AWC 詩・ちょうどよい一日の終わりに 池野幸


        
#713/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (BHA     )  88/ 1/28  22:52  (124)
詩・ちょうどよい一日の終わりに 池野幸
★内容
    詩集 A DAY IN THE LIFE より

ちょうどよい一日の終わりに


 その1
窓のなかのおまえ


風のつよい日には風のなかを歩いた
僕のたましいは
丘の上にたち
ゆれうごく草のむこうの
道をさがしていた
僕はどこから来たのだろう
この風に吹きとばされてしまえば
いつか帰れるのだろうかと

耳をすますと
それはたくさんの言葉が
たくさんの口から
いっときにはきだされたみたいに
とびちってしまうのを
僕はおいかけたが
すぐにあきらめた

つよい風が吹くと
すべてのものから色彩が吹きとばされて
灰色の影だけが残った
影ではなかった
色彩をなくしうごめくものたち
まわりから声がおしよせるので
僕の心の中のなにかは
かたすみにおしやられ
広場には誰もいなくなった
それで
僕は
地べたに線を描いた

おまえは僕に名前をつけて
何度も何度も
その名前で呼んだ
僕は横顔を見せたまま
気持ちよさそうにとばされていった
おまえは
聞こえなかったのだ
と
思ったろうか


 その2
いつもこのままでいながら


おまえたちはどこへ行ってしまったのか
僕の心のなかに
ある言葉がうかんでくる
日々のくらしとはなんのつながりもない
その言葉を
僕は何日も
もしかすると何ケ月も
だきかかえて
疲れた顔をしながら
時々出してみる

まちを歩きまわりながら
さっきからずっと
なにか思い続けていたはずなのに
忘れてしまったのか
なくしてしまったのか
あまり軽くなってしまった心に
驚いてたちどまりそうになる
僕の目の前を
なにかがよこぎる
その時を待っていた
すぐにみうしなってしまう
ぼくはおいかけない

僕はふりむいて
僕のずっとうしろを見る
おまえたちはどこへ行ってしまったのか
おまえたちは
ひとりひとりが
僕をつれていってしまったので
いま僕は
ここにしかいない
おまえたちはどこに行ってしまったのか
おまえたちは
知らない人の顔になって
僕のまわりを歩いているのか

いま声を出したのはだれですか
いま誰にはなしかけようとしたのですか
僕の声を聞きつけて
驚いたかおして
僕の目をみつめる人を
さがしてみる


 その3
おまえがここにいた頃


みおぼえのある景色のなかに
みおぼえのある僕がいる
歩いているが
どこへ行こうとしているのか
見ている僕にはわからない
風景の左から右へ歩いてゆく
まっすぐ歩いているのに
円を描いている歩いているみたいに
いつまでも僕の目の前にいる
手をのばせばとどきそうに
低い空
ここは蓋をされている
光があたると
影がなくなる
なにもかもがとじこめられたまま
せまくなってゆく
田圃にひしめく稲は
うごかない
電線は鳴かない
犬は走らない





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