜いたのである。

 声をかけられて、リブルは理由(わけ)を話した。
 「そんなこと、気にしちゃだめよ。あなたらしくもない」
 そういって元気づけるステリアに、リブルはただ黙ってうなづいていた。

                  *

 そんなある日、王国に異変が起こった。王国の政治に不満を持つ者たちが、ブルター
クという男を筆頭に暴動を起こし、街や村を荒し、ついには王国の象徴であり平和の
象徴である、二人の王女の妹君をさらって行ったのである。さらに彼らは悪魔と手を
結び、妹君をいけにえにしようとしていた。国は乱れ、不安に包まれていった。
 王は反乱軍に対して鎮圧にかかったが、悪魔の力を借りる反乱軍になす術がなかっ
た。
 「こうなったら私が行くしかないわ」
 リブルがそう言って、旅立とうとした。それを見て、ステリアもついて行くと言い
出した。リブルは止めたが、ステリアは、
 「私の魔術の腕を信用しなさい」 と言って、ついて来てしまった。
 「ただし、泣き言は言わないでね」
 リブルはその青く澄んだ目でステリアを見つめていた。




 つづく………





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