AWC ★TheNextClubLeader★《3》ひすい岳舟


        
#1071/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 7/ 7  19:23  (110)
★TheNextClubLeader★《3》ひすい岳舟
★内容

  「先輩………本当の事を話します。」
「本当の事?」
「はい。」
「分からないな。本当の事というのは」
「文芸部には直接関係ないことなのです。今回のゴタゴタは」
「………」私は一寸疑った。が、それは悪い趣味であった。牧師は子羊の言うことを信
用せねばなるまい。
「北川先輩は中柳先輩線の事が好きだったのです。でも中柳先輩には………増田先輩が
いるでしょ。それを知った彼は凄く………悲しんで『俺のそばについてくれる人がいな
いかな』って言っていたんです。で、私は、わたっわたっわったし………」
  感情が高ぶり彼女は声を引き摺らせていた。
  「ゆっくり、いいなさい。急ぐことはないのですから、ね?」
「……私はかわいそうだなっと思って手紙を出したのです。………でも彼はかん違いし
て………愛情のないままに………無責任な私のせいなのです、そのままズルズルひきず
ってしまったのです。別れました、4月に。中柳先輩から気が晴れるまで文芸部にはい
ってたらというアレがあったので卑怯にも私は………」
「うん、分かったよ。分かった。もう、いいよ。よく、言ったね。」
  何ということであろうか!!公的に訴えてきたことは、私的感情によるものだったの
か!!つまり、フラストレーションの溜まった彼はそれを発散することが出来ずに(こ
れは相手が逃げてしまったことによるだろうが)たまたまあった文芸部というビジョン
にぶつけていたのだ。増田君に対する行動、中柳さんの行動、そして清山さんの絶対に
人形劇部にいきたくないといった事、それらが頭の中を過った。なんということであろ
うか!!こんなことで、こんな一部の色恋沙汰で文芸部はコピー本制作の時間を大きく
裂いてしまったのだ!まったくとはいえないが、これは文芸部の問題ではない。まして
両部のイザコザではなぁい!!
  「……先輩……私、文芸部、やめます。だって不順な理由で入部したのですもの…」
「何を言っている。やめちゃいけないよ。だって、君は好きなんだろう、文を書く事が
。え、そうだろう、それならなんの問題があるというのだい。」
「だって………だって………」
「大切な後輩だ」私は次に発した自分の言葉に自分ながら驚いた。それはここ3週間感
じていたことを奇麗に受けていた。「私にはあなたを公的にも私的にもバックアップす
る用意がある。そして、したいのだ。」
  彼女はびっくりしたかのように顔を上げた。そしてひとしお、顔をグチャつかせた。

  しばらくして、増田君、及川君、中柳さんが入ってきた。  そして、私達を取り
ように座った。
  「みんな、『大判定』を開きたいと思う。」私は一回、ゆっくり見渡した。「今回の
『大判定』は」
  「橋本君、悪いのは」中柳さんが立ち上がろうとするのを増田君が止めた。そして彼
私に目くばせをした。こいつ、分かっていやがるのだ、悪友め、私は心で笑った。
「『大判定』は次期部長のけんである。私があまりにも有能だったために3年間に渡る
部長をつとめてきたのであるが私がダブルわけにもいかないので、ここで決定したいと
思う。」
「有能だったからでなく、人材がなかったからではないですか?」及川君が悪戯そうに
笑った。湿った空気が爽やかになっていくのを感じた。ありがとう、オイッチャン。
「どっちにしてもNo.1だったのだ!」
「で、誰が部長になるのです。」
「2年生の清山さんだ。」
「エッ!」
「どうでぇ、不満はあるかいね。」
「先輩、私には出来ません。だって、人形劇部の事があるし……」
「くそくらえだ。部活の自治権までおかすというのだったらぶっとばしちゃえ」増田君
が勢いずく。
「賛成者は拍手してください。」
  パチパチパパチ………
  清山さんは4人の拍手の中で就任した。とても美しくみえた。
  「で、この部活のしきたり通り、部長就任から10月の文化祭まで旧部長は部長附属
御意見番ということになりますが」
「おっ、院政ですな!」及川君は立ち上がった。「駄目ですよ、やっとまともな部長が
就任したのですから、そうやって螺子まげちゃあ……」
「この野郎め……」
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  トゥルルルルルル………トゥルルルルルル………トゥルガチャ。
  「もしもし橋本です。」
「△△高校文芸部の清山と申すものです。橋本先輩は御在宅でしょうか。」
「ああ、俺だよ。」
「先輩だったんですか。声が違う………」
「え、何、電話が遠いみたいでよく聞こえない。」
「何でもないんです……」
「うん。」
「………今日はありがとうございました。あの言葉、嬉しかったです。」
「単純な男だからすぐにその気になるのさ。本当は」私はいいかけたがやめた。「うう
ん、何でもない。部長にはまえから思っていたのだよ。」
「そうですか〜、中柳先輩から……」
「きいたの!!!」
「でも、当たり前ですよね。それが。先輩は………頼れますね。」
「そうか?馬鹿でしょうがねぇ男だよ。」
「自分をそうけなさないでください。私は先輩の事を」
「何?」
「いえない………だって絶対にNOっていうもの。」
「いってみなければわからないさ」
「先輩、分かっているのでしょ。」
「いや、いっこうに分からないね」
「今回のゴタゴタで、うやむやにされると嫌だから9月ごろになったら言おうと思いま
す。」
「きっと今日しか聞くことはねぇだろうなぁ。」
「そんなぁ………」
「だから言ってごらんよ。」
「……先輩がね……先輩がね……」
「うん」
「すきなの」
「ではそれにたいして即答しよう。私にも偶然ながら貴方と同じ気持がみちみちていま
す。」
  電話の向こうでグジュ……グジュグジュュュュュ………

  こうして初めての素晴らしき伴侶にであった。問題は山積していて、解決したわけで
もなかったから、2人は翻弄されるに違いない。しかし………私には出来るような気が
するのだ。それから北川君の心もよく分かるような気がした。今ではね。失うという事
はとても、それはそれは恐ろしいことなのだ。私は初めてもった宝物がころがりでない
かちょっぴり心配しながら、隠居生活をしている。(御意見番と呼べ!!隠居と言わず
に!!)

                                    FIN
.




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