AWC 再発表]《南シナ海上の武士》【9】 ひすい岳舟


        
#864/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 3/ 1  18:54  ( 54)
再発表]《南シナ海上の武士》【9】      ひすい岳舟
★内容
                            南シナ海上の武士(9)

  ザァザバ,ザバザバザバザバ・・・・・・・・・
  二谷は先程から聞こえてくる大きな波らしきものに,不審をいだいていた.
 「なんで波の音なんかが,見張り台の俺のところまで聞こえるんだろ?」
  霧で,敵艦が来たのかも,分からない.二谷は音のする左側に目を凝らしてい
た.そのうち,今度はもっと近くで,ギッギギギギィーという木のきしむ音もし
だした.いよいよ,何かあると感じた二谷は,下に聞こうと下を見た・・・・・
  ポッッ!
  ドキ!二谷は身震いがした.正面斜め二メートルぐらいの下のところに,赤い
小さな光るものがあったのである.おもわず取り乱すところであったが,気を沈
め恐る恐る望遠鏡で正体を確かめようとした。
 ”ん、煙草の火!くわえている奴は・・・西洋人!て、いうこたぁ・・・・・・
・・・!!”
 「敵艦発見!左舷に、我艦と平行して航行中!!」
  二谷の怒鳴る声が甲板に届く。大板がそれを聞き、命令を発する。
 「撃てぇ!」
  ドグォン!ドゴッドゴゥン、ドグォン!
  四門の砲が雷鳴のごとく一斉に吠えた。弾はすぐ目の前でさくれつし、閃光が
パッパパッパッと二つの船を照らし出した.
 「お・・・おぉおきぃい!!」
  対馬号の乗員達が,相手艦のとてつもない大きさにしばし攻撃を忘れた程だっ
た.対馬号の砲座の高さが敵艦のどてっ腹のちょうど真中ぐらいの高さしかない
のである.そして二谷がいるの見張り台よりちょっと低いぐらいが奴らの甲板だ
った.長さはといえば,霧が邪魔して視野からきえている・・・・・・
がしかし言えることは,この対馬号のよこの壁は奴らの艦の一部であり,まだ敵
はこちらの正体を知らないのだ.これは有利なことといえた.先程の木のきしむ
音は,対馬号のヤードとゲアリス号の側面の木材が擦れてうなったものだった.
 「なっ何をしてる!うっ撃てぃ!撃てぃ!」
  ドゴォンドゴォンドゴォンドゴォォン!!
  対馬号の砲が狂ったかのように弾を連打し,すぐ目の前の船の木片がこちらま
で飛んでくる.ゲアリス号の右側面の一部に撃ち込まれた弾丸は,った四,五分
で二十を越え,船内から青白い煙がもくもくと流れ出ていた.弾が船内にその鉄
片をさくれつさせ,熱と閃光を内外に発しているのだ.そのためゲアリス号の一
部では火災が起こっていた.二艦の間には,煙と硝煙がもうもうと渦巻き,砲手
達の目,鼻,呼吸器を襲った.

  ドガァァァン!
  鼓膜が敗れるかと思えるほどの音がし,物凄い風が船員を転がす.船体の破片
は弾丸のごとく飛び,室内のあちらこちらに突き刺さり,無論それで命を落とす
者もいた.
  さらに敵の弾は船内奥深くまで飛び込んでくるようになった.家具は吹き飛び
花瓶は粉々となり,室内は炎上し,人の肉や血はそこらじゅうに四散し,爆裂が
起こった部屋は,下の部屋にごそっと落ち込み,壁の破片に変形し焦げた肉片が
ビチャリとくっついていたりした.
 「奴隷どもの反撃だぁ.」
 「甲板に出なきゃぁ,殺されちまう.」
 「もうほとんど,火がまわっている!」
 「ボートを分捕れ!!」
船内の船員達はパニックになっていた.寝耳に水の襲撃で動揺しきってしまい,
そのためデマが流れ,人々は甲板への階段へ殺到した.金メの物と拳銃を身につ
けただけの彼らのうち,誰も対馬号の正確な情報を知っていないのだ.

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