#846/1850 CFM「空中分解」
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★The Last Club Leader★5
★内容
今考えてみれば波多先生は何もかも分かっていたのだろう。であるから、わざと部長
を変えずに逆に私を補佐とさせたのだろう。(と、してはちょっと頼りなかったのだが
)そして、ワープロ出版してまで卒業記念をつくるのもやはり最後ということからなの
だろう。そして、生徒会が破格の援助金を出したのも肯けるわけだ。
しかし守山先輩は何故2学期のうちに話してくれなかったのだろうか?
ちょっと飛躍かもしれないが、老巧波多大先生はこの事実によってやる気を無くして
しまうことを避けるべく、先輩に口止めをしていたのではあるまいか。一方で、私達在
校生に極秘プロジェクトだとか何とかいって、先輩との接触を極力少なくしようと……
いやぁ、そんなことはないだろう。一つ一つあの先生がよかれと思ったことを順に実
行してゆくうちにそんなふうになったと考えるのが自然だろう。
ま、何にしても、ああやってなんも考えてないようで、大きな器のような深いところ
で私達を見ていて下さっていたことは間違いはないだろうな。
私はステージの横で、卒業生を見つめる老教師に感謝した。
「3年生の退場です、ご卒業おめでとうございます!!」
入場の時よりも増して大きな拍手が湧き起こった。3年生は花道を歩みながらその祝
福のシャワーを浴びながら一歩一歩終わりへ、いや新たなる途轍もなく大きな世界へ向
っているのである。
歓喜の顔が過ぎ去る中、守山先輩は部長就任をしたあの時の毅然たる顔でゆっくりと
こちらへやってきていた。列は戸からでるところで詰まってしまい、その速度は遅くな
ってきていたため、先輩は周りを見渡して私を発見することが出来た。
“先輩、私にはあのようないい奴らに言うことができません!!”
私と視線が合うと先輩は周りの人にも分からないくらいに僅かに頬笑んだ。そして、
ゆっくりと頭を下げたのである。
………あの時とまったく同じだ………
そのとき急に流れは早くなった。卒業生達は一挙に体育館から流れ出した。先輩もそ
れまでと同じように、流れに乗って歩いて行ってしまった。
私は入口に向かって自然に頭を下げていたのである。
「佐久間、佐久間!!」私は人の海から後輩を発見するとすぐ様摘み出した。「佐藤
はどうした?」
「私はアイツといっしょにいるわけでありませんぜ。」佐久間は冗談交じりに答えたが
、私の形相が物凄かったのだろう、すぐ様親身になった。「どうかしたんですか?」
「大切な話があるんだ。すぐに部室に連れてきてくれ。」
「しかし、SHRが……」
「責任は全て私が持つ!!」佐久間には別に怨みはなかったのだが、思わず怒鳴ってし
まった。「さぁ、行け!!」
SHRの後、在校生達は昇降口から校門まで道をつくるように並ばせられた。が、ほ
とんどが部活同志でまとまってしまった。私達文芸部は部室に行っていたため、一番校
門側に追い遣られてしまった。
「佐久間はまだかよ〜。」
「先輩、急に思いつくんですもの。後輩としては大変ですよ。」佐藤はそういって紙袋
をゴソゴソと振った。「買ってくるのにも時間はかかりますよ。」
「しかしもうそろそろ出てくるぞ。そら!!」
昇降口から第一陣が現れると、両脇の在校生の列がワッと崩れた。手には先輩に上げ
る贈物を持って、それを渡そうというのだ。花道っていったって、ちょっと出てこれだ
からまったく意味をなさない。昇降口のところですでに解散になっている状態だった。
「涙ぐましい光景ですねぇ。」私は校門のところからそれを眺めて独り言を言った。
それは来年度も存在する部にたいしてのひがみだったのかもしれない。そこへ、様子を
見にいっていた佐藤を自転車の後ろに乗せた佐久間が滑り込んできた。
「あったか!」
「はい。しかし、時期外れですよ。」佐久間はそうとう飛ばして来たらしく、息を弾ま
せていた。「……これ、文芸部の経費で落ちますかぁ〜?」
私はこの何気ない質問に対してなんて答えてたらいいか分からなかった。佐久間も決
してそんなつもりで言ったのではないのだろうが………。
「何いってるのよ、私達は赤穂浪士なんですからね!!」
「ほほぅ、では貴方が大石様でございますな!!」
「フッ!」佐藤のタイミング良い言葉によって救われた。みんな、部が無くなること
によって動揺しているのだ。明るそうな佐藤も、バカをやっている佐久間も、そしてボ
ケている私も………「さぁ、打ち合わせ通りにいくぞ!!」
「アイアイサー!!」「ワッカリマシタァ〜」
守山先輩は昇降口で私達を捜しているようであったが、いないと分かるとそのまます
ごすごと(肩を落として)独りで校門へと歩いて来た。途中、特別舎の部室のを2、3
度振り返ったが、そこにも私達の姿を見ることが出来ないので、とうとう諦めたように
小走りに校門へ向かった。
私達は校門の石垣の所に隠れていた。様子は窺っていたが、途中からあまりにも正面
から先輩がくるので足音で距離を予測するしかなかった。
ザッザッザザ………ザザッ!!
「よし、行け!!」私は校門のすぐ裏で砂がなった瞬間、佐久間の背中を押した。佐
久間はおもいっきり飛び出すと、すぐ様守山先輩の手を引いてきた。
「皆さん、どうも。」先輩は感情を押し込めているようで、そのためか言葉を選んで
いるようだった。「おかげさまで卒業することができ」
「だめだめだめだめ!」佐久間が、こめかみに親指を当てて薮にらみをした。「いゃー
ナンシーさん、うちの上さんもそうなんですがねぇ。どうなんでしょう、よそよそしい
挨拶をするんですよねぇ、女の人って。………あ〜そうそう、うちの上さんの話は20
年前のことなんですがねぇ。」
「あんた、全然似てないわよ!!」
「やったもんがちだからいいの!!」
「先輩、では」私がそう言うと、佐久間と佐藤は私と一列に並んだ。「これより第1
7代文芸部守山涼子部長“カッコ最後の部長カッコトジル”卒業歓迎式及び○○高校文
芸部解散の式をとり行います!」
「………」先輩の目は笑いながらも、液体が溜まり始めてきた。
「せぇーの!」「せっ!!」
パパパァーン!!守山先輩に向かってクラッカーを同時にさく裂させた。
「守山先輩!」と、佐藤優子!
「御卒業!!」と、私、橋本智樹!!
「おめでとうございます!!!」と、佐久間権象!!!
「次!解散の式!!」私は次にありったけの声を出すため、肺が痛くなるくらい息を
吹込んだ。
「ぐっどばぁぁぁぁぁぁい!ぶんげぇぃぶ!!」
先輩はその瞬間、一気に感情を噴き出した。卒業式のときから、いや、あの図書室
以来から、押し込むに押し込ませていたものが、先輩の顔をくしゃくしゃにし、髪を乱
れさせた。それは決して先輩だけの話でなく、3人の在校生も負けずおとらじの凄さで
破顔していた。
「先輩、ぐじゅ……【春再来】は……」
「あへ、そうだ……グズ……実は守山先輩、卒業記念に」私は紙袋からその青い本を取
り出した。「つくったんです。先輩の、ズビ………作品全部と我々のが入ってまフ。」
「コッコッコッこれっヒック………これ作るために部室がああだったのね。」先輩はな
きの顔に笑顔をミックスさせた。「あっあっあっグフ!……ありがと!」
「しかし皆さん、凄いデスギョ………」
「御前だってかなりのものたぜ……ズ!」
「橋本先輩なんか、鼻水まで出てやが……グゥッ!!出てやがる……グゥ!!」
「うるせー。感情が鼻まで通ってるんだよ。」
「キタナァーイ。」
「ナヒガキタナイモノカァ〜〜」
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“先輩、文芸部は見事に消えさりました。私は前からやっていたネットワ”
ークでの創作活動を続けております。佐久間と佐藤にはたまに会います
が、やつらもうまくやっているようです。先輩はどうでしょうか?
私は、文芸部を通して、貴方にいろいろと教わりました。いまとなって
はどれも楽しい思い出です。
やはり、型式ばったのはよそう!!
……守山先輩、いや守山涼子さん、わたっわっ私、私は、私は………
“ ”
FIN
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Byひすい岳舟