AWC 「ゲーム」は、お好き?


        
#779/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (WYF     )  88/ 2/16  22: 5  ( 49)
「ゲーム」は、お好き?
★内容
ぼくは還って来た。   ・・・・・何故だろう?
何故、死ななかったのだろう。
死んでも良かった。生き残ったことが、良いことだとは思えない。
他の誰かではなく、どうしてこのぼくが生き残ったのだろう?
何故、他の連中は死んだのだろう?
死ぬ理由が、生き残る理由があったのだろうか?

もちろん、誰が死んでもおかしくなかった。ぼくも死ぬと思っていた。
来る日も来る日も休息のない戦闘の日々が続き、泥の中で眠り、雨の中を行軍した。
後方の待機では、一日中酒を飲んでいた。乱痴気騒ぎをして、酔い潰れて
朦朧とし始めた頭で考えていた。

どうしてぼくはこんな処に居るのだろうか?
何故、ぼく達は、血を浴びながら、怯え、怒鳴り散らし、破壊し、
目をつぶってトリガーを引くのだろう? と。

ぼく達は、死ぬ理由を求めて殺した。殺すことで死ぬ理由が手に入ると思った。
殺し続けて、ぼく達は「殺人者」のように殺されることを、想った。
少なくとも死ぬ理由が必要だった。

国では、ニューヨーク・メッツが試合をし、ディズニーランドではミッキーマウスや
ドナルドダックが子供や恋人や老人を迎え、ラスベガスでは毎晩ショーが行なわれ。
夏のヨセミテでは、ボーイスカウトがキャンプをしていた。

ぼく達が国を出る前と何も変わらなかった。
ぼく達は、戦闘が義務であり、国の平和は余裕だと信じていた。
あそこでは、毎日何百何千と言う仲間や敵や子供や老人、あらゆる人々、生き物が
傷つき、死に、或は行方不明になっていた。
国には平和で豊かな生活があった。豊かな国の勝つことしか考えられない戦争だった。
ぼく達だって、休暇には専用機で安全な国のリゾートで過ごすのだった。

バスタブの中で眠っていた。熱い湯のせいでたっぷりと汗をかいていた。
ゆっくりと首を廻して手のひらで首の後ろを揉んだ。もう一度ゆっくりと首を
廻した。目を開けて手を見ると指の先がふやけていた。それが「脳みそ」に見えた。

頭を撃たれた仲間の、敵の割られた頭蓋から見える「脳みそ」だった。
じっと、ふやけた指を見つめていた。笑いが突然こみ上げて来た。
ぼくの下顎は、真横からの銃撃でなくなっていた。
ぼくは、身を捩って笑った。こんなにも笑えるなんて知らなかった。

あれは・・・。
ぼく達は、お人よしにも自分達が「戦争」をしていると思っていた。
命がけの殺し、殺される戦争をだ。しかし、ぼく達は何をしていたのか、
何をしているのかを知らない。

ぼく達は、戦争という名の「ゲーム」の使い捨ての駒だった。

                                            本多 拝





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