AWC トゥウィンズ・1 十章 (2/5) (31/34)


        
#905/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE     )  88/ 3/11  21:48  ( 97)
トゥウィンズ・1 十章  (2/5)  (31/34)
★内容
 本当に偶然というのは恐ろしい。それとも悪運が強いとでも言うのだろうか。
僕は一旦跳ね上げられた後、ディモスの真上に落ちてしまったんだ。それも、尻
もちを強くついていたために、全く立つことができない状態でいたディモスの体
の上に。
 健司の奴は僕の体重を軽いって言ってるけど、でもそれは健司にとっての話で
あって、ディモスにとって軽いかどうかは判らない。
 僕の体重は38kgだから、そんなに重くはないんだろうけど、それでも、あ
れだけの高さから落ちてくれば、かなりのエネルギーになる筈。
 で、その結果、ディモスは肋骨を折った。
 あともう一つ、ディモスの馬が何の前触れもなしに、いきなり走り始めたもの
だから、マース侯の陣営は急に乱れた。しかも更に運の良いことに馬の走った方
向にはマイア姫を捕まえていた兵士がいたんだ。さすがにその兵士も、あわ喰っ
たみたいで、慌ててマイア姫を突き飛ばすと、その場から逃げだした。
 皆が、あわ喰って慌てたり呆然としたりしていた隙を見計らって、僕はすぐマ
イア姫の所に駆け寄り、一緒に、お城の中へと駆け戻った。
 両手が縛られたままっていうのは、かなり走りにくかったけど、それでもなん
とか辿り着いて、ようやく縄を解いてもらい、両手が自由になった。と、健司が、
「博美、大丈夫だったか。」
「なんとかね。」
 ほっと一息。
「ところでさ。」
 すっと、健司が目をそらして、
「ちょっとさ、襟の部分直せや。目のやり場に困るから。」
「へっ? うわっ!」
 見ると、ドレスの胸元が大きく開いている。先刻ディモスが馬上で抱きついて
きたあの時だ。
 慌てて直すと、健司はホッとした表情で視線を戻す。
 そのとき、こちらの軍勢は、まだ敵陣営が慌てているのを見て体勢を立て直す
と、そのまま一気に攻め入った。
 しかし、敵もさるもの。最初は押され気味だったのが徐々に体勢を立て直し、
力を盛り返してきた。時々、敵兵が、こちらの軍の兵士の刃をかいくぐって、僕
達の方に来る。
 このままじゃ危ない。とりあえず健司と康司と三人で剣を取ると、
「セレナ姫もマイア姫も、下がっていて下さいね。ほら、一美も一緒に下がって。」
 って言って、近付いて来る敵兵と剣を合わせた。
 時間が経つにつれ、敵兵の数が増えてきた。どうやら、こちらの兵よりマース
侯の軍勢の方が人数が多かったらしい。
 僕も健司も康司も、後ろにいる三人を守ることが苦しくなってきた。
「そこの者どもは殺さずに捕らえよ。」
 そういう声のする方角を見ると、声の主はマース侯。
 いつの間にか、こちらの軍は退敗していたらしい。
 その言葉に従うように僕達と戦っていた兵が少し下がった。でもそれは撤退し
たんじゃなくて、単に僕達を包囲しただけだった。そして敵兵達は、じりじりと、
その包囲の輪を狭めていく。万事休すか!
 その時だった。どこからともなく二筋の白い光が走ってきて、それぞれ、僕と
康司の手の中に収まった。見ると、それは例の玉だった。
 康司の玉と僕の二つ目の玉は、まだペンダントなどに付けていなかったから、
部屋に置いたままで、持ち歩いていなかったんだけど、どういう訳か、それが飛
んできたんだ。
 飛んできた玉は、手の中で薄く光り始めていた。それに呼応するかの様に、僕
と一美のペンダントも光り始めた。その光が強くなるにつれて敵兵達の足の動き
は止まり、今度は逆にじりじりと後退し始めた。そして光がかなり強くなった時、
敵兵達は、もはや一歩も動けなくなっていた。マース侯も身動きが取れないよう
だった。
 この時がチャンスとばかりに、城内にわずかに残っていた兵士達は、全く動け
ない敵兵を縄で縛り上げ、次々に捕らえていった。最後にマース侯も縛り上げた。
 反乱は完全に鎮圧され、マース侯側の兵もすべて捕らえられた。全てが終った
頃、ようやく玉の光は消え元の状態に戻った。それと共に、どっと疲れが襲って
来る。
 一美と康司は、かなり苦しそうだった。一美は康司の肩にすがって、激しく息
を弾ませながら、なんとか立っている状態だったし、康司は康司で、やはり息を
弾ませて、ふらふらになっていた。
 そして、僕は疲れのあまり、もはや立っていることさえできず、がっくりと膝
を落とし…かけたところを健司に支えられていた。
「おっと危ない。おい、大丈夫か。」
「すまん。」
 僕も、かなり苦しくて、これだけ喋るのがやっとだった。
「皆さん、大丈夫ですか?」
 マイア姫が心配している。
「ええ、あたしと康司くんは、なんとか大丈夫みたいです。」
 一美は、少し苦しい息の下から答える。
 僕は、もはや体中の力が抜けきっていて声を出すことすらできずにいた。健司
の支えがなければ、きっと床の上にひっくり返っていることだろう。
「おい、博美、しっかりしろってば。」
 健司に体をゆすられるんだけど、僕は息を弾ませるのが精一杯だった。
 健司は、完全に力が抜けてしまって軟体動物みたいになった僕を抱き上げると、
部屋まで連れていってくれた。そして、ベッドの上に寝かせてくれる。
 意識だけはしっかりしてるのに体が全然動かず、声も出せない。こんなひどい
状態は初めてなので、最初は興奮していたけど、しばらくすると落ち着いて、い
つのまにか眠ってしまっていた。

 気が付くと夕方になっていて、枕元ではマイア姫、セレナ姫、それに健司が心
配そうな顔をしていた。
「あ、あれ? どうしたの?」
 一瞬、訳が判らなくて、思わず聞いてしまう。
「おい、博美。どうしたのじゃないだろ。お前が倒れちまったもんで、皆、心配
してたんだぜ。」
「あ、そうか。ごめん、そうだった。」
「博美さん、大丈夫ですか?」
 セレナ姫が心配そうに聞いてきたので、
「まあ、なんとかね。」
 そう答えながら起き上がろうとして……あちゃ、またか。
「う、まただ。また体が動かないや。」
「お前、また体力を使い果たしたんだろう。」
「そうらしいね。あ、そういえば、一美と康司はどうしてる?」

−−−− 続く −−−−




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