#949/1850 ＣＦＭ「空中分解」
★タイトル (FEC ) 88/ 3/29 9:56 ( 72)
ベルリンは交錯の雨５ ひすい岳舟
★内容
彼は板を見せ、見ぶりでいまからタイヤの下に入れる事を知らせた。早くやれと言わ
んばかりに運転手−−−クワイトフスの推測ではこいつはＳＳではないだろう。−−−
は手を振った。
板切れをタイヤと地面の間に介入させることは難しかった。すぐにタイヤが吐き出し
てしまうのである。何度かののち、ようやく入った。
クワイトフスの胸は別段高鳴ってはいなかった。こういうとき、案外そうなのかもし
れない。彼は拳銃を握るとガラスの向うにある中央の頭にひたりと合わせた。引鉄さえ
引けば、この歴史にピリオドが入るのだ。今まで振り回されてきた巨大なものに、今度
は自らの指に運命がかかっていると思うとおかしなものだ。
そのとき、助手席の男が振り向いた。クワイトフスはニヤッと笑った。彼は大きく叫
んでいるようだった。「クワイトフス！！やめろ！！」
彼女は詩の続きを口ずさんでいた。
来訪者は幸福を与えつつも
哀しみを与えねばならなかった
彼の宿命によって
自らの命を失うのだ
全てはもとのように
静かに収まる
そなたは解放されたのだ
そなたの演ずる役は再び
後世の者が行うのである
そして、来訪者はまたやってくるのである
ふくろうはそれを知っている
初めの１発はクワイトフスのものから発射された。バックガラスに銃痕が入る。そし
てその瞬間、バッと赤い液体がガラスを染めた。飛び散る肉塊。崩れる体。それを支え
ようと両脇の男が必死に手を動かしているのが彼には滑稽に思えた。すでに頭の半分が
噴き飛んでいるのだ。
次の瞬間、彼につき飛ばすような衝撃があった。よろよろとよろめき、車から離れた
。そしてそのまま、何発か、車内の影に向かって見舞った。さらに血しぶきが上がった
。ブッツファイアーが後部座席にのめり出し、そこから撃った。
男の肺に燃えるような激痛が走った。もんどりうち、泥水の中に彼は倒れ込んだ。
次におそるおそる運転手が車内から出てきた。拳銃を両手に持ち、ゆっくりと。そし
てクワイトフスを発見するや、狂ったかのように撃ちまくった。彼の体は泥の中で舞っ
た。しかし彼はまだ死んではいなかった。右手を上げると運転手の股倉にぶっ放した。
バサァーと血が地面に降り注いだ。男は股に手を当てながら、膝をついた。そして、
状況を把握していない者がやるように、彼は目をひんむき、自分が撃たれたところを見
ていた。そこには大きな穴があり、臓物が溢れんばかりにあった。
「ヒッ………ヒィー！！」
叫び声を上げると車の中に戻った。そしてアクセルを踏み、車をバックさせた。ブッ
ツフィアーがやめろ！！と叫んだ。しかし彼は すでに理性などなかった。臓物をシ
トにたらしながら彼は言った。「………死ね！！死んでくれ！！」
車は屍体の上に乗り上げた。そしてようやく、泥沼から脱することが出来たのである
。
彼女は火掻き棒を振り上げた。そしてそれを剥製目がけて振り降ろした。ガラスケー
スが粉々に飛び散り、羽がブァッと舞った。サブリナは無心に棒を振り続けた。ふくろ
うはそのたびに白い羽と化し、部屋中に舞った。それはあたかも雪のようである。
ほこりで彼女は咳き込んだ。しかし、この場から立ち去ることはまったく考えなかっ
た。彼女の先人達もきっとそうだったろう。
ふくろうの羽がゆっくりと落下してゆく中、アメリカ軍の放送局は夕方のニュースを
始めた。彼女はそれを劇の幕が降りる時のＢＧＭとして、聞いていた。
「我アメリカ軍は、本日午後４時に、終戦６時間前にライプチヒに新型超爆弾“マフ
ィン”を投下したと発表。本日よりライプチヒ周辺は閉鎖され、連合国の調査団の手に
よる科学的調査が行われます。すでにベルリン入りを果たしているトツィーニ指揮官は
これを“ナチ犯罪調査につぐ重用な調査である”と発言し、連合国がなみなみならぬ関
心を持っていることを示しました。ベルリンでは現在、ナチスの機密文書を捜査中です
が、今だに見付かっていないもっとも重用なものがあります。それはアドルフ・ヒトラ
ーであります。一説には国外にすでに逃亡しているとか、青酸カリによって自決したと
か………。しかしながら発見しないことには、なんとも言えません。
ドイツはようやく、平和を取りもどすことが出来ました。ヨーロッパもですが。ベル
リンではおととい以来、雨が降り続いています。一刻も早く晴ればれとした天気になっ
てほしいものです。そしてドイツ自身にもです。今、ベルリンには様々な人の思いが、
交錯して、今の天気のごとく晴れていません。これが一刻は早く快晴になることを祈ら
ずにはおりません。
さて、本日、大日本帝国は中国南部にある………
−−−ＦＩＮ−−−
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