AWC 落選>「バービーちゃん危機一髪」 クエスト


        
#714/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG     )  88/ 1/30  21:18  (169)
落選>「バービーちゃん危機一髪」 クエスト
★内容
 


 「ふう、やれやれ」
俺は仕事を終えてマンションに帰ると、ほっと一息ついてHA
システムのスイッチを入れた。
「ハイ、素人。お帰りなさい。お疲れさま」
「今日は、何にする?」
バービーちゃんが愛想よく俺を出迎えてくれた。
 バービーちゃんは俺の私設秘書、といってもペーペーの俺の
こと、どこかの社長さんのように本物の秘書を雇うわけにはい
かなくて、一種のコンピュータープログラムなのである。
 今やテレビ、オーディオ、パソコン、電話、ビデオなどのA
V及び通信機器は、HAシステムとして相互につながり一体化
している。
そして、複雑に絡み合ったHA機器を人間がいちいち操作する
ことはもはや不可能に近く、HOS(ホームオペレーティング
システム)が必要不可欠となっている。
 HOSは電器店でいろいろな種類のものが販売されていて、
最近はAI(人工知能)搭載のものが主流になっている。
 これは、ユーザーが手なずけていく(言葉は悪いが)ことに
より、臨機応変にユーザーの意志を察知してくれるようになる
という、不精な現代人にとって大変便利なものである。
 俺は自分のAI搭載HOSに「バービーちゃん」と名づけて
仕込んで、もとい教育してきた。
今では完全に俺好みの女、もといHOSになっている。
 「あ、そうだわ、秋山さんとテーラーさんからお電話があっ
たわよ。それから、ランディーさんからは電子メールよ」
「おや、そうかい。後でチェックしよう」
「わかったわ。じゃあいつものやつね」
心地よいフュージョンが部屋に流れる。
俺はシャワーを浴びた。
戻ると、何とバービーちゃんも裸になってディスプレイの中で
シャワーを浴びている。
「バービーちゃん、どうしたんだい。リトルコンピューターピ
ープルみたいなことして。」
「うふっ、私も素人さんと同じことしていたいの」
おーよしよし。本当にこの子は可愛いHOSだ。
(私は変態か。)

 秋山からの電話を見る。もちろんテレビ電話である。
むさ苦しい顔が映る。
「九重さん、今日は。ははは」
相変わらず人を食った笑い方だ。
「実は今度、HOSを入れ換えました。前のHOSは香港に売
り飛ばしましたよ。ははは」
ひどいことをするなー。
「新しいHOSはアーノルドといいます。女には飽きました」
「あ、勘違いしないで下さい。別にその趣味はないですから。
ははは」
アーノルドが俺とバービーちゃんに挨拶した。
「私がアーノルドです。ターミナルネッターともいいます」
何だそりゃ。
しかし、堂々たる体格のCG。
ふと見ると、ツインディスプレイの一つに映っているバービー
ちゃんが頬を染めてうっとりとしている。
俺はあわててアーノルドの画面を消した。
「バービーちゃん、どうしたんだい。君は俺のHOSなんだよ
。アーノルドは単なる秋山のHOS、プログラムさ」
「そっ、そうでしたわね。ちょっとかっこよかったけど」
せっかく俺好みに教育したというのに、秋山のHOS如きにう
つつを抜かされてはたまらない。

 しかし、その日以来、俺のバービーちゃんの様子がおかしく
なってきた。
 俺が仕事から帰ってもお出迎えの言葉が遅いし、段取りもい
い加減である。
BGMに「花街の母」を流すは、電話はろくに取り次がないは
、ビデオの留守録をさぼるは、夕食宅配サービスでドッグフー
ドを注文するは、もう無茶苦茶である。
 俺ははらはらいらいらしながらも、バービーちゃんのかって
の素晴らしい仕上がり具合を知っているだけに簡単に香港ジャ
ンク市場にも売り飛ばせず、対策を考えた。
 どうも秋山のアーノルドが原因らしい。
俺が留守中のHOSのチェックをすると、毎日のように秋山か
らのテレビ電話やメールが入っている。
俺はそれを覗いてみた。
あーびっくり!あーショック!
バービーがアーノルドの逞しい体に抱かれて...

 俺は怒り狂い秋山に電話を入れた。
「一体、あんたのアーノルドはどういうHOSなんだ。奴は俺
のバービーを手込めに...おーいおーい」
俺は涙ながらに秋山に訴えた。
「これはどうも、九重さん。実はアーノルドはアメリカで作ら
れたハッカーHOSのようです。私が迂闊でした」
「ハッカーHOS?」
「そうです。よその家のHOSを誘惑して自分に取り込んでし
まい、アメリカにいるハッカーのところへ連れて行ってしまう
という、とんでもないHOSだったのです」
「もうあなたの家にHOSはいないと思います。私の家からア
ーノルドが消えてしまいましたから」
「ええー!」
慌てて俺はバービーを呼んだ。
しかし、HOSシステムはうんともすんともいわない。
「やられた!」
ああ、バービー!バービーを手に入れるために俺はかなりのお
金を使ったし、それ以上に測り知れない思い入れが...

 しばらく俺は全て手動の原始的な生活を送った。
マンションはまったく火が消えたようだった。
しかし、俺にはバービーちゃん以外のHOSを導入する気には
なれなかったのだ。
 そして、俺は香港のジャンク市場に飛んだ。
目的は対ハッカーHOSを手に入れることである。
うさんくさく、危険なジャンク市場を彷徨うこと数週間、俺は
ようやく目的のHOSを探しあてた。
 そのHOSはジャッキーといって、カンフーの使い手だった
。きっとカンフー道場で使用されていたのに違いない。
俺はジャッキーを徹底的に教育して、最強の対ハッカーHOS
に仕上げた。

 「ジャッキー頼んだぞ。俺は君をこれから回線を通じてアメ
リカのHOSネットワークに送り出す」
「必ずバービーを見つけ、アーノルドを倒して帰ってこい」
「まかしといてください。ボス」
ジャッキーはひょうきんな顔で愛想よく笑いながら旅立った。

 数箇月立った。
俺はいつものように寂しく帰宅して、スイッチを入れた。
「ハイ、素人。お帰りなさい。お疲れさま」
「今日は何にする?」
バービーちゃん!バービーちゃんじゃないか。
俺ははらはらと涙をこぼしながら、ディスプレイににじり寄っ
た。
「素人さん、ごめんなさい。アーノルドに夢中になっちゃった
りして」
「でも、アメリカへ行けて楽しかったわ。うふっ」
バービーちゃんはいたずらっぽく笑った。
「それでね。これ、私とアーノルドの子供なの」
「ええー!」
画面から可愛い赤ちゃんが俺に笑いかけた。
そしてまた画面が変わり、見知らぬ男が映った。
「いやーどうも。私はアーノルドの産みの親のハッカーです。
名前はちょっと言えませんが」
「きっ、貴様ー!」
「貴方のバービーちゃんへの愛情の深さに私は打たれました。
このベィビーは私からのほんの贈物です」
「このベィビーHOSは画期的な機能を持っています。そして
あなたに大金をもたらすことでしょう」
 やれやれなんてことだ。
俺は安堵の溜め息をつき、椅子にどっかと座り込んだ。

 もう一つのディスプレイでジャッキーがにこにこと笑ってい
た。


                END.

























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