AWC RUN☆BATTLE  <5>   Fon.


        
#788/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ     )  88/ 2/18  19: 8  (138)
RUN☆BATTLE  <5>   Fon.
★内容

     「RUN ☆ BATTLE」   by 尉崎 翻
      ( 逆襲のシャル2 )

 舞台はさらに翌日の授業中に移る。
 数学の時間。普段なら工藤先生の授業のはずだが、今日はお休みということでめで
たく自習とあいなった。
 どこの学校でもそうであるように。自習とは休み時間の延長のようなものである。
 まともに自習をしている者など全体の一桁パーセントの状態である。
 普段ならば友人とでもトランプや花札をやっているはずの篠原だが、今日は違った。
 ずーっと肘を自分の机の上に置いて両手を組み、その上に顎を乗せた体制で考えて
いる。
 昨夜はなんとかリミと共に布団に入るという事態は避けた(高校生だからと、いい
わけして)。勉強に邪魔になるといって学校にまで付いて来ようとしたリミをなんと
か追い払って登校した。だが油断は出来ない。リミの事だ、いつ現われるかしれたも
のではない。
 それにしてもなんでこんな事態に陥ったのか。
−−−おれは悪いことは何もしていないんだっ!
 スクッと立ち上がる。あきらめが悪い。瞳の机の横にたどりつく。
「あ、あのぉ。草原さん?」
 瞳は机の上にちゃんと教科書とノートを広げ自習の態勢をとっていた。ノートには
指数関数のグラフが描かれている。
 篠原の声にピクリと反応して瞳がチラリと篠原を見る。
「失礼ですが、どなたでしょうか?」
 冷たくトゲのある返事であった。
「や、やだなぁ。篠原 淳に決まってるじゃないかぁ」
「篠原? わたしの記憶にそのような友達は前にも後にも、今後永遠に記されること
はありませんが」
 そういいながら瞳の手は指数関数の性質をノートに写していた。
「あは‥‥あはははは‥‥‥‥」
 泣き笑いのような声を篠原はもらした。瞳は全く篠原の様子に気がつかない、いや、
無視してノートの整理に集中していた。
「あのさぁ。草原さ‥‥‥‥」
 泣きすがろうとする篠原のセリフをかき消すかの如く爆音が響き渡った。
 発生地は後ろの黒板の辺り。爆発の煙が教室中を充満しクラス全員の視界を遮る。
 爆発のあおりで飛び散った花札やトランプ、紙麻雀がパラパラと空中を舞っていた。
「な、なにごとだ!?」
 騒ぎが大きくなる中で教室のスピーカーのスイッチが突如弾けるかのごとく入り交
響曲が流れだす、迫力のある低音を重視した曲だ。コントラバスの弦音が響く。同時
に窓に遮断物体が現われ周りが闇と化した。
 曲がクレッシェンドで進行していき、ffff(フォルテシシシモ)になり、クライマックス
となったときピカッと数個のスポットライトが空間に現われ一点を照らし出す。
 スポットライトに照らし出された中心に人がビシッと姿勢を決めて立っていた。た
だでさえ光る繊維の入った布を使用した服だ。ライトのおかげクリスマスツリーよろ
しくピカピカ光り輝く。
 ド派手な服とマントを着けたその姿はさながら黄金聖闘士。一歩間違えば場違いの
ピエロのようである。
 フッと、軽く笑いながら前髪を指でかきあげる。
「篠原 淳!」
 キッと目を開く。
「篠原 淳。 一年前のカリを返しに私は返ってきた! 正々堂々と勝負しろ!」
 ビシッと右手の人指し指を前に出す。しっかりセリフにエコーが入っていたりす
る。闇が消え元の教室に戻った。先程までモクモクと視界を奪っていた煙もきれい
に排除されている。全て「紅影」の演出効果の結果であった。
 ビシッと決まったシャルの指先の延長上に篠原の姿があった。
 クラス全員の視線も当然ながら篠原に集まる。
「お‥‥お前は‥‥‥」
 篠原の左手がゆったりと動きシャルを指していく。
「‥‥‥えっとぉ‥‥」
 左手がやり場をなくして宙で同じところをぶらぶらしている。
「‥‥ほ、ほらぁ‥‥‥」
 右手でこめかみをポリポリさせて、‘いま考えているんだよぉ’ポーズをとって
思い出そうとしていた。
「‥‥えっとさ‥‥‥あぁっそうだ!」
 篠原がポンッと手を打った。
 シャルがホッと軽いため息をはく。
「‥‥‥誰だっけぇ?」
 ドドドーン。見事にはずしたくずれかたが教室のあっちゃこっちゃで発生した。
 机と椅子がそこらじゅうに散乱する。
「ぎ、ぎざばぁー!」
 床からはいずり上がりシャルが篠原の襟を掴む。
「せっかくここまで盛り上げたものをすべてぶち壊しおってぇー!」
「いやぁ。悪りぃ悪りぃ喉あたりまで出かかってるんだけど」
 ブルブルとシャルの肩が震え怒りを必死にこらえ続けていた。
「ところで誰だっけ?」
「私はブラーン家次期頭主、シャル・ブラーンだぁ!」
 “忘れるな!今度忘れたらたたじゃおかないぞっ!”と、今にもいいそうな迫力で
あった。
「あ、そうそう、たしかシャル・ブラー‥‥‥」
 ハタと、気がつく。
 どこでその名を聞いたか。
 脳裏にその時の様子が浮かびあがった。
「お、お前はーっ!」
 今度は篠原がシャルの襟元を掴みかかった。
「今頃なにしに来たーっ!」
 篠原の手をふり払う。どうにか話しが進行し始めたようだ。
「聞いとらんかったのかーっ!一年前の決着をつけにきたのだ!」
「一年前だぁ?」
「そうだ。一年前のカリをだ。あの時は([参]RUN☆AWAY)貴様の卑劣な手
段によって敗北を喫したわたしだが」
「だれが卑劣だ!あのときは‥‥‥」
 パチッ。シャルが右指を弾く、一瞬のうちに「紅影」の三人娘が現われ早業で反論
しようとした篠原を取り抑えにサルグツワをし、さらにグルグルに縛りあげる。パラ
Cズ・ロープ。ロープ自体に動態があり、自動的に反応して物体を縛る代物であった。
「むぐ〜!むぐむぐぐぐぐ〜〜〜〜!(こらっ!何しやがるんだぁ〜!!)」
「しかし、私は一年前のわたしではないっ!今日こそはきっぱりと雌雄をけっしてく
れるわっ!そしてリミを奪ってみせる!」
 完全に演技に酔っていたりする。
「‥ぶわっ! あのなぁ!」
 なんとかサルグツワを外す。
「例の物をここへ」
「ハッ」
 篠原を完全に無視してシャルは「紅影」の一人へ命令をする。
 すぐさま「紅影」が動きその『例の物』を用意する。
 高さは1m程でキャタピラらしきものがついていた。直径10cm、全長70cm
位の筒がセットされており電子ランプが横に様々とついていた。
「三次元にはロシアンルーレットというのがあるそうだな」
 シャルが話す。
「これもそれと同じ理屈だ。6つの弾のうち1つのみ弾薬がセットされている。ちな
みに破壊力は‥‥」
 パチッ。
 ちゅどぉーん! と、シャルが指を鳴らすと同時にキャタピラの大砲が轟音と共に
発射され窓側の壁を全て消滅させた。
 ヒクッと篠原の顔色が変わる。
「覚悟はいいな!」
「よくないっー!」
 ヴィーンとキャタピラ大砲が回り出し篠原の方向を向き始めた。
 篠原を縛ったロープはしっかりと柱に固定されており身動きは出来ない。ほかの生
徒はまきぞえをくうものかとバタバタと逃げ出す。逃げ出したあと続きが見たくてし
っかり物の陰から覗いてたりする。
 ジタバタしている篠原に向けキャタピラ大砲の標準がセットされた。
 シャルの右腕がサッと上がる。
−−−フッ。さらばだ篠原よ。この大砲は特別に仕掛けがしてあり。確実に第一発目
に弾丸が来るようにセットしてあるのだ。
 とことん卑劣なやつであった。
−−−これでブラーン家の名に傷もつかず、堂々リミをわが手中に入れられる
 人前でなければ『わっはっはーっ』と、馬鹿笑いしそうな心境であった。
 高々と上げられた右腕を一気に振り降ろす。
 キャタピラ大砲の銃火装置が最後のストッパーを外し作動する、機械音が高まり電
子部品がオールグリーン(緑一色)を示す。発射直前。鈍く光始めた銃口がその輝き
を次第に増してゆく。暗い赤が黄に変化し白色系統に変わる。機械音、電子音と共に
最高潮に高まり遂には完全に白色化した。
 銃口の周りが熱で陽炎現象が起こり発射装置が作動する。
 カチャ‥‥‥‥‥‥
 絶対確実に間違いなく誰が作動させても一番最初に銃弾が発射される筈のキャタピ
ラ砲。
 それはなぜか発射しなかった。
                                 <つづく>




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