AWC RUN☆BATTLE  <1>   Fon.


        
#755/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ     )  88/ 2/12   9:41  (150)
RUN☆BATTLE  <1>   Fon.
★内容

     「RUN ☆ BATTLE」   by 尉崎 翻
            (Back To The LIMI!)

「もぉー! 淳ったらなにやってんのよっ!!」
 場所は某JR駅前。
 ショートヘアの可愛こちゃんが小声で叫ぶ。
 草原 瞳。17才。現役バリバリの女子高生。
 「三由高校」の生徒であり、成績優秀、スポーツ万能で教師の評判も良い。
 既に彼女が駅前に来てから一時間が過ぎようとしていた。
 愚痴の一言も言いたくなる時間である。
 今日のデートは淳が申し込んだ筈だ。
 別に熱烈に淳が好きだったというわけではない。でもただの友達として、なんとな
くいつのまにかに付き合いだした仲である。
 悪い人じゃないし...やさしいし...
 気が付けばこれが『恋』なのかなっ? と、思う事もある。勿論そんな事は他人に
は言えないが。
 し・か・し。
 今の思考が全く別物であった。
「あの馬鹿!まったくなにやってるのよぉ!!」
 また小声で独り言。
 ノコノコ現われたら一発はひっぱたいてやるんだ!か弱い乙女を一時間近く待たせ
るなんて!ほんとにっ!!デートの約束なんてするんじゃなかった!なんであんな奴
とつきあってるだろ!!
 この調子である。
 先程、スポーツ万能と書いたが一つ書きわすれたことがあった。
 たしかにこの瞳ちゃんは運動神経が抜群である。可愛くて頭が良くて性格も明るい
し...ただし、この運動神経が問題だ。
 彼女の運動神経が発達しているのにはそれ相応の理由がある。
 それは幼き頃からあるスポーツをやっていたからであり、そのスポーツというのが
...『空手』なのである。
 とどのつまり彼女の家が空手道場をやっているのだ。
 おかげで悪い男の子が寄り付いたりいじめられた経験も皆無であった。同時に普通
の男の子も寄り付かなかったのだが...
 さて、瞳ちゃんの怒りが煮えたぎって来た同時刻。その元凶である『篠原 淳』が
何をしていたかを彼女は知るよしもなかった。

 ここで時間は一時間以上前に戻る。
 RUN☆シリーズの主人公『篠原淳』。
「さてと...財布は持ったし。髪もとかしたしっと...!」
 今日はデートだ。
 自分から誘ったデートである。一秒の遅刻も許されない。せっかく瞳ちゃんもOK
してくれた。機嫌をそこねては目もあてられないのだ!
 待ち合わせの時間まで、到達時間を考えても十分に余裕はある。
 ちょっと早いがもう出発してもいいだろう。
 玄関を降りて靴を履く。
 玄関の姿鏡で服装の点検。
 両手に拳を作り‘よっしゃぁ!’と、気合を入れる。
 まずは映画でも見よう!それから....
 考えながらドアのノブに手を置く。家族は今日はみんな出掛けている、鍵をかけな
くてはならないと思ってドアを開けながら鍵をポケットから取りだす。
 不幸は前置きもなしに突然やってくる。
 彼の場合もそれは例外ではない。
 ドアを開ければ目の前に不幸がいた。
「ハニー!」

                 バタンッ!

一瞬間を置き素早くドアを閉める。
 電光石火のごとく鍵を内側からロックしてドアに背中から寄りかかる。
 同時にノック音と声。
「ハニー! どうしたのよぉやっと地上にこれたのにぃ!」
 篠原の頬に冷や汗が伝わる。心なしか呼吸も荒い。
 無理もない。ドアを開けた瞬間に目の前に『にこっ!』として立っていたのは見覚
えのある。いやあるというよりも忘れようにも忘れられない。あの娘なのである。
 (参考→ 「RUN☆ONLY」「RUN☆AWAY」)
 ドンドンとノック音が何度も何度も繰り返される。ガチャガチャとノブが回される
音も続く。
「ねぇってばぁ! ハニー! 開けてよぉ!」
 反射的に両手で耳をふさぐ。
 −−−聞こえん!俺はなぁーんも聞こえんぞーっ!
 しかし考えれば現在の状況を維持していても親展がないのだ。ましてや今日は瞳ち
ゃんとのデートの日。左手首にはめられたデジタル時計が容赦なく待ち時間へのカウ
ントをとっている。
 かといってこの状態からドアを開け放し彼女から逃げおおす自信など全くない。
 正面突破は無理−−−ならば裏から。
 タダダッと階段を駆け上る。目標は玄関と反対側の窓。ガラリと開けてベランダに
下りる。柵を乗り越え屋根へと伝わる。一階の屋根から家のブロック塀までならなん
とか足が届く距離、但しバランスを崩せば転げ落ちるのは目に見えてる。慎重に素早
く。
 と、一歩踏みだそうとしたときにヌッと目の前に現われた。
「何やってんのぉ? ハニー?」
「のわっ!!」
 膝を抱えた態勢で頭を下にした形で浮かびながら篠原に話しかけたのだ。
 ライト・ブラウンの奇麗な髪がハラリとなびいていた。
 一方。
 急激な彼女の出現によって篠原は予想通りバランスを崩した。
 両手をグルグル振り回し屋根の端でなんとか落ちずに持ち耐えている。
「三次元人って面白いわねぇ...自分の婚約者と会うのに二階の窓から出入りしな
くちゃいけないなんてぇ」
 篠原の現在の状況も考えずに呑気な声で彼女が話しかけてくる。
「だっ!だれが婚約者だっ....とっとっと...あわっ」
 怒鳴り返したとたんに足と屋根とのバランスが崩れ万有引力の法則に従い地面に向
けて加速しはじめる。
 空中で手足をバタバタさせるが事態は変わらず次の瞬間地面に急激に接触した。
 上空の娘はパチパッと二,三回まばたきし、スーッと篠原の落下地点に近付いた。
「ハニー。それからどうするのぉ?」
「あ...あのなぁ....」
 もろに背中から落ちて言葉が出にくい。一息ついて叫び上げる。
「リミ! 誰が好き好んでこんなことするかっ!」
「わーっ!名前覚えててくれたのねぇ?さっすが私のハニーだわぁ!」
「だ、誰が誰のハニーだっ!」
 スッと人さし指を立ててリミはニコッとしながら篠原の顔を指してから自分の顔を
指す。
「勝手に決めるな!俺は君とフィアンセになった記憶はないっ!」
「なによぉ!人を傷物にしていてぇー!!」
 篠原の大声に負けじとリミも言い返す。
「き、傷物っー? ひっ人聞きの悪い事言うな! 俺がいつ何どき君を傷物にしたっ
ていうんだ!」
 リミが篠原の着ているジャージの首元を掴み、グイッと引っ張り上げる。
「なぁによぉ。ごまかすつもりーぃ?尻尾引っ張ったくせにぃ」
「おまーなぁ!たかがそれくらいのことで...」
「た・か・が‥‥?」 リミの両手に力が入る。それは必然的に篠原の首がしまる事
実へとつながる。
「たかがとはなによぉ!あたしにとっては、とーっても大事なことなんですからねっ!
いーぃ? 前にも言った通り、あたしの世界では初めて尻尾を引っ張ったひとと結婚
する習慣(ならわし)があるの。すなわち契りと同じよ! その初めての男(ひと)
がわたしにとってはハニーだったわけ。でもハニー。あたしの気持ちはそんな習慣だ
けの物ではないのよ、心のそこからハニーを想っているんだからぁ‥‥ 本当に長か
ったわこの四年間。毎日毎日、ハニーのことで頭がいっぱいだったの‥‥一瞬たりと
も忘れたことなんてなかったわ。だからぁ‥‥あれっ‥‥‥? ねぇ!聞いてるの?
ハニーってば!」
 いつの間にか篠原の顔色が青くなって手足もグタッとしている。気のせいか呼吸が
止まっているようだ。
「ねぇ!寝ちゃっただめよぉ!話し聞いてってば!」
「手‥‥手を‥‥‥」 ボールから空気がもれるような声で篠原がしゃべる。
「えっ?なぁに!?はっきり言ってよ!」 かすれる声でよく聞きとれない。
 はっきり聞こうとリミは前後に両手を揺する(やめろって‥)。
「手‥‥手を放せっ‥‥!」
 こん身の最後の力を振りしぼり篠原が言い放った。
 それを聞いてリミは初めて現在、篠原がどうゆう状態なのかを理解した。
「あ☆ あははは… ごめんなさぁぃ!(パッ!)」
 リミがいきなり放したためバタッと篠原の上体が地面に崩れ落ち、顎がアスファル
トに直撃する。
「あ‥‥あのねぇハニー。べ、別にわざとやったんじゃないのよぉ。ただちょこっと
話しに夢中になっちゃって‥‥‥ご、ごめんね! あらっ?」
 謝りながら視線を篠原に移そうとすれば、そこには既に篠原はいなかった。
−−−あれっ?
 あわてて周りを見渡しす。いつの間にか周りには10人程の人垣が出来ている。
「なんなんでしょうねぇ。いったい?」
「変わった痴話ゲンカですわねぇ?」
「若い人のやることは理解できませんねぇ」
  ヒソヒソヒソヒソヒソ
 右手を口元へもっていって、リミの顔がポッと赤くなった。
 リミはそのままスーッと飛び上がって5m位で停止。
 思い立ったように大声で叫ぶ。
「どこいったのよーっ! ハニーってばぁー!!」
 この路上で行なわれた口論が、地元のオバサンたちの口によって壮大な尾ひれをつ
けて街中へ広まるまでそう時間はかからなかった。
                                  <つづく>




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