AWC APPLE COMPLEX 【巨人達の憂鬱】(10)コスモパンダ


        
#930/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 3/25   6:29  (108)
APPLE COMPLEX 【巨人達の憂鬱】(10)コスモパンダ
★内容
             (10) 昼下がりの公園

 ノバァがアンナを匿ったレディス・ホテルに向かおうと、市警察の駐車場の中をカー
マインに向かって二人で歩いている時、ノバァのCBが鳴り出した。
「緊急メッセージ到着。緊急メッセージ到着」
 ノバァが腕のCBを操作すると、アンナの声が聞こえてきた。どうやら録音らしい。

〔ディア・ノバァ
   さっき、男からテレコムがあったわ。名乗らなかったけれど、きっと「救世主」
   に違いないわ。
   すぐに来いって言ってたの。わたし、行きます。
   ジョンを取り返さなくちゃ。あの子はブルーの忘れ形見なのよ。わたしが産ん
  だ子供じゃなくても、ブルーとわたしの子供なのよ。
   リンさんも返してもらいます。
   地図をコピーしておきます。
                             アンナ・マグレイン〕

 CBの表示器では電子メールの地図は表示しきれない。
 ノバァはカーマインに飛び乗ると、ダッシュボードのCBパッドの窪みに、自分の腕
に付けたCBを押し付け、スクリーンに地図を表示した。
 アンナが呼び出された場所は、海岸通り近くの公園だった。
 時間にして十五分程度で到着できるだろう。
 ノバァはカーマインに最短距離を捜させ、エンジンが焼けるまで走れと命令した。
 口答えを期待したのだが、カーマインは事態の深刻さを理解したのか、言われるまま
に走りだした。
「本当に『救世主』が電話してきたと思うかい?」
「分からないけど、そんな必要はないでしょ。どうせ今夜は、あたし達に逢うんですも
の。それに『救世主』だったら名乗るでしょう」
「ということは・・・」
「彼女の命を狙ってる方かもね」
「アンナはメモリ・プレートを持ってったのかな?」
「どうかしら? ハンドバックは持ってったみたいだから、その中に入れてるかもね」
「そのメモリ・プレートには何が隠されてるんだろう?」
「メイソンが、命にかえてアンナに託した代物だとすると、相当なもんね。ただアンナ
がメイソンのメモリ・プレートの重要性を知っているとは思えないね。リンのレコーダ
が記録したメモリ・プレートだって一騒動なのに、それ以上だったら、あたし達の手に
負えないよ」
「もう、ケーサツに応援を頼もう」
「馬鹿だね。なんのためにハザウェイ警部が、メイソンの一件をあたし達に依頼したと
思うの。ハザウェイ警部が自分で調査しないのは、市警察内部の連中に知られたくない
ことがあるんだろう。一件落着までハザウェイ警部が不利になるような動きはしない方
がいいんだよ」
 女探偵所長は経営者の端くれ、依頼主の不利益にならぬことは、してはいけないとい
う信念がある。それが、やがては探偵事務所の信用や評判につながるのだ。
 だが、リンのことを考えると、痩せ我慢はもうできないんじゃないかなぁ・・・。

「セントラル・ルフト・パークに着きました。どこへ行きましょう?」
 カーマインが尋ねる。
「パーク・インフォーメーションにアクセスしてくれる?」
 インフォーメーション・ネットワークはアクアポリス全域に網の目のように張り巡ら
されている。個人が携帯しているCB(コール・ブレスレット)か、テレコムやカーマ
インのようなコンピュータ回線経由でアクセスできる。シティの全ての案内がサービス
されている他、知人のIDが分かれば、シティのどこにいるかといったプライバシー探
索も可能だ。もっとも、相手がネットワークに対して、自分の行動の公開許可を与えて
いればの話だが・・・。
「アンナの足取りは分かりません。行動公開許可をアンナはネットワークに与えていま
せん。パーク・インフォーメーションでは、アンナと思われる歳恰好の五人の女性がパ
ーク内に現在いることを確認しています。この五人の内、一人で入ったのは二人。そし
て最後に入った女性は、今から三分前にゲートDを通過しています」
「それだよ。間違いない、ほらっ、この噴水の側の花壇の前のベンチが指定場所よ。ゲ
ートDが一番近いわ」
 スクリーンの地図を見ていたノバァがわめいた。
 僕らはゲートDに急行する。
 昼の二時を少し回った頃は、南太平洋上のパシフィック・クイーンで、最も暑い時間
帯である。局地冷房を施していると言っても、シティの全地域の環境が最適に管理され
ている訳ではない。このセントラル・ルフト・パークでは省エネのために、冷房はかな
り制限されている。回りくどかったが、即ち、暑い! ということだ。
 カーマインのガルウイング・ドアを開けた途端、猛烈な暑さが襲ってきた。
 どっと汗が吹き出してくる。
 空は毒々しい青さで、どす黒くさえ感じる。パークの北側に車で五分も行くと、海岸
通りに出る。北の方には巨大なビル群もなく、遠くに亜熱帯特有のモクモクとした雲が
ある。海水が強烈な太陽光に照らされ、蒸発し、上空に昇って雲になるのだ。
 強烈な太陽の日差しを浴びたパーク内は、真っ白だった。ヤシの濃い緑が路面に作る
真っ黒な影とのコントラストが強烈だ。路面が熱く、至る所で陽炎が立っている。
 ノバァはミラー・グラスを掛けた。そのサングラスに周りの光景が映っている。
 平日の午後ということもあって、人影は少なかった。学生風のカップルや子供達が目
に付く。
 ノバァが走り出した。パーク内には車は乗り入れできない。この暑さの中、ランニン
グとは、探偵業も辛い。
 ピンクのシャツに、ライトブルーのショートパンツ、赤いパンプスで軽快にノバァは
走って行く。
 そうそう、スマートなエレナの身体を貰う以前のノバァはおばさん体型で、走るどこ
ろか、階段の上り下りも容易ではないダルマさんだった。今の身体になってからは、僕
がインストラクターとなって、運動をサボリ気味のノバァをしごく。どうやらノバァは
欠かさず運動をしているらしい。フットワークがいいもん。
「いた!」ノバァの声。「あそこを歩いてる。噴水の向こう!」
 パークの目玉は巨大な噴水である。水の吹き上げる高さは十メートルだが、直径百メ
ートルの泉には、約二百本の噴水が仕込んであり、決められた時間になると音楽に合わ
せて噴水が吹き上げる。夜は照明に照らされ非常に美しく、デートの恰好の場所だ。
 アンナはその大きな泉を挟んで向こう側を花壇に向かって歩いている。
 花壇の手前では四人の子供達が、昔懐かしいエンジン付のスケボーをやっている。
 その子供達と歩くアンナの向こうの芝生では、巨大ムカデのような恰好をしたロボッ
ト芝刈り機が仕事をしていた。
 ロボット芝刈り機は、パイプを組み合わせただけの簡単な構造で、内部のマイコンが
制御している。高さは一メートル、幅一メートル、長さは三メートル程だ。それが数十
本付いた足で歩き廻り、同時に足の先に付いたカッターで芝を刈っている。
 そのロボット芝刈り機が、突然方向を変え、芝刈り用のカッターの付いた数十本の足
を動かしながら、アンナの方にゆっくりと近付いて行った。
「アンナーーーー、逃げ・・・」
 ザーーーー、シューーーーという音がした。泉を水飛沫が埋めた。
 ノバァの声は突然、吹き出した噴水に遮られた。
 突然、自分に近付いて来たロボット芝刈り機に驚いたアンナは、転んでしまった。
 そこをカッターの足が襲う。
 ロボットの足の一本がパシッという閃光に包まれ、ゴトンと地面に落ちた。
 僕の前を走っていたノバァが、いつ取り出したのかバレンタイン・レーザー銃を構え
ていた。

−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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