#843/1850 CFM「空中分解」
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☆The Last Club Leader☆2
★内容
「お〜い、ホッチキスの歯がないよぉ〜ん。佐藤さぁ〜ん。」
「知らないわよ。先輩に聞いてよ。」
「橋本先輩、ホッチキスの歯がないんですがねぇ、どこにあるのでしょうか?」
「自分で考えろよ。……そこの机の引きだしにあるよ。」
「………あったあった!!」
「ほらほら急げよぉ〜、束はジャンジャンできているんだからな。佐藤!!」
「はいはい!!」
「印刷機の掃除なんかあとでいいから、こっちに来て佐久間の閉じたやつをノリを付け
てくれ。」
「表紙、付けちゃうんですか?」
「そう。あ、だけど5部だけ残しておいて。」
「……はぁ……?」
「よっし、後半分かっ!!佐久間っ、やり始めたかぁ〜」
「いまセットしたところっ!!」
「ノロノロやってんなょぉ〜。時間が押し迫ってきているぞぅぃ!」
「ほーい。」
夏休みに先輩から電話がかかってきた。
「原稿かいてる?」
「はぁ、ボチボチですが。締切ですか?」
「うううん、今日はスポンサーのことなんだけれど。」
「スポンサーとは?」
「あ、知らないのか………あのね、文化祭の時に発行する【褐色】は、活字出版するか
らとてもじゃないけれど部費だけじゃあ出来ないわけ。それを補うため、商店街の人に
スポンサーになってもらって、そのかわり宣伝を巻末に載せるの。」
「はあ………」
「それで今日やりたいのだけれども、学校に来てくれる?」
「はいはい、じゃこれからすぐに行きます。」
「橋本君市外でしょ?」
「そうですが、先輩は?」
「私も市外だから………そんなに急がなくて大丈夫だから。じゃ。」
私がすぐに愛車“ブルーサンダー”をこいで、駅に急行したのはいうまでもないこと
であり………
佐久間がホッチキスの空打ちをしてしまうというとんでもないハプニングによって、
作業が10分の間滞ってしまった。すでに8時を回っており、あと30分でLHRのた
め教室に引き上げなければならなかった。しょうがないのでそれまで打った139部に
糊付けをして製本することにした。
「あ〜、そんなふうにベトベトさせちゃだめなのよ。まったく、不器用ね。」
「佐藤女史、そんな風にいっちゃいけませんぜ。彼の立場がありません。」私はほうり
出されたホッチキスを顎で指した。「ね。」
「どうもすいませんでしたね!!」佐久間はわざとすねてみせた。「先輩もかなり昔は
ならしたそうで……守山先輩から武勇伝は承っておりますよ。」
「佐久間君、何がほしいかなぁ〜」
「え、何々!!先輩の失敗って!!」
「あのねぇー、文化祭の時に……」
「ぴあ2回!」
「決まり!!」
「あ〜、教えてよ〜」
「ビジネス成立ですね。」
「付け込みよってからに………。さっ急げ、急げ。」
こうやって後輩とバカ話をやっているうちにも時は流れていく。私に課せられた役目
もそれにつれて重くなっているようであった。
「これが!!」
私は、初めて自分の分が活字となったのに感動していた。そりゃ原稿を送ったのだし
、金も送ったのだから出来上がるのは当然なのだが、何だかワープロではないクッキリ
とした文字を見ているといまだに信じられない気持ちだった。
「やったぁ〜!やったぁ〜!!」
「活字になると、立派に見えるね。」守山先輩もやはり嬉しいらしく、さっきから自分
のところを開いたり閉じたりを繰り返している。「でも、これからね。」
「なにが、です?」
「これを読んでもらわなければ、意味がないでしょう。」
「………はぁ……」
「文化祭で販売するのだけれど、それだけじゃこの170部はあまってしまうから……
…」
「どうするんです?」
「神田、神田。」
「へ?」
「神田の本屋さんにね、うちの部と古い付き合いの店があるのよ。そこに置いてもらう
のよ。」
「なぁ〜る!!」活字にはなるわ、本屋にならぶわ、スンゴイ!!「本当の物書きみた
いだ!」
「こら!」急に先輩はきつい目で私を見た。先輩は普段でも大人みたいなので、こう
いったときは本当スクム思いである。「物書きには、本当も嘘もないのよ。」
「………」
「本当も、嘘も、」
「先輩、終わりました。」
「よし、行け。もうLHRだぞ!!」半ば後輩達を追い出す形で、教室へ向かわせた。
「先輩もいそがなくっちゃ、遅刻っすよ!!」
「これでも副部長なもんでね!点検してからでぃ。」
「しかし」
「大丈夫、コネはある!!御前達こそ、容量良く教室へ潜り込めよ!」
「はぁ〜い。」「がってんだ!!」
後輩達の消えたとたんに、部室が広くなった。思えば、ここに初めて来たときもこん
な感じだったなぁ。学校の影側に窓があるから青い光が差し込んできていて、妙に神聖
な気持になったっけ。そんときは誰もいなくて、図書室で物音がするまで待ってようと
でようとしたときに、守山先輩とはちあわせになったんだよな、確か。
私は自分の椅子を窓辺に引き、腰を降ろした。こちらの特別舎から見える教室舎の廊
下は、先生に幕したてられて教室へ入る生徒の姿でいっぱいだった。
早いものだ。なんにも、なんにもしないうちに過ぎてしまったような気がする。本当
に………
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