#845/1850 CFM「空中分解」
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☆The Last Club Leader☆4
★内容
私が体育館へ行く頃には、在校生の8割方が着席しているところだった。私はまだゴ
タゴタしている奴らに紛れてクラスの列へと忍び込んだ。
私のクラスは花道のすぐ脇であった。もうじき、ここを通って前の329席にそれぞ
れ着く人々が入場するのだ。その中には勿論、守山先輩も含まれる。(私には3年の知
あいは先輩以外いなかったのだが。)そう思うと、こちらまで何故か緊張してくる……
「こらぁ橋本」突如、担任の高野先生が出席簿でゴツンと私の頭をたたいた。「何を
遅刻しているだ。こうこう、節目節目こそが大切なんだぞ。授業がなくとも、しっかり
でなければ駄目だぞ。」
「はい………どうもすいません………」
「先輩は御前にはいないのか?」
「あ、います。」
「なら、なおさらだ。先輩の門出なんだからな。」
「………はぁ………」
担任はそんなことを言って列の前の方に行ってしまった。先輩の為だからこそ………
いや、言わなくて正解だったのかもしれない。辺にこじれるのもナンだろう。
3学期になってようやく本が実体化してきた。佐藤がブラインドタッチが出来るとい
う事実が発覚して、原稿打ちは3人で出来るなぁ〜と喜んでいると、なんと佐久間は私
と同じくパソコンを持っているのにも関わらず、カナの配列をまるで知らないではない
か!結局、彼には詩を打ってもらうことにして、私と佐藤で大部分の作品を処理する事
になった。原稿打ちを始めると、なんか本当につくれそうだなぁ〜という実感が湧いて
くるのである。
タイトルはいろいろ候補はあったのだが結局、【春再来】に決定した。まぁ、月並な
ものといってはそうなのだが、結構奇麗だということで採用したのである。
さて、3学期ともなると3年は家庭学習ということになって、登校日以外はこなくな
ってしまう。だから1/8の冬休み開け以来、私はまだ一回も守山先輩とはあっていな
いのだ。寂しい反面、プロジェクトをおおっぴらにできるようになって嬉しくもあった
。(先輩に、理由はなんであれ、隠し事をやっているというのはあまり気分の良い事で
はないではないか)
「3年生の入場です!!」生徒会副会長がアナウンスすると、体育館の戸が開けられ
た。そして、拍手と好奇の色が多少混ざった注目の視線の中に、プラカードを持った生
生徒会役員に率いられて卒業生が堂々たる姿で入ってきたのである。彼らはひとりひと
り違う表情を浮かべながらも、何かしら共通のものがあるように感じられた。それは、
はたで見ている私にですら伝わってくるものだった。それは在校生と卒業生の格段の違
いであり、この時点でたかだか1、2年早く生まれただけというものではなく、くっき
りとした違いが生まれているのである。
守山先輩も、やはりそんなような感じだった。先輩は緊張しているのか、多少青ざめ
て見えた。クッと前を見つめ、列に従って私の横を通過してゆく。今日は、たまに掛け
ていた深青色の縁の眼鏡をかけていた。大学に進む心構えからなのか。
やがて拍手もその勢いは衰え、卒業生の列も全て入場し終わった。在校生側の興奮に
満ちた空気がザワザワとうなっていたが、それもやがて厳粛なる空気によって静まって
いった。それを見計らって教頭先生がステージの壇上へ歩んだ。
「卒業生、在校生、全員起立!」体育科の西田先生が号令をかける。
教頭先生は我々生徒がたったのを見計らうと、
「第○○回卒業式を挙行いたします。」
と、言った。
3月6日
その日はひさびさに部活休止日にした。ちかごろ、魂をつめすぎていたし、佐久間が
新宿に行きたいといっていたのでついでにインクリボンを買ってきてもらうためにした
のだ。しかし、【春再来】の制作は決して時間的に余裕があるとはいえない状態なので
私はその日も部室で作業をしていた。部屋は原稿とワープロのプリントアウトした奴が
雪崩のように覆い、さらに印刷した紙群がその上に積もるのであった。はっきり言って
パニック寸前である。本当に9日までに上がるのであろうか。まぁ、上げなければなら
んだろうが………
「こんにち………うわぁ、凄いわねぇ。」なんと、先輩である。
「あ、先輩!!お久し振りですねぇ〜。」と、言いながら私は突如現れた守山先輩を部
室から連れ出した。「今日はどうしたんですか?」
すると先輩はちゃめっ気をあらわにした顔をした。「本当、あんなに部室がにぎやか
になって、どうしたのかしらね。」
まずい!これでは半年の苦労が……「いやぁ、学校の印刷機だけでは間にあわないん
んですよ。で、文芸部の印刷機も動員してやっているわけです。」
「大変ねぇ……」
「先輩はどうしたんです、急にやってきたりして。」
「……最後の仕事よ。」そういって先輩は図書室のドアを開けた。「実は橋本君に頼み
があるんですよ。」
「………はぁ………」
図書室はまったくもって閑散としていた。図書委員さえもいなく、入っていいのかと
思うくらいだ。その中に守山先輩はキッキッとした歩き方で、どんどん奥の方へ進んで
いってしまった。私もそれに(ちょっと情け無いが)ソソソーというような歩き方でつ
いてゆく。
先輩は奥の机に腰を降ろしたので、私はその隣の机に着いた。
「さてさて、先輩、なんでしょうかね?」私は周りがそんな雰囲気だったのでわざと
ふざけた。「なんなりとおっしゃってくださいませませ。」
「橋本副部長」それとは反対に、先輩は真剣な口調だった。私は逆の事をしてしまっ
たことをすぐさま恥た。「これは、2学期の時に決定していたことなのだけれども……
…」
「はい。」
「文芸部は本年度限りで」次の単語が出るまで、とてつもなく長い時が流れたように感
じた。「廃部となるのです。」
「………しかし、そんなことは……」
「だから波多先生は今年はワープロ出版になさったのよ。存続しないのにあまりお金を
使っても何でしょうし………本当、残念なこと。」
「た、確かに冗談やグチなんかでは言いました!!佐久間とのじゃれあいの時にも『ど
うせ、うだつのあがらねぇ部の副部長さ!』と言ったときもあります!!しかし、しか
し………納得いきません。」
「本来なら、来年こそ橋本君が部長だったのに………今年、私に任せるべきじゃなかっ
たのよ!!波多先生は!!」先輩の瞳がキラキラと輝き始めた。私も鼻がツゥーンとき
てしまった。
「そうだ、先輩、顧問さえいれば大丈夫じゃありませんか!!6人いればぶとして成立
するのですから、あと3人入れりゃいいんですから!!そうだそうだ!!」
「………波多先生は、今年で停年なのよ。」先輩は耐えられなくなったのだろう、うつ
むいてしまった。「どうしても、駄目なのよ………」
「………」私は唖然として、天井を見上げた。無数に穴開いた天井は無常にもただただ
青白くあるばかりだ。
「橋本君」
「はい。」
「頼みとは、このことを佐久間君と佐藤さんに伝えることなの。」
「………私には彼らに言うことは出来ません。」
「お願いします。」
「そういうことは、部長である先輩の口からいうべきではないでしょうか。それに」私
は感情的になっていた。「それに私だって、人間ですよ。自分が書いた数多くのヒーロ
ーならいざ知らず、私はそれこそひ弱・無能な人間なのです。私自身がこの事実を把握
していない、動転しきっているのに、奴らにこれこれこうだから部はなくなるよ、なん
て言えますか。」
「………お願いします………」
先輩はただ、それを繰り返すばかりであった。
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