AWC バレンタイン・ベタ−・ハ−フ(1)     COTTEN


        
#960/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (YHB     )  88/ 4/ 8  18:54  ( 98)
バレンタイン・ベタ−・ハ−フ(1)     COTTEN
★内容
 バレンタインなんてなければいいんだ。
 一人でそんな事をつぶやいてみた。チョコの包みをもてあそぶ。なんだかもどかしい。 派手なラッピングを施されたチョコはあたしの心と正反対、ひときわ浮いて見える。
指のもどかしさに、たまらず包みを机の上に置く。目をそらそうとするけれど離れない。 場違いだよ。
 そう思った。どうしてこんな物を買ってしまったんだろう。雰囲気に乗せられて買っ
てしまったあたしが馬鹿なんだ。
 あー、イヤだイヤだ。
 何とはなしに声をあげる。これというのも美知が悪いんだ。美知があんな事言い出す
からこんなことで悩まなければならないんだ。

「もうすぐバレンタインだよね。あたしさぁとってもかわいいチョコみつけたんだ。楽
 しみにしててよね。」
「うん・・・。」
 あたしはバレンタイン近しの陽気(?)でちょっと舞い上がりつつ、美知に話しかけ
た。美知とは小学校からのクサレ縁でなんだかんだと言いながら中二の今もなぜか同じ
クラスになっている。もちろん一番の仲良しだ。
 バレンタイン。なんといってもみんなお祭り好きなんだよね。お目当ての人がいる子
はこの日めざして一心に頑張る訳だけど、そうでなくっても、関係ないなんてことはな
い。女の子同士グループ内で思い思いにチョコレートを交換し合ったりして楽しんじゃ
う訳だ。だって一年に一回のイベントなんだもん。楽しまなきゃ損だよね。
「・・・。」
「どうしたの? 最近なんか元気ないみたいね。」
 どうもここ二、三日美知の様子がおかしい。何をするにも心ここにあらずっていった
感じでボーッと空を眺めてたりする。話しかけたってうわの空だ。
「ねぇー美知ったらぁ。」
「キメタッ!」
「へ?」
 ほんの先刻までホケラッていた美知がうってかわって、すっきりした表情で突然大声
をあげた。
 分からぬまま相槌をうつ。
「決めたって・・・何を・・・。」
「ごめん奈美。あたし今年パスするわ。」
 きっぱりと言い放った。
「チョコレート、パスするってこと。」
「え〜どうしてぇ〜。せっかく美知のためにあちこち回ってチョコの目星もつけたって
 のにぃ。」
「ごめんして、ね。」
 美知、手を合わせて頼み込む仕草。あたしはむくれてそっぽをむいた。
「そうねぇ、美知が嫌だっていうんなら、あたしだって別に無理に・・・。」
「イヤって訳じゃないのよっ!」
 卒然、台詞をひったくる美知。
「じゃぁ・・・どうしてよ。」
 あたしは責めるたてる様な口調で言った。
「あの・・・。」
「・・・・・・。」
 ほんの数秒前まで息巻いていた美知が急に無口になる。
「いったい何なのよ。」
「あのね・・・言いふらしちゃだめよ。」
「親友だよね。」
「だからどうだっていうのよ。」
「うんと言って!」
 美知、キッパリと言う。
「・・・うん。もちろんよ。決まってるじゃないの。」
「あのね、隣の隣のクラスの笹川君、知ってるでしょ?」
「うん。」
「彼にチョコレートあげたいの。」
 頭の中でシャンパンの栓が弾け飛んだ様な気がした。あたしはそのままの姿勢でじっ
美知の顔を覗き込んでいた。
「何よ・・・あたしの顔に何かついてる?」
「ううん別に・・・ただ美知の口からそんな台詞が飛び出るなんて思いもよらなかった
 から・・・。」
 美知は顔をほころばせるとあたしの肩をポンと軽く叩いた。
「やだ・・・だって別におかしくないでしょ。あたしだって普通の・・極普通の女の子
 だもん・・・ね?」
「うん・・・極普通の・・・そうだよね。おかしくないよね。」
 美知が笑った。あたしもつられて笑う。ちょっとうつろな笑い。
「だから・・・みんなにも・・・ね?」
「うん・・・。」
 傍から見ると、あたし、きっと一見して不服そうな顔をしていたに違いない。美知は
あたしの顔を一瞥して慌てて言い直した。
「ごめん。ほんっとにごめん。ん・・・・あたし、今年も奈美にチョコレートあげる。
 ね、どんなのがいい?」
 そんなんじゃないの。ただ、ただ驚いただけ。
「あ、いいの。いいんだってば。あたしこそごめんなさい。美知はそっちの方に専念し
 て、ね? みんなにもちゃんと言っとくからさ・・・。」
「本当にいいの?」
「うん、頑張ってよね。応援するから。」
「ごめんね。」
「いいの、いいの。」
 心底すまなそうに美知が言った。あたしは笑いながら、”いいの、いいの。頑張って
よね。”という台詞を繰り返していた。まるで自分自身にいいきかせる様に。
「えーと・・・ね。どんなのあげたら喜んでくれるかな? 彼、甘いもの嫌いだったら
 どうしよう・・・。」
 あたしの答えに一安心したのか、美知は顔を赤らめながらどんなチョコがいいだろう
かとか、ラッピングはどうしようとか、どうやって渡せばよいだろうかなどと熱心に話
し始めた。彼にあげるチョコに想いを巡らす美知の様子はなんだかとても楽しそう。あ
たしは、あの美知がまるで違う生き物になった様な心持ちがして、ちょっぴりさびしか
った。
 聞こうとは努力しているのだけれど、美知の話は耳の中を右から左へと素早く素通り
していってしまう。あたしは彼女の突然の言葉で我に帰った。
「ね? チョコ買うのつきあってくれない?」
 自分でもなぜだかわからなかったけれど、正直な所あまり行きたくなった。今日は忙
しいの、用事があるのとあらゆる手をつくしてはみたものの、まだあたしがグループの
みんなにあげる分を買ってない事を指摘され、なんだかんだと結局丸め込まれてしまっ
た。
 行き先は美知の一存で駅前のデパートに決まった。もちろんあたしも異存はない。と
にかく早く解放されたかったのだ。




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