#762/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (UCB ) 88/ 2/14 1:36 ( 48)
リレーB>第20回 額のルビー KARDY
★内容
横たわるパームの死体を埋めてやりたいと、ジャンは思った。 だがそれは不可
能だった。 上には透き通った黒いツララ、壁は何で出来ているものか、賢者の剣
をもってしても傷すら付かない。 (あるいは、パームが生きていたら、傷くらい
は付いたかも知れない)と、無意味な想像をして、何やら空しい気分にすらなって
しまった。
光の方向に足を踏み出して、ジャンは足元に光る石を見つけた。 不審に思って
拾い上げてみる。
「これは! パームの....。」
ルビーだった。 パームの額のルビーだったのだ。 それは、トンネルの奥から
透けてくる白い光に反射して、意味ありげな光をゆらめかせていた。
ジャンは、ルビーをポケットに納めた。 いつか役に立つだろうから。
....少し後の事になるが、ジャンは芳岡の持つ賢者の剣に、パームのルビーが、
丁度ぴったりとはまるような、くぼみを見つける事となる....。
ジャンは、奥から透けてくる白い光に目をやった。 それから、パームに、そし
て、意識を失ってしまったらしい芳岡に、そしてまた白い光に。
そして、もう一度だけ、パームに。
「....さよなら、パーム。」
さよなら、パーム。 さよなら、パーム。 パーム。 パーム。
自分自身の発した声が通路の奥に響いて、何度も返ってきた。 ジャンの耳は反
響で破れそうになった。 瞬間、頭がキーンとして、ジャンはその場にうずくまり
たい衝動にかられた。 それを止めたのは、背中で薄く目を開いた芳岡が、つぶや
いた言葉だった。 日本語だった。
「パームが....死んだ。」
「芳岡はん....。」
今度は、英語で。
「パームが、死んだ....。」
「ええから、寝とりなはれ。」
「ジャンさん....僕は、本当に啓子を捜す事が、出来るんだろうか。 ....流
した血の量を償えるほどの事が....本当に、出来るんだろうか。」
「........。」
それは、君が劣等感を取り戻した時に、人間らしい素直でひたむきな心を取り戻
した時にこそ、かなうんだよ。
そう言っても良かった。 だが、今はジャンも芳岡も、難しい事を考える余裕は
無かったのである。
芳岡は、ふたたび意識を失った。
思いだしたかのように、また、あの得体の知れない音が、かすかに聞こえる。
ジャンは芳岡を背負って、光に向かって歩きはじめた。 ゆっくりと。
ジャンの頬に、涙が一筋、細い細い流れを作った。
パームはもういないのだ。
−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−
「様子はどうじゃ?」
「ババ様、またアナライザに反応が!」
つづく