AWC APPLE COMPLEX 【巨人達の憂鬱】(7)コスモパンダ


        
#927/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 3/25   6:12  (113)
APPLE COMPLEX 【巨人達の憂鬱】(7)コスモパンダ
★内容
               (7) チェイス

 ピックアップトラックとカーマインは螺旋道路を右廻りに下りていく。
 二台の間は五メートル離れている。スピードは時速百キロ。下りの螺旋道路を突っ走
るにはちょっと速い。
 五十層のフロアを突き抜ける巨大な円柱のようなビルの周りに作られた螺旋道路。
 一周廻ると、十メートル低くなる。二十回余り廻ると地上に下りれる勘定だ。
 外の景観はグルグル廻るたびに少しずつ変わる。キラキラと光り輝くメガストラクチ
ャー群が次第に高くなっていく。替わって、地上の光の海が近付いて来る。
 しかし、そんな景色を落ち着いて見ている余裕はない。
 幸いにこの道路は二車線あり、右に左にハンドルを動かせば、のろい車を追い越して
行ける。ノバァの腕はうまいとは言えないのだが、下手するとカーマインが交通情報で
最短コースを選んでもノバァの運転の方が早く目的地に着くことがある。
 しかし、そのノバァの運転技術にも限界がある。
「カズ、このままでいくとあと二分でランプが終わり、スローター地区へのインターチ
ェンジに入ります。それまでに止めないと危険です」
「カーマイン、スピード上げろ。急げよ! あのトラックを追い越すんだ」
 カーマインの加速は艦載機のカタパルト発進と同じだ。身体がシートに沈む。
 ランプが終わりに近付いているのか、各車がスピードを落とし始め、車間距離が狭く
なってきた。二台の車はその間を右に左にスラロームさながら、下って行く。
「ノバァ、エンジンを切れ!」
 僕の声を聞いてるだろうか? CBに向かってわめく。
「ノバァ、聞いてるかい。これから君を追い抜いて、前に入るぞ」
「何しようっての。邪魔だよ。一緒にぶつかろうってのかい?」
「カーマインのブレーキでトラックを止める」
「おふざけじゃないよ。二台の車を止めるだけの馬力はないよ」
「ノバァ、この前、大枚払ってカーマインを改造したんだろ? スーパーディスクブレ
ーキと非常ブレーキを確かめてみようよ」
 カーマインはとうとうピックアップトラックの左に並んだ。
 必死の形相で運転するノバァが運転席の窓を通して見えた。
 かっこいいよ、ノバァ。
「行くぞ! カーマイン、トラックの前に出ろ。とっと、ワーッ、前、前!」
 カーマインの前方にのろのろと走るデラックス・リムジンがいた。間に合わない。
 リムジンが目前に迫った。カーマインは急ブレーキを掛けた。右側を走るノバァのト
ラックがスーと前に行く。右側が空く。カーマインは右車線に飛び込む。
 トラックとカーマインはとろとろ走るリムジンを左に見て猛スピードで追い越した。
 再び左車線に出たカーマインは一気に追い越しを掛け、右車線のトラックの前に飛び
込んだ。
「カーマイン、バンパー!」
 カーマインの車体の前後に隠れていたゴルフのパターのようなバンパーが一メートル
程飛び出す。水平に飛び出したパターの先がクイッと回転して垂直になり、車高の高い
ピックアップ・トラックの前のバンパーを押さえた。
 ランプが次第に緩やかになって来た。
 スピードメーターは時速百二十キロを超えていた。
 ひえーっ、時間が無い!
「急ブレーキ、非常制動ブレーキも! ありったけのブレーキを全部掛けろ!」
 カーマインはポンピングでブレーキを掛けたり切ったりした。この方が動摩擦係数が
変化して、ブレーキの利きがいいのだ。
 トラックとぶつかる衝撃をバンパーのオイルシリンダーが吸収する。
 スピードメーターは既に百キロを割っていた。
 九十・・・八十五・・・八十・・・七十五・・・。
 もう少しだ。インターチェンジの分岐ポイントが見えてきた。
 四つの車輪をロックした。タイヤが白い煙を吐き出す。
 突然、さっき僕達が追い抜いたリムジンが、今度は猛スピードで僕達を抜き返して行
った。そして何を思ったのか、僕達の前を蛇行し始めたのだ。
 嫌がらせか! 馬鹿な。今はあんな馬鹿に構ってる暇は無いんだ。
「カズ、前のリムジンにぶつかります」
「構わん、このレースに参加したいんだろ。ぶつけてやれ!」
「でも、あんなのにぶつかったら、たっぷり示談金をふんだくられます」
「構わないったら、ノバァの命と示談金のどっちが大事なんだ。お前、ロボット法の三
原則を組み込まれてないのか! ノバァが死んだら、スクラップ屋に売りとばしてやる
ぞ。そうすりゃ、また雨曝しだ」
 リムジンは右に寄る。どうやらスロータ地区には入らず、遠方に行くらしい。
 しめた! 左の方が直線距離が稼げる。
 カーマインも同じ判断をしたらしい。ブレーキを一瞬外して、左車線に移る。
 が、右端にいたリムジンが左車線に流れて来た。
 カーマインは回避しようと更に左にハンドルを切った。
 悲しいコンピュータの習性だった。回避できる可能性がある限りは事故を回避すると
いうロボット三原則の拡大解釈をカーマインは忠実に行った。
 後ろのバンパーで支えていたピックアップトラックのことを忘れた訳ではないのだろ
うが、トラックの運動ベクトルはカーマインについて来れなかった。
 ノバァのピックアップトラックはカーマインのバンパーを外れ、右車線に飛び込み、
分離帯に真っ直ぐに突っ走って行ったのだ。
 カーマインは急ハンドルのため、百八十度回転すると、後ろ向けになったまま、左車
線の壁にぶつかった。
 ダッシュボードの下のショック吸収エアパックが膨らみ、僕とアンナの身体をシート
に押し付けた。
 ショックは一回だけだった。超高張力製のボディは壁から跳ね返ると止まった。
 エアパックのために視界が見えない。
 突然、その白いエアパックを通して、赤い光が膨らんでいくのが見えた。
 僕はエアパックを押し退け、ドアを開けて外に飛び出した。
 目に飛び込んできた光景は、分離帯の緩衝ベルトにぶつかって、車体下部から火を噴
いているピックアップトラックの姿だった。その運転席はよく見えない。
 辺りには数台の車が停まっていた。
 僕は停車している車を避けながら、燃えるピックアップトラックに走った。
 青い車から出て来た男が僕を捕まえた。
「止めろ、まだ爆発するぞ」
「放せーっ。あれには、ノバァが乗ってるんだ」
 僕は暴れた。男と揉み合っている時、トラックが爆発した。
 僕とその男は衝撃に飛ばされ、路面に転がった。
 爆発は二度、三度続いた。
 起き上がると、ピックアップトラックはメラメラと燃える炎に完全に包まれ、真っ黒
な煙が空に登っているのが見えた。運転席は吹き飛んでいた。
「ノバァー」
 僕は走った。炎に照らされた顔が火照った。
 サイレンが近付いて来る。上空をエアロダインが舞っていた。
 まただ、また。
 あのピックアップトラックは僕が乗る筈だった。
 ノバァ、ごめんよ。僕の身代わりに乗せちまった。
 炎の中に向かって足が向いた。
 あの中にノバァがいる。
 とぼとぼと僕は歩いた。
 ノバァ・・・。
 誰かが叫んでいた。さっきの男だ。よく聞こえない。いいや・・・。
 急に背中から抱きつかれた。
 振り返る。
「どこへ行く気なの?」
 そこには見慣れた顔があった。
 僕は彼女を抱き締めた。
  今度はノバァも抱き付いてきた。
 燃え盛るピックアップトラックの炎が、抱き合う僕らを赤く照らし出していた。

−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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