#766/1850 CFM「空中分解」
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夢について・・・ 翡翠岳舟
★内容
・・・いつしか僕は、朝もやの立ち込める芝生の公園に座っていた。日は昇る前
のようだったが、鳥達はすでにチュンチュンと朝の第1声を上げていた。
「ねぇ・・・」
ふと、横から静かな声がかかった。僕はそちらの方に首を向けた。そこには白い服
を着た女の人がルーズ・リーフを小わきに抱えて立っていた。年令は大学生くらい
か。姿は全体的に白くボワーとしているのに、靴だけが目の覚めるような深い青だ
った。
「あなたの横に座ってもいいかしら・・・」
「はぁ・・・」
彼女はスゥッと音もなく腰をおろした。よく見てみると、その細面の顔には似つ
かわしくない黒い太い丸縁の眼鏡をかけていた。が、なんというか、気品そのもの
は失われていないようだった。やはり、この眼鏡は彼女に似合っているのだろう。
「ここには・・・よく来るのですか・・・」
「さぁ・・・実はここがどこだか、分からないのです・・・」
「そう・・・」彼女の顔はどことなく物憂げであった。「・・・ここには名前は
ないわ・・・だってあったら・・・」
「だってあったら?」
「あったらそれは、その価値しかなくなってしまうのですもの・・・」
「なるほど・・・」僕は漠然と意味を捕らえることができた。「じゃぁ、お互い
に自己紹介をするのはやめましょうか?」
「そうですねぇ、そうしましょう・・・」彼女の目が静かに笑った。
「そのルーズ・リーフは何ですか・・・もし差し支えなかったら・・・」
「ああこれ、」彼女は初めて持っているのを気が付いたかのようにルーズ・リー
フを見た。「あっそうだ、これはね、今日出会う人にあげようともってきたんだわ」
「そうですか・・・」
「これにはね、私がここにきて書いた詩が書いてあるの・・・」
「詩は書けないんですけれど・・・好きです、読むのは」
「それはよかったわ・・・だって、押し付けてはせっかく出会った人に失礼です
ものね・・・」彼女はそういって僕のあぐらをかいている股の上にルーズ・リーフ
を置いた。
「どうもありがとう。」僕は彼女にお辞儀した。「今度、僕の書いたショート・
ショートを持ってきますよ・・・」
「まぁ・・・」彼女の瞳がガラスの奥でキラキラと輝いた。僕は生まれて初めて
瞳の輝きの奇麗さを知った。そのとき、僕と彼女の間に白いもやが・・・
コンコンコンという母がまな板を響かせる。ボンボン時計が7時をつげるのが、
気がついた。僕は朝日のまぶしさをさけながらむっくりと起き上がった。
″夢だったのかぁ″
だがまてよ。もしかしたら、寝ている間、そういった世界に行っていたのかもし
れないのだ。僕はそう考えたい。何故なら、忘れてきてしまったルーズ・リーフを
みてみたいからだ。
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