AWC 再発表]《南シナ海上の武士》【3】 ひすい岳舟


        
#858/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 3/ 1  18:36  ( 89)
再発表]《南シナ海上の武士》【3】      ひすい岳舟
★内容
                          南シナ海上の武士(3)

  所は同じ島でも,もっと北のペリオンという港・・・・・・
  ペリオンは港というには相応しくない場所だった.なぜなら密貿易港であり,ラ・
ドウグ社一社の手によるものだったのである.切り立った入江の中に隠れるように
つくられた港ペリオン.そこでは中国人と黒人達が白人に物として扱われていた.
  その港のとある1室.
  4にんの黒人が話していた.
 「なぁ,君達二人は今日,あいつらと”魔王の道”を通るんだろ?」
  ヴゲナーはそう言いながら,窓の外で待っている白人を顎で指した.
 「あ,ああ・・・・・・.」
 「いくらで?」
 「銀貨  二枚」
 「ヴゲナー,この二人,そんな金で命がかかってんなんて・・・・・・.」
 「おう,そうだ.メゲェル.」
 「いったい,き,君達は・・・・・・.」
 「仕事を代わってやるよ.」
 「それも,金を全部君らに渡して.」
 「・・・・・・・・・.」
 「なぁ,いいだろう?」
  二人はしばらく相談し,くるりとヴゲナーに向き直った.
 「いいよ.」
 「ありがとさんよ.これで自由になれるぜ.」
  ヴゲナーとメゲェルの目は,希望に,毒々しく輝いていた.


  二日が経った.十一人の乗員が入れかわり立ちかわり作業したおかげで,ようや
く島に小さな小屋を建てる事ができた.そして当番も決まり順番に炊事,食料調達
薪割り,船の当直が賄われた.(当直の人気が非常に高かったけど)
  その日運悪く,食料調達係になってしまった陸奥,二谷,田熊の三人は,袋を担
ぎ,ジャングルの中へ入っていった.
 「ひゃぁ,かゆくてたまらんなぁ.」
 「二谷さん,なるべく草木に肌を触れさせないほうがいいですよ.かぶれますか
らね.」
 「あっ,あれは食べられそうですよ.」
 「蜜柑に似ちょるな.」
 「では,取りますか.」
  と,こんな調子でジャングルの中を歩き回り,果実などを取ってくるのが食料調
達の仕事だったのだ.
  出発して三時間.
 「おいこいつぁ・・・・・・.」
 「道じゃねえか.」
  三人がひょっこり出たそこには,一本の道がジャングルを貫いていた.
 「あ,二谷殿田熊殿!馬の足跡が!!」
 「と,なりゃぁ.」
 「誰か近くにいるぜ.」
 「だ,誰って誰ですか?」陸奥が不安がる.
 「よし,俺が前を歩く.次に陸奥君,後ろは二谷さん,たのむぞ.」
 「分かった.」
  三人は刀に手をかけ,辺りに全神経を配らせ,馬の蹄の跡が向いている方へと
ゆっくり足を進めた.
  ジッジッジッジッ.
  湿った地面とわらじが,ねちっこい音を立てる.
  ジッジッジッジッ.
  三人の歩調は崩れず.その動きは,まるで怒った時のかまきりの様.
  ジッジッジッジッ.
  三つの強力な精神の塊がう薄暗い密林の中を,警戒しながら進む.
 「・・・・・・・・・!」
  森は目の前で開け,そこから向うは広場のように草原が広がっていた.その中
心にあきらかに人工の物と分かるもの−−−−−−−丸太小屋があった.
 「どう・・・するか.」
 「私が思いますには,人間と接触した方が良いのではないかと・・・・・・.」
 「しかし,陸奥君,奴らが交戦的な原住民であるかも知れんのだぞ.」
 「二谷殿,あのような丸太小屋をつくる技術を持っているのでしたら,大丈夫で
しょう.それにあの煙突を見てください.」
 「煉瓦・・・だな.」
 「そうです.田熊殿.きっと,白人に違いありません.あそこの住民は!!」
 「分からんぞぉー.何でこんな密林の奥に家なんか建てたんだ?白人が?」二谷
が脅しをかけた.
 「白人には,別荘を建てるという習慣があると聞いたことがあります.」
 「では行くのか?」
 「いやいや,待て.もし仮りに白人だとしてもだ,何かの理由で攻撃してきた場
合,三人行って皆殺しに合うのも馬鹿だ.しかし一人じゃ心細い.で,二人で行っ
て,戦うことになった場合,残った二人は船の仲間に知らせるというのはどうだ?
」
 「よぉし,田熊さん,そいつはいい.私が連絡を取ろう.」どうも二谷は,小屋
に近つきたくないらしい.
「俺が白人だったら,こんな所こないで家で大人しくしてるだろうぜ.」虫をうる
さそうに払いながら,二谷が茶化す.
 「いこう.」
  二人は腰を低くし,柄をぎゅっと握りしめ,小屋まで一気に駆った.幸い,小屋
こちら側には窓は無く,1つトタンのドアがあるだけだった.
  陸奥が小声で尋ねた.
 「二谷殿,恐いのでしょうか」
 「・・・彼は我々が殺されたら,自分の命なぞ返り見ずに抜刀すると思うね.」
そして田熊は付け足した.
「それが薩摩武士だよ.」

.




前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 ひすい岳舟の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE