AWC トゥウィンズ・1 一章 (1/2) ( 1/24)


        
#820/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE     )  88/ 2/27  16:38  (197)
トゥウィンズ・1 一章  (1/2)  ( 1/24)
★内容
一章

「わあ、やめてくれよ。おい、やめろってば。」
 しかし、彼らは僕のこんな言葉に耳も貸さず、襲いかかってくる。両手を押え
られ、後ろに引き倒されて、あおむけになった僕の体の上に、彼らが数人乗っか
ってくる。
「いてっ! うわーっ。」
 思わず悲鳴を上げると、上に乗っていた連中が下り始める。しかし、これで終
わらず、次々に繰り出されるプロレスの技の数々。
「いてててて!」
 何とか連中から逃げたいんだが、なぜか足が動かない。
「なんだあ? その眼つきは。もっといじめて欲しいのかよ。」
 ちょっと僕が連中を睨むと、すぐにこんな言葉が飛び出してくる。
 そう、僕は、いわゆるイジメラレッ子だ。

 と、突然、誰かが助けてくれる。あ、健司だ。
「お前ら、いい加減にしろよな。弱いものいじめて何が楽しいんだ?」
 そう言いながらかばってくれる。僕はその場所から逃げようとして、あ、あれ?
足が動かない。
 動かない足を、なんとか無理やり動かそうとしたら、前につんのめって頭から
倒れて、床が目の前に近付いてきて……。
 ゴチッ! って音がして目から星が出た。気が付いたら自分の部屋。
「あっつ……。うー、いってえ。」
 痛みに顔をしかめながら、思わず頭をおさえる。
「あーあ、またかあ。」
 小学校の頃から中学三年半ばまで、ずっといじめられっ子だった僕は、今でも
時々こんな夢を見てはうなされる。
 だけど、部屋の真ん中で寝ていた筈なのに、何で部屋の隅にある机の足に頭を
ぶつけるんだ? この部屋、八畳あるし、部屋ン中も一応整理してあるから、よ
っぽど寝ぞうが悪くない限り頭なんかぶつけないし、それに僕は、そんなに寝ぞ
うが悪かった憶え、ないんだけどなあ。
 ちょっとだけ、そう思って、あ、一美……。
 そうかあ、夕べはお酒飲んで、そのまま二人で一緒に寝込んじまったから、い
つもみたいに部屋の真ん中には寝てなかったんだっけ。
 全くもう! 机にぶつけたのと二日酔いとで二重に頭が痛い。

 しかし、こんなことやってても話が進まないので、とりあえず自己紹介しとく。

 僕、中沢博美、十五歳、じゃなかった、えーっと昨日から十六歳だ。
 現在、高一。もう夏休みもじきに終わりだから、そろそろ夏休みの課題も終ら
せとかなきゃヤバい頃だ。
 でもって、今一緒に寝てるのは、中沢一美で、やはり昨日十六歳になったとこ。
なぜか僕の双子の姉貴をやってる。もっとも双子なんてたまたま先にこの世に出
てきたほうが上になるだけだから、今まで『姉貴』とか『お姉さん』なんて呼ん
だことはない。いつも呼び捨てにしてるんだ。
 あ、一つ誤解のないように言っておくけど、こんな年になってもまだ二人で仲
良く一緒の布団に寝てるって訳じゃないよ。普段は僕一人でここに住んでるんだ
からね。
 ただね、昨日はちょっとあることで一緒に酒飲んだもんだから、二人共そのま
まひっくり返ってバタン、キューって訳。
 で、未成年のくせに、なんで酒なんか飲んだのかっていうと、まあ、十六にも
なれば、やっぱりいろんな悩みって奴があって……。
 もっとも普通だったら、いくら悩みがあったって酒なんか飲んでウサ晴らしな
んてしないと思うんだ。ただねえ、僕の場合、ちょっとばかし普通の悩みじゃな
いんだよね。
 どんな悩みかってのを順番に話すと、小/中学校の頃からの話になるんだけど
……。

 中学の頃まで、僕は体が小さくて気が弱かったんだよね。それだけじゃなくて、
やはり双子ってのは似るのか、僕と一美は同じような顔つきなんだ。で、一美は、
どちらかってえと美人というか可愛い顔してるから、僕の顔はいまいち男らしい
顔じゃなかった。
 これが原因で小学校時代は随分と、からかわれたもんだ。
 ついでに言うと体の方もいまいちだった。と、いうのは、中学卒業前になって
も声変わりはしない、ヒゲもはえない、いわゆる男としての特徴が表れなかった
し、かなり痩せていて、しかもチビだった(今でも身長は140cm位しかない)
とくれば、もう完全にいじめられっ子タイプ。
 性格は、それほど卑屈じゃないつもりだけど、ちょっと内気だしね。
 それでも、一応バスケとか剣道をやって、なんとか背のばそうとしてたんだけ
ど、バスケでは結局、試合には出られなかったし(まあ、当り前だわな)、剣道
もなんとか二級までにはなったんだけど、まる二年半やっててやっと二級じゃど
うしようもないし、それに受験もあったんで、三年の半ばでやめた。
 しかし二年半も運動部にいた割には、以外と筋肉が付かなかったなあ。
 クラブ辞めた時はそう思った。ところが、辞めてしばらくしたら、胸部に余分
な肉が付き始めたんだ。最初は、クラブ辞めた反動だと思ってた。
 ほら、よくいるでしょ。陸上かなんかやってて体が引き締まってたのに、それ
を辞めた途端に変に太りだす奴って。だから、僕もそんなもんだと思ってたんだ。
 だけど実際はそんなもんじゃなかった。
 半年程前、そう、ちょうど高校入試の合格発表のすぐあとだった。このことが、
一体何を意味するのかが判ったのは……。そして同時に僕の人生を大きく変えち
まう事が起きたのは……。

 あの日、第一希望だった高校の合格発表があった。僕と一美は、それを見に行
って、一緒に合格してるのを見て喜んで入学手続きをして、その帰り道だった。
変に腹が痛みだしたんだ。
 そういえば、あの日は朝から少し変な感じがしてはいたんだよね。
 もっとも、痛むっていったって、ひどいもんじゃなくて、最初は下腹の方が少
し変かなっていう程度だったんだ。だけど、そのうち気分は悪くなってくるし、
なんか妙な感じになってきたもんで、うちへ着いたらすぐ、病院に行った。
 で、早速、診察してもらって。
 えー? そんなことってあるのお? なんて、思わず叫んでしまった。
 だって、診察の結果、ちょっと詳しい検査が必要だって言われて、検査したら、
こんどは手術の必要があるから入院しなきゃ駄目だって言われてちょっとアセっ
て、それでも一応、入院の手続きを済ませたら、いきなり個室に入れられたもん
で完全にアセった。
 普通はさ、入院するときって、相当重症でない限り、まず相部屋に入れられる
と思うんだ。これが手術かなんかした後なら個室に入るってこともあるだろうけ
ど。でも入院しただけで、まだ何もしてないのに、いきなり個室ってことは、そ
んなに重症なの?
 そういえば、ドアの外で、うちの親と一美が一緒に医者らしい人の話を聞いて
る。
 お袋はちょっと泣いてるようだったし、一美は一美で「えーっ? うっそお。」
なんて叫んで、そのまま絶句してるし、こりゃ本格的にやばいかな、なんて思っ
てしまった。
 そのあと、医者が部屋に入ってきて、僕の症状について、すっかり話してくれ
たんだ。
 それ聞いて、僕は完全にぶっ飛んだ。えーっ? そんなことってあるのお?

 なんでも、手術はとても簡単で、まず失敗する可能性無し。勿論命にも別状は
ない。手術後も、特に注意することはないといってもねえ……。ショックだった。
 でも、ほうっておけば、それこそ命にかかわるってんで、とうとう手術されて
しまった。
 ほんのちょっとした整形手術。ちゃんとした女になるための……。
 なんか、ごくたまにいるらしいんだ。もともと遺伝子的には女なんだけど、生
まれた時に性器が男みたいな格好してたために、男と間違われるっていう奴が。
でも、その間違いが中学の終わり頃まで判らなかったのは、それこそ珍しいこと
だとも言われた。
 まあ、前から自分でも変だとは思ってたんだよね。トイレに行くのも、ちょっ
と苦労だったし。
 でもって、僕の腹ン中には、一応、卵巣とか子宮とかってものがちゃんとそろ
ってて、それが生まれて初めて活動した結果、腹痛が起きて気分が悪くなったっ
ていうことらしいんだ。
(そういえば、手術後、初めて病院から出た食事は、なぜか赤飯だったなあ。)
 だから、胸部に肉が付いたのってクラブ辞めたのとは全然関係なくって、要す
るに女の子として成長しただけのこと。でも、確かにこれじゃ、相部屋で入院す
る訳にはいかないわな。

 この結果は当然のことながら、今度入学する予定になっていた高校にも知らさ
れた。高校側でも、えらく慌てたらしい。なにしろ前代未聞のことだろうからね。
 でも、別に性別を偽ってたって訳じゃないから、手続きのやり直しは必要だっ
たけど、それもなんとか入学式までには間に合って、しっかり女子高校生として
入学できた。
 しかし、いくら男らしくなかったとはいえ、生まれてから十五年と半年の間、
一応男として生きて育ってきたんだから、今更女の子らしい態度なんてできるわ
けないし、ましてや女の子らしくしたいとも思わない。それに男じゃなかったっ
てのは自分でもかなりのショックだったみたいで、そのあと誰とも、まともには
付き合えなかった。
 だってそうでしょ? いまさら男と友達になったって、向こうが友情のままで
終らせてくれないし(なにしろ元々男っぽい体格してなかったし、一美と殆ど同
じ顔してるもんだから、女の子として見たら結構かわいい部類に入ってしまうら
しい。そのせいか、夏休み前にも、二回程ラブレターをもらってる。)、だから
といって一応いままで男として育ってきた以上、僕は、女の子として男と付き合
うなんてこと、とてもじゃないけどできない。
 かといって女の子が相手では、こっちの精神が安定しない。だって、気持ちと
しては男なんだから、女同士の友情なんてできっこないし、それに女の子と喋る
のが昔から大の苦手。
 で、なんとなく卑屈な感じになってしまって、入学以来四カ月間、仲の良い友
達は一人もできず、そのまま夏休みを迎えてしまったって訳だ。

 確かに普通じゃないでしょ? でも、今更こんなことだけで酒なんか飲む気は
ないよ。だって、そんなことしてたら、それこそ酒びたりの毎日になって、肝臓
やられて命縮めるだけだし、それに酒飲んだからって、今更、気が紛れる問題で
もないしね。
 じゃあ、なんで酒飲んだかっていうと……。実は一美の奴、失恋したんだ。
 相手は沢田っていって中学の同級生。
 一美は結構可愛い方だし、沢田の奴は二枚目の部類だったから、はたから見れ
ば理想のカップルだったんだけど高校が違ったもんで、だんだん会う機会が少な
くなって……。
 あとはもう、お決まりのコース。なんでも沢田の方に新しい彼女ができたらし
い。
 それで一美は、ここ何日か沈み込んでたんだけど、元々暗い気分は好きじゃな
いし、それに昨日、八月二十五日は僕達の誕生日だったから、半分ヤケで、
「えーい、ついでだ、一美の失恋と、僕の普通じゃない悩みと、二人の誕生日に、
乾杯!」
 とか叫んで、こっそり持ち出しておいた親父のワイン、ラベルには黒猫の絵が
描いてあったんだけど、どこのワインだろ? とにかくそれを一本、僕の下宿で
封を開けて二人だけでカラにした。

「ねえ、博美、どうしたの? 大丈夫?」
 僕が頭ぶつけた音で、一美も目を覚ましたらしい。僕が頭を押えてることに気
付いて聞いてくる。
「うー、痛え。まったくもう……。」
 すると一美の奴、くすっと笑って、
「大丈夫みたいね。」
「多分、頭は大丈夫なんだけどね。ただちょっと見た夢が悪かった。」
「どんな夢見てたの?」
「いじめられてるとこ!」
 もう、いじめられてるとこなんて、思い出すだけで不機嫌になるんだかんね。
 そんな感じで少しぶっきらぼうに答えると、一美は一美で突拍子もないことを
言い出す。
「そういえば山口君達、どうしてるんでしょうね。」
 ああ、あのいじめに加わらずに僕を助けようとしてくれてた奴がいたっけ。
 山口健司と康司の双子の兄弟。僕達と同じく一卵性双生児。そういえば先刻夢
に出てきたな。
 彼らは空手をやっていて、しかもかなり強く体付きもがっしりしていた。もっ
とも、だからこそ僕をいじめている連中に一人でも立ち向かうことができたんだ
ろうけど。でも、とても有難い存在だった。
 ただ僕と一美は比較的成績が良かったためか、この辺でも結構いい高校に合格
できたし、それにこの学校には中学時代に知ってた連中はあまり来なかったこと
や、ここが僕達の第一志望だったこともあって、そのまま入学してしまったんだ
けど、山口兄弟は別の学校に行ってしまったので、中学卒業以来会ってない。
 でも、中学校時代の奴で会いたいなって僕が思うのは、あの二人だけなんだよ
ね。
 どうしてるかな? 久しぶりに会いたいな。中学時代ずっとかばってくれてた
し、いい話相手にもなってくれてたしね。

−−−− 続く −−−−




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