#859/1850 CFM「空中分解」
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再発表]《南シナ海上の武士》【4】 ひすい岳舟
★内容
南シナ海上の武士(4)
小屋の中では,ドップリとした白人二人がテーブルを挟んで座っていた.眼鏡を
かけた太っている白人,ギュンダァーがいくらか細めの相手のグラスにワインを注
いだ.
「ラブダ,ここの居心地はどうだ.」
「ジャングルの中じゃないなら,goodだ.」
「フフ.」
「今日は何の話だ.」
「俺は,ラ・ドウグ社を無くしちまおうと思うんだ.」
「なに!!・・・・・・・・.いいか,あれをつくるのにどのくらいの・・・・・
・・・.」
「まぁまぁ.ワインがこぼれちまう.」
「何がまぁまぁだ.何で危ない橋を渡ろうとしやがる.ここで社を無くしてみろ,
俺達のアジアにおける密貿易の支配権は永久に失っちまう.そうだ,東インド会社
にいまいましくも取られちまうんだ.しかもだ,今,ようやく,金がバンバン入っ
くるようになってきたというのに!」
「おさえろ.俺達はすげぇもの持っているんだぜ.そいつを使えば何にでもなる.
どうとでもなる.俺はマフィアごときで収まるつもりはねぇ.いいか,やっとチャ
ンスがめぐってきたんだ.」
戸の外では二人の武士が戸に耳を立てていた.
「何をする気だ.」
「阿片で人をモヌケノカラにするのよ.」
「じゃ,なにも社をつぶすことは・・・・・・.」
「ラブダ,俺達はイギリスでドン底の生活の中を逃げてきた.その時,イギリス
という国は,馬鹿にし,ノケモノとし,ゴミとして捨てたんだ.その国への復讐
なのだ.」
「つまり?」
「フッ.奴らが欲しいものを横取りするのよ.」
「・・・・・・・.」
「NIHONだ.」
「・・・・・・!!」
「奴らはあそこの国を,なんとしても手にいれたいと思ってやがる.その前にだ
な,俺達が阿片で・・・・・・.」
「征服!」
「そして王権をうちたてるのだ.乞食坊主がだぜ・・・・・・.」
「俺は朝鮮が欲しい.」
「よし,おまえは朝鮮の王になれ.」ギュンダァーはいったん言葉を切った.「
ラ・ドウグ社はもともと,密貿易のために作った訳じゃない.日本から近い所で
のアヘン生産のためだ.まぁ,密貿易はその副産物ってところか.アヘン生産が
完了した今,社は全勢力を出港に向けるのよ.」
二人は高らかに笑い声を上げた.しかし急にラブダの顔つきが変わり,テーブ
ルの上に身を乗り出し,ギュンダァーの目の前に顔を寄せた.彼には心配であっ
たのである.
「おい,黒人に聞かれているぞ.」
「大丈夫だ.俺達の言葉を知らない奴を選んである.」
「ならいいんだ.・・・あ!もし外で聞いている奴がいたら.」
「心配するな.俺達がペリオンから来た道は,原住民しか知らなくてな,奴ら自
身”魔王の道”と恐れていてな,通ろうとはしないんだ.しかも,海からこよう
とすれば海草群がある.かといって,ボートではとうていペリオンからはこれん
だろう.だから,俺はこの地に別荘を建てたんだ.」
「じゃ,なぜ護衛を付けんのだ?」
「大勢いると敵が紛れ込む.敵は奴隷達とは限らんからな.」
「なるほど.」
ラブダは腰を深々と椅子に沈めた.
「なっ,ならいいんだ.」
「分かったな.」
「で,いつだ.」
その時,黒人が料理を持ってきた.牛の肉を炭火で時間をかけて焼いたもので
,ジュウジュウと油をはねらせていた.黒人はそれを上手に,二人の前の銀の皿
に盛った.
ギュンダァーは,まだ顔のどこかに心配の影を落としている友に大丈夫だと示
すため,黒人の肩をたたき,話しかけるように大声で怒鳴った.
「来週の金曜日だ!」
ヴゲナーの目が,黒い顔の中で光った.
二谷のいる草むらへ転げるように突っ込んだ陸奥は,そのまま転がった体勢か
ら走る体勢に変え,そのまま草むらを突き抜けてしまった.
「おっ,おい!どこへ・・・.」
疾風のごとく,密林を駆け下ってしまった陸奥を捕まえもうとする二谷に,後
ろから声がかかった,
「二谷さん!!」
「おう,田熊さん,どうしたんだ,あいつ.」
「よく分からん.はぁ・・・中の奴らの会話を聞いてたら突然逃げだしてさ,そ
れで,はぁ,今駆けって,はぁ,来たのさ.」
「そうか・・・・・・.じゃ何か聞いたんだな.」
「らしいな.はぁ.言葉は陸奥君しか分からんが.」
「じゃぁ・・・・・・船へ戻るか.」
「そうしよう.」
二人も陸奥の後を,風のごとく追った.
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